本記事は、堀田秀吾氏の著書『24 TWENTY FOUR 今日1日に集中する力』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。

たった「2.8秒」で人の集中力は崩壊する

たった「2・8秒」で人の集中力は崩壊する
(画像=kreus/stock.adobe.com)

現代社会ではマルチタスクが当たり前だが……

デジタル技術が進化し、さまざまなことがボタン一つ、クリック一つ、タップ一つでできるようになった結果、私たちは当たり前のように、一度に複数の仕事をこなす「マルチタスク」を行うようになりました。

おそらくみなさんも、「複数の案件を同時並行で進める」「仕事相手の話を聞きながらパソコンで入力作業をする」「歩きながらスマホでメールや情報をチェックする」といったことを、日常的にやっているのではないでしょうか。

人間の脳の作り自体は20万年前とほぼ変わっていないにもかかわらず、処理しなければならない情報が加速度的に増えていること。

特にネガティブな情報の量が増えたために、将来に対する不安や懸念が大きくなり、「原因となるものを取り除いたり、乗り越えたりするための行動を起こし、不安を解消しなければ」といった意識が働いて、ますます人々が「やらなければ」と思うことが増えていること。

社会のスピードが速く、人々が常に多くのことに気をとられ、「あらゆることをできるだけ早く終わらせなければ」という思いに駆られていること。

こうしたことが、今のマルチタスク社会の背景にあります。

現代社会で働く多くのビジネスマンが、「より多くの情報を処理し、多くの仕事をこなし、生産性を高めるためには、マルチタスクが不可欠であり、一度に一つの仕事だけを行うシングルタスクは効率が悪い」「同時に複数のことをやることで、限られた時間でより多くの課題を解決することができる」と考えているはずです。

ところが、人生を効率化・最適化するために情報を集めることが、かえって良くない選択につながりやすいように、生産性を高めるためにマルチタスクを行うことは、かえって生産性を損なう原因となります。

人間の脳はマルチタスク用にできていない—フランス国立保健医学研究所などの研究

そもそも人間の脳は、マルチタスクには向いていません。

フランス国立衛生医学研究所のシャロンとケクランは、シングルタスクのときとマルチタスクのときに、脳がどのように働くのかを実験した結果、「シングルタスクでは、前頭葉にある左右の内側前頭皮質が共同で働き、マルチタスクでは、判断力や理性などを司る前頭前野によって複数のタスクが調整され、左右の内側前頭皮質が分割して働く」ことを確認し、「人間の脳が同時に推進できるタスクは2つが限界である」と科学誌『Science』で報告しています。

スタンフォード大学の神経科学者であるオフィールらによると、私たちが「2つのタスクを同時に行っている」とき、実際には、脳が猛スピードで複数のタスクを連続的に切り替えているだけだそうです。

あるタスクを行いつつ、別のタスクを行うとき、脳は一度停止し、情報を再編成し、新しいタスクや思考のために回路を切り替えることを余儀なくされるため、結局は時間がかかり、疲れてしまうのです。

マルチタスクによって脳が疲れると、前頭前野の機能が低下し、物忘れによるミスが起こりやすくなったり、判断力や集中力が落ちたり、自律神経のバランスが乱れて、心身の不調が表れやすくなったりします。

また、マルチタスクは短期記憶への情報流入を妨げるともいわれています。

短期記憶に入らないデータは、長期記憶に転送されることもありません。

たった2.8秒で、集中力は崩壊する—ミシガン州立大学アルトマンらの研究 

オハイオ州立大学のワンとチェルネフによる、19人の学生を対象に4週間にわたって行った調査では、マルチタスクは、一時的に「まやかし」の満足感を与えてくれるものの、パフォーマンスが落ちることを明らかにしました。

マルチタスクによって、短期的に効率や集中力が上がったように感じることはあるかもしれませんが、一方で、マルチタスクを行うと、脳内でストレスホルモンであるコルチゾールが増加することがわかっています。

コルチゾールは、脳内の記憶を司る部位にダメージを与えるため、マルチタスクをし続けると、長期的には脳の機能の衰えや、脳細胞の損傷を招き、注意力が低下したり、うつ病のリスクが増大したり、認知症のような症状が引き起こされたりするおそれがあるともいわれています。

そして、カーネギーメロン大学のジャストらの研究では、集中力が散漫になると、人間の「情報を符号化する能力」に負担がかかることが明らかになっています。

運転しながら誰かが話しているのを聞いているドライバーの、脳のMRIを撮ったところ、注意力が37%も低下していることがわかったのです。

さらに、ミシガン州立大学のアルトマンらの研究では「300人の学生に、パソコンで集中力が必要な作業をさせ、その途中でさまざまな秒数の広告のポップアップ画面を出して作業を中断させる」という実験を行い、どの程度の時間で学生の集中力が途切れるかを調べました。

その結果、ポップアップによって作業が2.8秒中断されると、ミスの発生率が2倍になり、4.4秒中断されると、ミスの発生率が4倍になることがわかったのです。

今、やっている作業が2.8秒妨げられるだけで、生産性は半分に低下するのですから、複数の作業を並行で行うマルチタスクで生産性が上がるはずがありません。

マルチタスクで、生産性が40%低下。作業ミスが50%増加する—ワシントン大学のメディナらの指摘

ワシントン大学のメディナは、マルチタスクをする人には次のようなことが起こると指摘しています。

・生産性が40%低下する
・仕事を終えるまでにかかる時間が50%増加する
・ミスの発生が50%増加する
・創造性が大幅に低下する

また、スタンフォード大学のオフィールらの研究では、マルチタスクを行うと記憶に干渉が起き、正しく記憶できなかったり、課題の切り替えがうまくいかなかったりすることがわかっています。

さらに、ユタ大学のワトソンとストレイヤーが100人を対象に行った、運転をしながら音声課題をこなすというマルチタスクの実験では、マルチタスクをした場合としなかった場合で、パフォーマンスに違いが出なかった人はわずか2.5%だったとのことです。

マルチタスクを行っていると、短期的には快楽を感じ、満たされるかもしれませんが、それは目の前のことに集中する脳の使い方とは異なります。

マルチタスクにより、大量の情報を処理しテクノロジーを使いこなすことに価値を感じるようになればなるほど、人は情報への依存を高め、長期的な視野を持つことや内省的な思考ができなくなります。

マルチタスクを行う人もまた、情報を追う獣なのです。

このように、マルチタスクはさまざまな形で私たちから集中力を奪い、心身の不調をもたらし、パフォーマンスを低下させます。

真に生産性を高めたいと思ったとき、私たちが心がけるべきなのは、今、目の前にある一つのこと、シングルタスクに集中することなのです。

24 TWENTY FOUR 今日1日に集中する力
堀田秀吾(ほった・しゅうご)
明治大学法学部教授。言語学博士。熊本県生まれ。シカゴ大学博士課程修了。ヨーク大学修士課程修了・博士課程単位取得退学。専門は社会言語学、理論言語学、心理言語学、神経言語学、法言語学、コミュニケーション論。研究においては、特に法というコンテキストにおけるコミュニケーションに関して、言語学、心理学、法学、脳科学など様々な学術分野の知見を融合したアプローチで分析を展開している。執筆活動においては、専門書に加えて、研究活動において得られた知見を活かして、一般書・ビジネス書・語学書を多数刊行している。「明治一受けたい授業」にも選出されるなど学生からの人気も高い。『最先端研究で導きだされた「考えすぎない」人の考え方』 (サンクチュアリ出版)、『図解ストレス解消大全 科学的に不安・イライラを消すテクニック100個集めました』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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