終身建物賃貸借契約は、高齢者の居住の安定を図るための制度です。孤独死や家賃滞納への懸念から、高齢者の入居受け入れに慎重な不動産オーナーもいます。しかし、本制度を利用して高齢者の入居を受け入れることによって、空室の解消や収益性の向上につながるかもしれません。

本記事では、賃貸住宅の大家向けに、終身建物賃貸借契約制度の内容やメリット・デメリットを解説します。

終身建物賃貸借契約制度とは

大家が知っておきたい「終身建物賃貸借契約制度」とは?制度内容やメリット・デメリットを解説
(画像=naka/stock.adobe.com)

終身建物賃貸借契約制度とは、高齢者が死亡するまで住み続けられる賃貸住宅について都道府県知事が認可する制度です。「高齢者の居住の安定確保に関する法律」に基づき、2001年に創設されました。入居者の死亡によって、賃貸借契約が終了するのが特徴です。

賃借権の相続が発生しないので、大家は無用な賃貸借契約の長期化を避けられます。入居者にとっては、高齢でも生涯にわたって賃貸住宅に住み続けられるのがメリットです。

以前はほとんどがサービス付き高齢者向け住宅で、申請者の事務的負担が大きいことから、一般の賃貸住宅における活用は進んでいませんでした。しかし、終身建物賃貸借契約を活用しやすくするため、2018年に申請手続きの簡素化や既存建物のバリアフリー基準緩和などが行われました。

終身建物賃貸借契約制度の概要

終身建物賃貸借を利用するには、一定の要件を満たす必要があります。ここでは、入居者の要件や対象住宅、解約条件など、終身建物賃貸借契約制度の概要を確認していきましょう。

入居者の要件

終身建物賃貸借が利用できる人の要件は以下の2つです。

・ 入居者本人が60歳以上
・ 入居者本人が単身か、同居者が配偶者もしくは60歳以上の親族

入居者が死亡した場合、死亡を知った日から1ヵ月以内に事業者へ申し出れば継続居住が可能です。

対象住宅の基準

終身賃貸借契約制度の対象住宅は、一定のバリアフリー基準に適合していることが要件となります。既存住宅における基準は以下の通りです。

・ 便所、浴室及び住戸内の階段には、手すりを設けること
・ その他国土交通大臣の定める基準に適合すること

終身建物賃貸借を行う賃貸住宅は、「段差のない床」「浴室等の手すり」「介助用の車いすで移動できる幅の廊下」などが求められます。

なお、2018年の省令改正でバリアフリー基準が緩和されたのは既存建築物のみです。新築建築物の基準については改正されておらず、廊下や居室・浴室の出入口の幅などが細かく定められています。

大家側からの解約条件

大家側からの解約は、以下の場合に限定されます。

① 老朽、損傷、一部滅失などにより住宅を維持できない、もしくは回復に過分の費用を要する場合
② 入居者が長期にわたって居住せず、かつ、当面居住の見込みがないことにより、住宅を適正に管理するのが困難な場合
③ 入居者の債務不履行、義務違反、不正行為、社会通念に照らして公序良俗に反する行為・事実があった場合

②は、入院などが理由の場合は、入居者が解約に合意している場合に限られます。①と②については、都道府県知事の承認を受けた上で、少なくとも6ヵ月前に入居者へ解約の申入れを行わなくてはなりません。

入居者側からの解約条件

入居者側からの解約条件は以下の通りです。

① 療養、老人ホームへの入所などにより居住が困難になった場合
② 親族と同居するため、居住が不要になった場合
③ 大家が改善命令に違反した場合
④ 6ヵ月以上前に解約の申入れを行った場合

①~③については、1ヵ月前に大家へ申入れを行うことで本契約を解約できます。

仮入居について

入居希望者から仮入居の申出があった場合、終身建物賃貸借契約の前に、1年以内の期間を定めた定期建物賃貸借契約をすることが可能です。

賃貸するには都道府県知事の認可が必要

終身建物賃貸借契約制度を活用するには、都道府県知事の認可が必要です。

「高齢者の居住の安定確保に関する法律 第54条」に基づき、一定のバリアフリー基準を満たさなくてはなりません。また、家賃の全部または一部を前払金として一括で受領する場合は、金額の算定基礎や返還債務の金額を明示した上で保全措置を講じる必要があります。

