この記事は2023年1月4日(水)配信されたメールマガジンの記事「クレディ・アグリコル会田・大藤 アンダースロー『デフレ構造不況脱却の力は設備投資サイクルにある』を一部編集し、転載したものです。

設備投資サイクル
(画像=安琦王/stock.adobe.com=

本年もよろしくお願いいたします。

デフレ構造不況からの完全な脱却に向けて、とても重要な年になります。

皆様のお力添えでリサーチ・スタイルを守りながら、日本経済とマーケットが長い闇から脱して、良い方向への転換点が迎えらえるように、引き続き全力を尽くしたいと思います。

目次

  1. シンカー
  2. デフレ構造不況脱却の力は設備投資サイクルにある
  3. 投資テーマには広がりが出てきた

シンカー

  • 設備投資サイクルが17%(実質GDP比)の天井を突き抜けることができれば、企業の期待成長率と期待収益率が上昇し、数十年来の転換点が来たことを意味する。株式市場はその上振れを評価し、デフレ構造不況脱却相場となり、大きく上昇することになるだろう。

  • 日本の設備投資サイクルには追い風が吹いている。金融・財政政策が拡張的であり続ければ、次のグローバルな景気の上昇局面で、日本経済がデフレ構造不況からの完全脱却を達成する可能性は十分あるとみる。

  • 海外要因による足元の物価上昇に惑わされて、政策当局が十分な構造的な回復を待つことの重要性を過小評価しないことを願う。

デフレ構造不況脱却の力は設備投資サイクルにある

日本経済の設備投資の実質GDP比(設備投資サイクル)をみると、1990年前後のバブル崩壊後、17%の天井をなかなか打ち破ることができないでいる。4回のサイクルがあったが、毎回17%弱の天井で頭を打って落ちることを繰り返している。

企業は将来のビジネスと収益が拡大すると予想するからこそ、投資を拡大する。バブル崩壊後、設備投資サイクルが低い水準で低迷していることは、企業の期待成長率や期待収益率が低いままであることを意味する。

株式市場は、企業の次の四半期の収益を予想するだけではなく、企業の期待成長率と期待収益率を取引する市場である。設備投資サイクルの低迷は、日本の株式市場の低迷とイコールであると考えられる。

日本の設備投資サイクルには追い風が吹いている。設備投資サイクルが17%の天井を突き抜けることができれば、企業の期待成長率と期待収益率が上昇し、数十年来の転換点が来たことを意味する。

株式市場はその上振れを評価し、デフレ構造不況脱却相場となり、大きく上昇することになるだろう。

この設備投資サイクルの上向きの力が、企業貯蓄率を異常なマイナスから正常なマイナスに回復させ、日本経済のデフレ構造不況からの完全脱却につながる。

投資テーマには広がりが出てきた

第四次産業革命を背景としたAI・IoT・ロボティクスを含む技術革新、デジタル・トランスフォーメーションという新しいビジネスモデル、遅れていた中小企業のIT投資、脱炭素への取り組み、老朽化の進んだ構造物の建て替え、都市再生、無形資産の拡大に向けた研究開発、そして新型コロナウィルス後の新状態への適応などの投資テーマには広がりが出てきた。

コロナショック下でのIT技術の活用の経験もイノベーションを促進するだろう。経済活動が回復してくれば、労働需給のひっ迫で、生産性と収益率を投資によって向上させる必要性が強く意識されるだろう。

サプライチェーンの頑強性とエネルギーの確保が課題となり、権威主義国への依存の解消を含めた経済安全保障も大きなテーマとなってきた。円安も生産拠点の国内回帰を促進する。

企業の新たな商品・サービスの投入が消費を刺激する好循環の中、グリーンやデジタル、先端科学技術、人材育成などのニューフロンティアを拡大する政府の成長投資を含む経済対策の効果が強くなるだろう。

金融・財政政策が拡張的であり続ければ、次のグローバルな景気の上昇局面で、日本経済がデフレ構造不況からの完全脱却を達成する可能性は十分あるとみる。

海外要因による足元の物価上昇に惑わされて、政策当局が十分な構造的な回復を待つことの重要性を過小評価しないことを願う。

図:設備投資サイクルと企業貯蓄率

設備投資サイクルと企業貯蓄率
(画像=出所:日銀、内閣府、クレディ・アグリコル証券)
会田 卓司
クレディ・アグリコル証券会社 チーフエコノミスト
大藤 新
クレディ・アグリコル証券会社 マクロストラテジスト

本レポートは、投資判断の参考となる情報提供のみを目的として作成されたものであり、個々の投資家の特定の投資目的、または要望を考慮しているものではありません。また、本レポート中の記載内容、数値、図表等は、本レポート作成時点のものであり、事前の連絡なしに変更される場合があります。なお、本レポートに記載されたいかなる内容も、将来の投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。投資に関する最終決定は投資家ご自身の判断と責任でなされるようお願いします。