それは、「年配者ほど記憶しやすい」分野もあるということ。
語学学習を例にとってみましょう。人間の脳とコンピュータはよく比較されますが、学習のメカニズムは根本的に異なります。
例えばコンピュータに英単語を記憶させる際は、それが100語だろうと1万語だろうと、一つひとつの単語を記憶するスピードに差はありません。
もちろん人間の「記憶力」に比べれば超高速性能ですが、覚えるメモリメカニズムに変化はないのです。
しかし人間の場合は、覚えるスピードは加速していきます。
新しく英語を始めた10歳と、すでに英語知識がある60歳とでは、新単語を覚えるスピードは後者の方がずっと速い。
仮に単純な記憶力では10歳のほうが勝っていたとしても、そこには圧倒的な「経験」の差が横たわっているからです。
あなたがもし今60歳なら、流暢な英語が話せなくても、受験英語や、海外旅行で使ってきた英会話知識などがあるでしょう。
仕事で専門的に掘り下げてきたテーマなら、その分野特有の知識もあるでしょう。そうした土台を手掛かりに、新単語の意味の推測や、派生語の連想もできるはずです。
語学に限らず、こうしたシニアならではのメリットというのは、意外と少なくありません。
人間はいくつになっても学べる。そこに好奇心がありさえすれば。
自分の人生で未経験の新ジャンルを開拓するもよし、すでに知識の土台が備わっている得意分野を深めるもよし。臆せず、どんどん「脳への負荷」をかけていきませんか。
茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)
1962年東京都生まれ。脳科学者。ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。東京大学理学部、法学部を卒業後、同大学院理学系研究科物理学専攻課程を修了。博士(理学)。「クオリア(意識における主観的な質感)」をキーワードとして、脳と心の関係を探求し続けている。『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞受賞、『今、ここからすべての場所へ』(筑摩書房)で第12回桑原武夫学芸賞受賞。
※画像をクリックするとAmazonに飛びます
※画像をクリックするとAmazonに飛びます
70歳になってもボケない頭のつくり方