認可申請手続きの詳細は後ほど説明します。

終身建物賃貸借と普通建物賃貸借の違い

終身建物賃貸借と普通建物賃貸借の違いをまとめました。

区分終身建物賃貸借普通建物賃貸借
契約方法公正証書等の書面契約に限る口頭による契約も可
契約期間終身(入居者が亡くなるまで)当事者間で定めた期間(1年以上)または期間の定めなし
契約更新-正当事由がなければ更新される
借貸増減請求権賃料の増減を請求できる(特約がある場合は増減を請求できない)賃料の増減を請求できる(特約がある場合は増額を請求できない)
入居者からの中途解約入院や老人ホームへの入居など一定の要件を満たす場合は1ヵ月前、その他は6ヵ月前の申入れにより可期間の定めがある場合は不可、ない場合はいつでも申入れ可(3ヵ月前に申入れ)
相続の有無なし(同居者の一時居住および継続居住は可能)あり

終身建物賃貸借では、契約方法が公正証書等の書面契約に限定されます。契約期間が終身で、契約更新や賃借権の相続がないのも相違点です。

なお、終身建物賃貸借契約制度の認可を受けた賃貸住宅に、高齢者以外の人が普通建物賃貸借契約で入居することは可能です。

終身建物賃貸借のメリット

終身建物賃貸借のメリットは以下の通りです。

大家のメリット

終身建物賃貸借は入居者の死亡によって契約が終了し、賃借権が相続されません。契約が安定的に終了するため、入居者の死亡から次の契約までの手続きをスムーズに進められます。

また、賃貸借契約とは別に、入居者と受任者との間で残置物(家財などの遺留品)の処理に関する委任契約を締結することで、残置物の円滑な処理が可能です。国土交通省および法務省は、「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を公開しているので参考にするといいでしょう。

入居者のメリット

終身建物賃貸借契約は、高齢者でも賃貸住宅に長く住み続けることが可能です。大家からの解約は、基本的に都道府県知事の許可が必要なので、不当な追い出しにあうリスクも低いでしょう。

終身建物賃貸借のデメリット

一方で、終身建物賃貸借には以下のようなデメリットもあります。

大家のデメリット

終身建物賃貸借契約制度を活用するには、都道府県知事の認可が必要です。一定のバリアフリー基準を満たした上で、申請手続きを行わなくてはなりません。バリアフリー化のための費用もかかります。

入居者のデメリット

以前よりも基準は緩和されていますが、終身建物賃貸借契約制度に対応している物件はまだ少ないのが現状です。物件によっては、家賃が高額になる可能性もあります。

終身建物賃貸借の認可を受けるための手続き

終身建物賃貸借契約制度の認可申請手続きの流れは以下の通りです。

1. 事業認可申請書を作成する
2. 申請書に必要書類を添付して都道府県知事に提出する
3. 事業認可の通知が届く

申請書には事業者(大家)の住所・氏名、賃貸住宅の位置・戸数・規模・設備・加齢構造等の対応、賃貸条件などの事項を記載します。申請の際は、「賃貸住宅の間取図」「工事完了前に前払金として家賃の全部または一部を一括して受領しないことの誓約書」などの書類を添付しましょう。

個々の契約のたびに認可を受ける必要はありませんが、認可を受けた事業を変更する場合(賃貸条件の変更など)は再度申請が必要です。

まとめ

終身建物賃貸借契約は、高齢者の入居受け入れを検討している大家には多くのメリットがあります。バリアフリー対応などは必要ですが、長期的には空室解消につながるかもしれません。高齢化により需要拡大が見込まれるので、終身建物賃貸借契約制度の活用を検討してみてはいかがでしょうか。

(提供:Incomepress



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