本記事は、堀田秀吾氏の著書『24 TWENTY FOUR 今日1日に集中する力』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。

スマホやSNSは、お酒やたばこ、薬物などに匹敵する「依存物質」

スマホやSNSは、お酒やたばこ、薬物などに匹敵する「依存物質」
(画像=paru/stock.adobe.com)

あなたの脳を蝕むドーパミン依存

近年、「スマホ脳」「SNS依存症」「テクノ依存症」といった言葉を、よく耳にするようになりました。

これらはいずれも、「スマホやSNSを常にチェックしていないと気がすまない」「時間のムダだとわかっていながら、スマホを操作してしまっている」といった状態を指しています。

実は、スマホやSNSは、お酒やたばこ、薬物などにも匹敵するほどの「依存物質」なのです。

人間の脳内では、アドレナリンやセロトニンといったさまざまな神経伝達物質が分泌され、思考や行動に影響を与えていますが、目的を達成したときや他人から褒められたとき、おいしいものを食べたとき、ギャンブルやゲーム、あるいはセックスなどに夢中になっているときに分泌されるドーパミンも、その一つです。

ドーパミンが分泌されると、脳の前頭前野が興奮して、幸福感や満足感を覚えるため、「もう一度、その幸福感を味わいたい」と思うようになります。

そのため、ドーパミンは「脳内麻薬」とも呼ばれています。

ドーパミンにはやる気を起こさせ、集中力を高める働きがあります。

努力を重ね仕事や勉強で成果を上げたときや、いいことをして人に褒められたりしたときにドーパミンが分泌され、「もう一度、あの幸福感を味わいたい」と思ったなら、人はさらに努力したり、いいことをしたりしようと考えるでしょう。

一方で、ギャンブルやゲーム、甘いもの、アルコール、薬物などによってドーパミンが分泌された場合、人はそれらの刺激や快楽を繰り返し求めるようになります。

しかも、同じ刺激では徐々にドーパミンの分泌が減少するため、脳はさらに強い刺激を求めるようになります。

ギャンブル依存症の人やアルコール依存症の人が、どんどんける金額やお酒の量を増やしていくのは、そのためです。

85%の人は、フェイクニュースに簡単にだまされる

同じように、スマホによって求める情報が手に入ったり、スマホゲームに夢中になったり、SNSで発信したことに多くの人からの反応が得られたりすると、脳内にはやはりドーパミンが分泌されますし、毎日、膨大な量の刺激的な情報が入ってくるため、人はスマホやSNSを使えば使うほど、どんどん依存度を高めていきます。

ところが、スマホにどっぷりと依存するようになっても、ギャンブルやアルコール、薬物などへの依存に比べて、お金を浪費したり、他人に迷惑をかけたり、罪に問われたりすることはほとんどありません。

むしろ、「新しいガジェットを使いこなしている」「情報に敏感」などと評価されることも多く、自分でもなかなか、依存症に陥っていると気づくことはできないでしょう。

そして、知らぬ間に24時間の多くをスマホやSNSに費やし、やるべきことをやるための時間や集中力を奪われてしまうのです。

また、SNSやブログ、ネットニュースなどによって発信される刺激的な情報の中には、誤った情報もたくさん混じっています。

もちろん、新聞やテレビなどの既存メディアも誤情報を流すことはありましたが、ネットやSNSの普及により、第三者のチェックを受けることなく、真実とは異なる情報を世界中に広めることが誰にでも可能となりました。

しかも「錯覚的真実効果」(illusory truth effect)により、そうした誤情報を鵜呑うのみにしてしまう人は少なくありません。

錯覚的真実効果とは、「正しい情報であれ正しくない情報であれ、何度も繰り返されるものを見ると、それがより真実のように思えてくる」というものであり、キングストン大学のヘンダーソンらの研究により、85%もの人に、この効果が見られることがわかっています。

つまり、8割以上の人は、たとえフェイクニュースであっても、繰り返し見せられると、それを真実だと思い込んでしまうのです。

おびただしい量の情報があふれたこの社会には、人の数だけ真実があるといっても過言ではありません。

そして、多くの人は自分が信じたもの、真実だと思ったものを「正」もしくは「善」、それ以外のものを「誤」「悪」ととらえ、自分が真実だと思ったものが正しいと確信させてくれそうな、そして意見の違う人間をやりこめられそうな情報を獣のように追い求めるようになります(「確証バイアス」と呼ばれる心理学的傾向です)。

情報の本来の役割は、人々に真実を伝え、正しい判断を下すための材料を与えることにあります。

ところが、現代社会においては、誰が何の目的で流したのかも、真偽すらも定かでない大量の情報や人々の情報への依存が、無数の分断や対立を生んでいます。

その結果、私たちは、24時間、目の前のことに集中することを妨げられ、人生を充実させるために自分の時間を使うことを妨げられ、ただただ情報に縛られ、執着し、振り回されてしまうのです。

記憶に新しいところでは、アメリカ大統領選挙や新型コロナウイルス、ウクライナ紛争などでもさまざまな情報が飛び交い、世界中の人々の間に分断と対立を生み、人々の時間を奪っていました。

現在、あらゆる人や機関が、メディアやネットなどによって情報を流すことで、人々に時間を浪費させ、自分たちが望む方向へ誘導することに注力しています。

国や政党などが政治的な意図を持って行っている場合もあれば、ビュー数を増やして利益を上げたいだけの企業、注目を集めたいだけの人、自分の思想や価値観への賛同者を集めたいだけの人もいるでしょう。

刺激的なことや、ちょっとした嘘をつくことで、人間関係でラクをしようとしたり、自分を有利な状況に持っていこうとしたりする。

今や、それを世界中の人がネットなどを使って行っている状況であり、そのような時代に、目の前のことに集中するのは限りなく難しいといえるでしょう。

24 TWENTY FOUR 今日1日に集中する力
堀田秀吾(ほった・しゅうご)
明治大学法学部教授。言語学博士。熊本県生まれ。シカゴ大学博士課程修了。ヨーク大学修士課程修了・博士課程単位取得退学。専門は社会言語学、理論言語学、心理言語学、神経言語学、法言語学、コミュニケーション論。研究においては、特に法というコンテキストにおけるコミュニケーションに関して、言語学、心理学、法学、脳科学など様々な学術分野の知見を融合したアプローチで分析を展開している。執筆活動においては、専門書に加えて、研究活動において得られた知見を活かして、一般書・ビジネス書・語学書を多数刊行している。「明治一受けたい授業」にも選出されるなど学生からの人気も高い。『最先端研究で導きだされた「考えすぎない」人の考え方』 (サンクチュアリ出版)、『図解ストレス解消大全 科学的に不安・イライラを消すテクニック100個集めました』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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