本記事は、稲村悠氏の著書『元公安捜査官が教える 「本音」「嘘」「秘密」を引き出す技術』(WAVE出版)の中から一部を抜粋・編集しています。
信頼関係を築くステップ
相手と会う前の準備をする
まずは「基調」で相手を知る
あなたが距離を縮めたいと思っているのは、どんな人でしょうか?
取引先の担当者のように、あまりよく知らない相手? あるいは、会社の同僚や上司・部下、同じ学校の先輩など、すでに面識のある相手でしょうか?
いずれにせよ、その人のことを知りたいと思ったら、まずは「基調」が役に立つはずです。
職場や学校など、あなたと同じ組織に属する人に関する情報なら、よく知る人から評判を聞くのが一番です。
同じ部署だった人に「△△の準備をする関係で、○○さんのことを聞きたいんだけど、どんな人か知ってる?」と聞いてみる。
あるいは、同期入社の人に「○○さんって、□□□に詳しいの?」と話題をふってみる。
ここでのポイントは、いきなり評判を聞かない、ということです。
業務の話から入って、人となりや性格の話題が出たら広げていく……という流れです。
相手が怪しまないように、「やむを得ず連絡をとらなければならない」「興味はないけど、一応聞いてみた」という
また、一度にすべての情報を入手しようとしないこと。
たとえば、ある人から、「あの人、すごくせっかちなところがあるからね。ああ、そう言えば関係ないけどさ……」と言われたら、話題が移りそうになっているので、どんなに追加の情報がほしくても、そこでいったん切る。
そして、他の人から新しい情報を入手する、という具合です。これを徹底しないと、「あなたが興味を持って聞いていた」という報告が、本人の耳に届いてしまうかもしれません。
よく知らない人や話したこともない人で、違う組織の人であれば、事前に得られる情報はオープンソースに限定されます。まずはネットで検索してみること。ネット情報にもさまざまなものがありますが、やはり多く情報が得られるソースとなると、SNSでしょう。
その人がアカウントを持っており、何度か投稿をしている人なら、趣味嗜好、交友関係、プライベートなど、豊富な情報がアップされているはず。
取引先の担当者に小さなお子さんがいることがわかれば、手土産を選ぶ際に、その情報を活かすことができます。子どもが好きそうなキャラクターのお菓子を持参すれば、「ああ、これ、うちの子がほしがってたんだよ!」と喜んでもらえるかもしれません。
気をつけたいのは、「基調」をしただけで満足してはいけないということです。
あれこれ調べ尽くし、相手のことをよく知ると、その人との距離が縮まったように錯覚してしまうことがあるのです。この点は、よくよく注意しなければいけません。
とくに、趣味や好きなもので共通点があるとわかれば、一気に相手に対する親近感がわくでしょう。でも、それは基調した側の感覚にすぎず、実際には相手との心理的な距離は1ミリたりとも縮まっていないのです。そこで勘違いしてしまうと、いきなり慣れ慣れしい態度をとって、相手を遠ざけることにもなりかねません。
まず、「その情報を、
店選びは自分自身で
相手と一緒に食事をする機会が得られたら、次のステップは「店選び」でしょう。
このとき、「店選び」は自分から買って出てください。状況を考えれば、あなたが店を選ぶことになるでしょうが、とにかく場所の選択を相手に委ねてはいけません。
部下や後輩が相手の場合、「適当に決めておいて」と言ってしまいがちですが、お勧めしません。その相手と心理的な距離を近づけたいなら、自分が主導権を握ることを心掛けましょう。自分で店を決めれば、こちらのコントロール下で会食を進めることができるからです。
このときも、「基調」で得た情報が役に立ちます。
相手が寡黙で物静かな人であれば、音楽がガンガンかかるようなにぎやかなお店は好まないでしょう。逆に、おしゃべりで明るい人と静かなお店に入っても、居心地の悪さを感じさせてしまうかもしれません。
また、会食の「目的」によっても、店選びは変わってきます。
単に仲良くなりたいのか、連絡先を聞きたいのか、悩みの相談なのか……。
お金や病気の話をするのに、騒がしい店を選ぶのは不適切です。
また、事前にリサーチをしておかないと、
「隣のテーブルとの間隔が近くて、落ち着いて話せなかった」
「学生客が騒がしくて、相手の言葉を何度も聞き返してしまった」
ということもあります。そうした失敗を避けるためにも、どんな場所に相手を招き入れるかは、あなた自身が責任を持って選び、主導権を握っておくべきなのです。
相手のテリトリーに入り込む
会食の場所を選ぶとき、働いている場所の近辺のほうが便利だと思いがちです。
しかし、私の経験上、人は自宅に近いほどリラックスして心を開きやすい傾向があります。
ですから、相手の住まいにアクセスしやすいスポットにある店を選ぶのが理想的です。
では、面識のない相手だったら、どうするのか?
