本記事は、稲村悠氏の著書『元公安捜査官が教える 「本音」「嘘」「秘密」を引き出す技術』(WAVE出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

沈黙,会議,ビジネス
(画像=maroke/stock.adobe.com)

本音を引き出すテクニック
「沈黙」を効果的に使う

沈黙の時間を恐れてはいけない

「沈黙」を効果的に使って相手にプレッシャーを与えることもできます。

言うなれば、「沈黙に真実を語らせる」テクニックです。

誰かと一緒にいるとき、ふいに話題が途切れて、沈黙が生まれることがありますよね?

相手との関係性にもよりますが、あまりに長い沈黙が流れると、気まずさから何か話題を見つけようと必死になりませんか?

そもそも、沈黙の時間というのは、とても居心地が悪いものです。

だからこそ、人は早く静寂を破ろうとするのでしょう。

でも、あなたが相手の答えを待っているときは、話は別です。

たとえば、上司が部下と2人で仕事の面談をしているとしましょう。


上司「今期の数字、あまりよくないな。前年比でも下がっちゃってるね。原因はどうしてだと思う?」

部下「……」

(沈黙)

上司「まあ、新人の指導とか、案件の引き継ぎとかいろいろあったからな」

部下「はい(小声)」

(沈黙)

上司「しっかり原因を探さないといけないよね」

部下「そうですね……」

(沈黙)

上司「そうしたら、まず仕事の進め方を見直そうか」

部下「はい……」

1対1の面談で、ありがちな展開です。すでにお気づきかもしれませんが、沈黙に耐えられない上司が、先回りする形で話をつないでしまっています。

こういう場合、沈黙の時間ができても、あえてそのままにしておくことも必要です。

そして、その後、できるだけ短い質問を直球で畳みかけるのです。

この例であれば、上司が最初の質問のあと、「何が原因かな?」と投げかけてみるのもいいでしょう。そのあと、沈黙が流れてもしばらくはグッと耐えるのです。

部下の側は何か言いたいことがあったのかもしれません。しかし、心の準備ができていなかったり、上司にさえぎられたりして、流してしまった……という可能性もあります。その場合、この上司は、部下の本音を聞く機会を失ってしまったとも考えられるのです。

先ほどの取り調べの例でも、


「ということは、あなたはいきなり被害者の口にタオルを押し込んだわけですね。カバンに入れていたはずのタオルが、そのときはとっさに口に押し込める状態だった?」

被疑者「いや、それは……」

(そのまま沈黙を維持する)

「何か訂正はありますか?」

被疑者「いえ、ありません……」

沈黙の時間をうまく使うことで、このような展開に持ち込むことができるのです。

ギリギリの駆け引きに競り勝つ

なぜ、こうした場面で沈黙が効くのでしょうか?

そもそも質問されている側は、自分が何も答えないせいで沈黙の時間が流れているわけですが、その時間は本人にとっても苦しいのです。沈黙が長くなればなるほど、いたたまれない気持ちになるでしょう。

ここで、人によっては質問者がこの状況を救ってくれる、つまり言葉を継いでフォローしてくれるだろうと期待するかもしれません。そこで、先ほどのように先回りして沈黙を埋めようとするのは、得策ではないのです。

聞きたいことがあるときには、沈黙をギリギリまで引き伸ばしてください。自分でも「長いな」と感じるポイントを超えるまで我慢する。そこで二度目の質問が投げかけられると、相手は解放されたような気分になります。その結果、答えるつもりのなかった、あるいは答えたくなかった質問にもつい答えてしまう――。

私は心理学の専門家ではないので詳しいメカニズムはわかりませんが、きっとこういうことが被疑者の心の中では起こっているのだろうということは推測できます。

もちろん、沈黙を続けるのは、答えを引き出そうとする側にとっても苦しい作業です。

けれども、会話の主導権を握るという意味での効果は抜群で、だから、相手の口からどうしても答えを引き出したいときには、私はよくこの方法を使っていました。

ビジネスの場面でも、言い訳が多いタイプや言葉が巧みでないタイプの場合は、あの手この手で急かしたりするより、このアプローチのほうがずっと効果的だと思います。

沈黙で答えが出たら「深追い」しない

ここで、沈黙の「意味」について、少し考えてみたいと思います。

管理職の中には、ミスをした部下に対し、「自分がミスをしました」と本人がはっきりとした言葉で認めるまで追い詰めようとする人が意外といるようです。これは、ビジネスシーンだけではなく、ときには恋愛関係や親子関係にも言えるかもしれません。

もちろん、刑事事件の取り調べでは、被疑者に言葉で真実を語らせることが重要なのですが、通常の人間関係においては、必ずしも言質を取ることにこだわらなくてもいいでしょう。事実をはっきりと言語化させる必要がない場合もあるです。

たとえば、オープン話法や問答法で質問を重ね、イエスと言うべきところで相手が沈黙したときには、その沈黙が真実を語っています。つまり、答えはイエスだと考えてほぼ間違いありません。

私もかつて、ある人物が「重大な機密情報を欲している人物」に接触している気配を察知し、「その人と会っていますよね?」と、尋ねたことがあります。

すると、彼は、私の言葉をしっかりと聞いた上で黙り込んでしまいました。そこで、同じ質問をもう一度投げかけたところ、今度もまた沈黙したのです。

この二度の沈黙は、私の質問の答えが「イエス」であることを何よりも物語っています。

沈黙が真実を語っている場合は、それ以上問い詰めたところで、答えが変わることはありません。少なくとも真実を引き出すことが目的であるのなら、それ以上沈黙を引き伸ばしても意味はなく、相手を必要以上に追い詰めてしまうだけです。

自分の口から非を認めさせたいという欲求があるかもしれませんが、それよりも、相手が非を認めたことを前提に、ミスにどう対応するかを一緒に考えるほうが建設的でしょう。

善悪はともかく、自分の不利益になることをつい隠そうとするのは、人間の心理としては当然だと思います。あなただって、その立場になれば、絶対に隠したりごまかしたりしないとは言い切れないのではないでしょうか。

仕事上で何かのミスが起こったときに優先すべきなのは、ミスをした当事者に自らの非を言葉で語らせることではありません。

それよりも大事なのは、真実をつかんで、その対策を考えること。形式的な「自白」にこだわるあまり、無駄な時間を使うのは避けたいものです。

元公安捜査官が教える 「本音」「嘘」「秘密」を引き出す技術
稲村悠
警視庁公安部捜査官として、数々の諜報活動の取り締まりや情報収集活動に従事。機微な情報の収集能力と高い捜査手腕が評価され、警視総監賞をはじめとする各賞を受賞した。技術流出に関する諜報事案の現場から、対人交渉術や信頼関係の構築法などを体得。また、刑事としても、強盗致傷事件をはじめとする強行事件を担当した。退職後は大手金融機関における社内調査や、会計・品質の不正調査業務に携わったほか、各種インテリジェンスを駆使したサービスにも関わるなど、専門的な経験を幅広い分野で活かしている。現在は経済安全保障・地政学リスク対応や経済スパイ対策のコンサルティングの分野で活躍中。

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