この記事は2022年12月23に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「世界インフレをもたらす複合的な要因」を一部編集し、転載したものです。
(米国労働省「消費者物価指数」ほか)
世界経済が高インフレに見舞われている。国際通貨基金(IMF)の予測によれば、世界全体の消費者物価は2022年末に9%に達する見込みであり、コロナ前の3%台から大きく上昇している。
先進国でもインフレが高進しており、各国・地域の物価統計を見ると、消費者物価の前年比は米国や欧州で7~10%に達しているほか、低インフレが続いた日本ですら4%近くとなっている(図表1)。先進国でこれほど激しいインフレが生じたのは、第2次オイルショック期以来、約40年ぶりである。
今回の世界的な高インフレは地域によって主因も異なる。欧州では、エネルギー価格の上昇がインフレを主導している(図表2)。脱炭素への取り組みが進む欧州諸国では、天候不順で再生可能エネルギーが供給不足に陥ると、エネルギー価格が上昇しやすい傾向にある。
最近では、ウクライナ問題を巡ってロシアとの関係が悪化しており、ロシア産資源の調達が困難となっている。この影響で、天然ガス価格が著しく上昇しており、光熱費の高騰を通じて消費者物価を押し上げている。
米国では、サービス価格の上昇がインフレを主導している。この背景には、住宅価格の高騰による家賃の上昇がある。さらに賃金の上昇で企業の労働コストが増大しており、この影響を強く受ける家賃以外のサービス価格も上昇している。
賃金上昇の背景には労働力不足があり、コロナ禍で早期退職に踏み切る高齢者の増加や、外国人労働者の流入ペースの落ち込みが労働供給を低迷させている。米国ではコロナ流行後の需要急増を背景に耐久財の価格が大きく上昇してきたが、最近ではその騰勢が弱まっており、インフレの主因は耐久財からサービスに移っている。
日本のインフレは、円安・資源高を背景とした食料やエネルギーの価格上昇に限定されており、それ以外の分野の価格上昇圧力は小さい。この点、日本のインフレは「輸入インフレ」の色彩が濃く、今後「国内インフレ」が生じるかどうかは賃金や家賃の動き次第といえる。
高インフレを受けて多くの中央銀行が金融引き締め政策を実施している。ただし、インフレの沈静化には、中央銀行だけで対応するには限界もあり、実現までには長い時間を要する可能性がある。
日本総合研究所 調査部 マクロ経済研究センター 所長/西岡 慎一
週刊金融財政事情 2023年1月3日号