この記事は2023年3月9日(木)配信されたメールマガジンの記事「クレディ・アグリコル会田・大藤 アンダースロー『YCCの柔軟化は米国経済とFRBの動きに左右』を一部編集し、転載したものです。
シンカー
- 黒田総裁の任期満了前の3月の金融政策決定会合でYCCが見直される可能性は低いとみている。
- マクロ・フェアバリューを使うことで、仮にYCCの撤廃や緩和政策が縮小された場合、どの程度長期金利が上昇するのかを把握することが可能である。
- 12月の金融政策決定会合で発表した、月間9兆円程度のの国債買入れを実施した場合、国債10年金利のマクロ・フェアバリューは0.54%程度と容認レンジ上限を若干上回る。米金利の急上昇で金利上昇圧力が強まっているなか、日銀は共通担保資金供給オペや国債買入れの増額で対応し、長期金利を0.5%以下に誘導している。
- 日銀は、海外中央銀行の金融政策の引き締め効果が現れ始め、マーケットでは将来の景気減速懸念とそれに伴う利下げ期待が強まることで、国債10年金利のマクロ・フェアバリューは0.5%を再度下回り、足元の国債買入れの増額は一時的な措置で終わるとの見解を維持していると思われる。
- メインシナリオとして、来年のFRBの利下げをマーケットが織り込んでいる間は、YCCのレンジの再拡大などの柔軟化はないと考える。
- 一方、米国経済が予想以上に強く、FRBが利上げを続け、マーケットが来年の利下げを織り込まなくなれば、グローバルな金利上昇圧力が強まる。
- その場合、日銀が長期金利を0.5%以下に抑える負担がかなり大きくなるため、日銀はYCCを柔軟化することになるだろう。
YCCが見直される可能性は低い
新日銀執行部候補の国会での所信聴取で、金融緩和政策を継続することが適切であり、YCCを含めた現行の緩和政策を終了させるのは時期尚早との考えを示した。黒田総裁の任期満了前の3月の決定会合でYCCが見直される可能性は低いとみている。マクロ・ファンダメンタルズを基に算出したフェア・バリューを使うことで、仮にYCCの撤廃や緩和政策が縮小された場合、どの程度長期金利が上昇するのかを把握することが可能である。
マクロ・フェアバリューを使うことで把握することは可能
日本の長期金利(10年国債利回り)はネットの国内資金需要(企業貯蓄率+財政収支、対GDP比%)、日銀の事実上の政策金利(コールレート)、日銀の長期国債買入れ額(年率換算、対GDP比%)、米国10年国債利回り、YCCダミー、連続指値オペダミーで推計できる。これらの変数を使うことで、1990年からの日本の長期金利のマクロ・フェア・バリュー(四半期ベース)が算出でき、99%の動きが説明できる。
- 国債10年金利(%)=0.30+0.68 コールレート+0.27 米長期金利-0.05 ネットの資金需要-0.03 日銀長期国債買入れ額(年率換算、対GDP比)-0.38 YCCダミー -0.09連続指値オペダミー+ 0.52 アップダミー-0.46 ダウンダミー;R2=0.99
足元の国債買入れの増額は一時的な措置で終わるとの見解を維持
1月の金融政策決定会合で日銀は「共通担保資金供給オペ」の拡充に踏み切った。今回の拡充で日銀はより柔軟にJGBイールドカーブへの影響を強めることができるようになったと思われる。そのため、モデルの観点からは日銀の「共通担保資金供給オペ」の拡充は、連続指値オペへの信認が回復(0となっていたものが1に戻る)したと解釈ができる。日銀が12月の決定会合で発表した、月間9兆円程度のの国債買入れを実施した場合、国債10年金利のマクロ・フェア・バリューは0.54%程度と容認レンジ上限を若干上回る。米金利の急上昇で金利上昇圧力が強まっているなか、日銀は共通担保資金供給オペや国債買入れの増額で対応し、長期金利を0.5%以下に誘導している。
仮に足元のマクロ環境下、日銀がYCCを修正・撤廃に踏み切り、従来の国債を一定量買入れる量的緩和政策への転換は、モデルではYCCダミーと連続指値オペダミーが解除されたと解釈できる。その場合、日銀が現行の9兆円程度の国債買入れを継続すると仮定すると、長期金利のマクロ・フェアバリューは1.0%程度になる。日銀が量的緩和政策を終了し、現行の緩和政策が開始する前の2012年の年間約22兆円(GDP比約4.4%)程度まで国債買入れを減額した場合、マクロ・フェアーバリューは1.4%程度まで上昇する。
日銀の景気の先行き判断は、「資源高や海外経済減速による下押し圧力を受けるものの、新型コロナウイルス感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、回復していくとみられる」と海外経済減速への警戒感が強い。欧米中央銀行のインフレを抑制するための金融政策の引き締めを継続する方針を維持している。インフレ抑制のための利上げが進み、マクロファンダメンタルズに効果が現れ始めると、マーケットでは将来の景気減速懸念とそれに伴う利下げ期待が強まり、グローバルな金利低下圧力が強まる可能性が高い。
メインシナリオ
グローバルな金利低下圧力が強まることで、日銀は長期金利のマクロ・フェアバリューが0.5%を再度下回り、国債買入れの増額は一時的な措置で終わるとの見解を維持していると思われる。メインシナリオとして、来年のFRBの利下げをマーケットが織り込んでいる間は、YCCのレンジの再拡大などの柔軟化はないと考える。一方、米国経済が予想以上に強く、FRBが利上げを続け、マーケットが来年の利下げを織り込まなくなれば、グローバルな金利上昇圧力が強まる。その場合、日銀が長期金利を0.5%以下に抑える負担がかなり大きくなるため、日銀はYCCを柔軟化することになるだろう。YCCの柔軟化は米国経済とFRBの動きに左右されると考える。
図:10年国債利回りとマクロ・フェアーバリュー
図:現行の緩和政策下、YCCを解除した場合、国債買入れを2012年平均で実施した場合の国債10年金利のマクロ・フェアバリュー
図:国債10年金利のマクロ・フェアバリューマトリックス
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