この記事は2022年9月30日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「経済激変の原因は「財政依存体質」」を一部編集し、転載したものです。


経済激変の原因は「財政依存体質」
(画像=ipopba/stock.adobe.com)

(IMF「World Economic Outlook」)

足元では、物価上昇をはじめ、各種経済状況がここ数十年で例を見ないほど激変している。こうした状況変化の直接的原因は、コロナ禍やロシアによるウクライナへの軍事侵攻だが、それだけで説明することは難しい。

大きな要因の1つに、各国の経済の「財政依存体質」という問題があるのではないか。コロナ禍での各国の政府支出は尋常ではない規模となっているが、それ以前から財政依存は続いている。今回から3カ月間、規律を失った財政拡大を起点とする「マネーの膨張」が各所に与えている影響について分析していきたい。

主要国の中で、最も古くから財政依存状態となったのは日本である。1990年代以降、バブル崩壊によって日本は経済の低迷に苦しみ、その打開策として大型経済対策を次々に打ち出して政府支出を拡大させた。加えて1997~1998年に金融危機が発生し、金融システム維持のためにも財政を活用した。

その結果、金融危機からは脱したものの、経済状況の改善ははかばかしいとはいえない。基礎的財政収支(プライマリーバランス)も1993年以降、赤字が続き、財政依存は常態化している。国債発行残高は積み上がり、第2次世界大戦直後の国債発行残高(対GDP比)をも上回る水準に達した。世界的にも突出したレベルで、今も上昇を続けている。

他の主要国が財政に依存するようになったのは、2008年のリーマンショックの頃からであろう。当時、各国の中央銀行や政府は1990年代の日本と同様、財政によるさまざまなサポートで金融システムを維持した。低迷する経済を回復させるための大型経済対策も実施し、政府支出を拡大させた。危機の発生源である米国では、基礎的財政収支がマイナス11%を超えた(図表)。象徴となったのが中国の4兆元(当時のレートで約57兆円)の景気対策で、「この対策は世界を救った」とも評価された。

しかしそれ以降、各国は日本と同様に財政依存から抜け出せないまま、今日のコロナ禍を迎えたと思われる。政府支出や経済対策で各国の成長力が回復・向上するのであればよいが、そうはなっていない。また、政府支出を裏付ける他の歳出削減や歳入増(増税)も不十分であるため、各国の国債発行残高が膨らんでいる。

発行した国債はいずれ返済しなければならない借金である。その借金を現役世代が返済しないのであれば、将来世代が返済負担を負うことになる。政府支出が将来の成長力を押し上げる効果があればよいが、支出しただけで終わるのであれば、単なる「利益の先食い」に終わってしまう。政府支出の拡大は無限に続けられるものではなく、いずれ反動が来る。今日の経済状況の変化は、その兆しかもしれない。

経済激変の原因は「財政依存体質」
(画像=きんざいOnline)

三菱UFJリサーチ&コンサルティング 主席研究員/廉 了
週刊金融財政事情 2022年10月4日号