日本の経済成長率はバブル崩壊後の2000年代から横ばいのままだ。そして今、もともと経済が低迷しているところにコロナ禍が追い打ちをかけ、事業再編を加速させている。事業を継いでくれる人がおらず、合併・買収(M&A)か廃業か、厳しい選択を迫られている経営者も多い。現在380万社ある日本の中小企業は、2025年にはそのうち127万社が後継者不在になり、60万社が黒字廃業してしまうのではないかとも言われている。
このような中小企業オーナーの悩みについて幅広く研究し、新しい選択肢を提示しているのが、早稲田大学商学学術院ビジネス・ファイナンスセンター上級研究員(研究院教授)の米田隆氏だ。気鋭のアナリストがひもとく日本の近未来像を、全5回にわたって詳細にお伝えしていく。先行きの見えない時代の灯火として、お役に立てれば幸いである。
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「VUCAの時代」に日本人を待ち受けるリスク
世界は今「VUCAの時代」に突入している。はっきり言って、先が見えない。
もともとは軍事用語としてアメリカで使われはじめた「VUCA」は、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の意味を併せ持つ。コロナ禍もVUCAの時代においてのひとつの現象だ。
同時に、日本社会はもはや高度経済成長と人口増大が前提に置かれた仕組みではない、新しい「長寿社会」というリアリティの中にいる。VUCAと長寿社会──この2つの新しいリアリティを、我々日本人はまず認識する必要がある。その上で、この新しいリアリティがどのようなリスクを孕んでいるのかを見極める必要がある。
これからの日本人を待ち受けているのは、公助の劣化だ。さらに、銀行による不良債権処理を発端にローカル企業の再編が加速化し、合併する側とされる側との二極化が鮮明になり、就業の流れがより生産性の高いところに移動する。
これらのリスクに備えるために我々が今すぐできるのは、健康管理を怠らずに長く働くこと、生活を維持する固定性支出を抑えること、そしてその結果得た余剰資金を確実に運用し続け、より強靭な財務基盤の構築に努めてていくことが求められている。