最寄り駅がどこなのかが、そもそもわかりませんよね。そういうときは、「基調」で得た情報が役に立つでしょう。たとえば、相手がTwitterにこんな投稿をしていたとします。
○○線がドア点検?で完全にストップ。午前中の会議には間に合わないな〜
相手が使っている路線がわかったら、その沿線にある比較的大きな駅を会食場所に設定するとよいでしょう。
それでも、相手は「なぜ、ここで?」という疑問を持つはずです。
いきなり自分の生活圏内の場所を提案されたことに驚いて、「◯◯駅によく行くんですか?」と尋ねてくるかもしれません。
ここであなたは〝偶然〞を装います。
もちろん、「Facebookの投稿を見たら××駅にお住まいだと知って」と言うのは、NG。
そんなことをしたら、「そこまで調べてるの?」と最大限の警戒アラートを出されてしまいます。ここは「実は土地勘があるんです」と言えば、相手は意外に思いつつも、「偶然」を面白がってくれるでしょう。
それにしても、なぜ、こんなことをするのでしょう?
それは、自分のテリトリーに縁があるという「共通点」から、相手に親近感を抱いてもらうためです。
不自然でない理由を考えるにはそれなりの工夫が必要ですが、うまくハマれば相手との距離を一気に縮めることができるのです。
あらかじめ現地に行っておく
ここで、みなさんにぜひやっていただきたいことがあります。
それは、会食場所に設定する街には事前に足を運んでおく、ということです。
「過去に何度か遊びに行った」と話したのであれば、相手はきっと興味を示して、
「じゃあ、駅前にある◯◯は知っていますか?」
「商店街にある◯◯ってラーメン屋さん、いつも行列ができていますよね?」
という話題が出るかもしれません。そんなとき、リアリティのある会話をするためにも、実際に現地に行ってリサーチしておくのです。
この行動には〝嘘〞を避けるという意味合いもあります。
「学生時代に遊びに行ったことがあるので、よく知っている」と言えば嘘になりますが、足を運んでおけば、「行った(=土地勘がある)」ことにはなる、というわけです。
ところで、なぜ、嘘をついてはいけないのでしょうか?
嘘をつくという行為は、とても大きなエネルギーがいります。
ついた嘘を隠すために、別の嘘をつくことになり、さらにそのストーリーを維持するために、多大な労力が費やされます。みなさんも、自分がついた嘘に苦しめられたことがあるのではないでしょうか。
「任務」であるならともかく、日常生活において必要のない嘘をつくのは、罪悪感という名のストレスを抱えることになるでしょう。
また、嘘をつくと、バレるのではないかという不安がつきまといますから、それが必ず表情に現れます。そして、その表情を読み取った相手も、「この人は嘘をついているのではないか?」と不安にさせてしまう。これも嘘の罪です。
「嘘をつかない」という行動指針は、私自身が固く守ってきたルールでした。
相手の趣味を聞き出したあと、「え!? 実は私もなんです」と話を合わせるのですが、翌日から必死に練習(勉強)して、次に会うときには、すべて「嘘」を「本当」にしていました。
そのために、やったこともないのにゴルフをしたり、筋肉痛になりながら登山に出掛けたりと、何度も大変な思いをしたことがあります。
しかし、これを実行すれば、ごまかそうとして焦ることもないので、気持ちが安定したままコミュニケーションに専念できるのです。