この記事は2023年1月25日(水)配信されたメールマガジンの記事「クレディ・アグリコル会田・大藤 アンダースロー『日本の政府の負債残高は小さすぎて財政余力は巨大』を一部編集し、転載したものです。

増税
(画像=chaiyasit/stock.adobe.com)

目次

  1. シンカー
  2. 日本の財政政策のガラパゴス(謎)・ルール
  3. 低成長のベースラインケースの内閣府試算
    1. 税収の試算
    2. 財政の試算

シンカー

  • 日本の財政政策は、ガラパゴス(謎)・ルールが多く、グローバル・スタンダードへの構造改革が非常に遅れ、日本経済の大きな負担となっている。

  • 財政政策の構造改革の遅れが、内閣府の財政試算の間違った解釈を生み、過度に緊縮的な財政政策という大きな負担を生んでいるようだ。

  • 低成長のベースラインケースでも、財政収支は2026年度から2032年度にかけてわずか0.1-0.3%(GDP比)の赤字に安定化することが示された。

  • 成長通貨を供給するための財政支出を考慮すれば、まったく問題がない水準となる。

  • 2027年度の税収は、2022年度の当初の想定から9.2兆円も増加することになると推計できる。

  • 2027年度までの税収の増加幅が、防衛費の倍増に必要な4-5兆円程度を十分に上回っている。

  • 増税を織り込まなくても、2027年度の財政収支の赤字は十分に小さく、内閣府の財政試算では低成長ケースでも増税は不要であることを示したと言える

  • グローバル・スタンダードではなく、ガラパゴス(謎)・ルールである異常な国債60年償還ルールを撤廃し、債務償還費を歳出から落とすことで、防衛費とこども予算の倍増に充てることは可能であろう。

日本の財政政策のガラパゴス(謎)・ルール

内閣府は中長期の経済財政に関する試算を公表した。楽観的な成長実現ケースでも、2025年度まで基礎的財政収支の赤字が残ることが問題視されているようだ。民間はグローバル・スタンダードに合わせる構造改革を必死に進めてきた。

一方、日本の財政政策は、ガラパゴス(謎)・ルールが多く、グローバル・スタンダードへの構造改革が非常に遅れ、日本経済の大きな負担となっている。 財政政策の構造改革の遅れが、内閣府の財政試算の間違った解釈を生み、過度に緊縮的な財政政策という大きな負担を生んでいるようだ。

図:日本の財政政策のガラパゴス(謎)・ルール

① 国債の60年償還ルール:グローバルには国債は事実上永遠に借り換え
② 単年度の税収中立の原則:グローバルにはかなり長期の複数年度
③ 生のプライマリーバランスの黒字化:グローバルには景気動向を考慮したPB
④ 裁量的歳出にまでペイ・アズ・ユー・ゴーの原則:グローバルには義務的経費のみ

出所:クレディ・アグリコル証券

グローバルには、景気を考慮した構造的な基礎的財政収支の赤字を無くすことを目標にすることが一般的だ。景気が悪い時には赤字が許容され、景気が良好な時に赤字が残っていれば、構造的な赤字を解消する必要があるという考え方だ。生の基礎的財政収支の黒字化を、しかもいつまでにというカレンダーベースで目指すことは、ガラパゴス(謎)・ルールの典型だ。

低成長のベースラインケースの内閣府試算

経済が足元の潜在成長率並みに将来にわたって推移する低成長のベースラインケースでも、財政収支は2022年度に8.8%(GDP比)の大きな赤字であったのが、2026年度から2032年度にかけてわずか0.1-0.3%(GDP比)の赤字に安定化することが示された。

財政基準が厳しいと言われるドイツは、法律で不況時や非常事態(ルール自体を停止)を除き、財政収支の赤字を原則的に0.35%以内に収めることになっている。日本もその基準を満たす試算となった。

図:低成長のベースラインケースの内閣府試算

低成長のベースラインケースの内閣府試算
出所:内閣府、クレディ・アグリコル証券

経済は成長にともないより多くの通貨を必要とする。この成長通貨の供給のため、日銀は、量的金融緩和以前にも、年間で4.8兆円の国債買い入れオペを行っていた。

成長通貨の供給のために日銀が買い入れる分は、政府による国債の発行と支出が必要になる。財政収支が1%未満であれば、成長通貨の供給のため、全く問題がないと考えられていたことになる。内閣府の試算では、低成長のベースラインケースでも、その範囲内に安定化することが示された。

税収の試算

税収は、2022年度の68.4兆円から2027年度には72.7兆円まで増加する試算だ。2022年度の後半の税収の増加ペースは第二次補正予算編成時の想定よりも強く、2022年度の税収は73.3兆円程度まで上振れることが見込まれる。それを基準とすると2027年度の税収は77.6兆円程度となる。2022年度の予算の想定から9.2兆円(77.6兆円‐68.4兆円)も増加することになると推計できる。

この内閣府の試算には、政府が決めた今後5年間で43兆円程度とした防衛費の増額の計画は織り込まれている。一方、防衛費の増額のための法人税などの増税は織り込まれていない。2027年度までの税収の増加幅が、防衛費の倍増に必要な4-5兆円程度を十分に上回っている。そして、増税を織り込まなくても、2027年度の財政収支の赤字は十分に小さい。

財政の試算

内閣府の財政試算では低成長ケースでも増税は不要であることを示したと言える。

グローバル・スタンダードではなく、ガラパゴス(謎)・ルールである異常な国債60年償還ルールを撤廃し、債務償還費を歳出から落とすことで、防衛費とこども予算の倍増に充てることは可能であろう。

その場合でも、財政収支の赤字は許容範囲の1%程度だろう。実際には、税収の試算はGDPに対する弾性値を含め、下方バイアスを持っていること、そして企業の貯蓄行動による構造的なデフレ圧力を考えると、財政への負担はより小さいとみられる。

会田 卓司
クレディ・アグリコル証券会社 チーフエコノミスト
大藤 新
クレディ・アグリコル証券会社 マクロストラテジスト

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