インベストメントチェーン改革による投資をしないリスク
インベストメントチェーンの原点はアセットオーナー、つまり年金受給者などプロに余剰資金の運用を任せている人だ。そのアセットオーナーのお金を預かっている運用会社は、四半期ごとの損益だけ見て短期的に有価証券等を売買するのではなく、投資対象となっている上場企業の経営者からその戦略をじっくりと聞き、経営者と対話しながら、中長期的に企業価値を持続的に高めていけるパートナーになることを義務付けられるようになってきている。これが、スチュワードシップ・コードだ。
それを受けて、投資対象先の上場企業は、経営やガバナンスの透明性を資本市場全体に開示する義務がある。これがコーポレートガバナンス・コードだ。もしもこのコードを満たしていなければ、ちゃんと資本市場に開示して、なぜ自社は現時点でコーポレートガバナンス・コードが求める内容を満たしていなくても問題はないか、明確に説明する義務も発生する。
さらに、個人年金の運用を任されている証券会社や銀行などは、受託者責任をちゃんと果たしているかどうかを共通のKPI(キー・パフォーマンス・インディケーター)を以て開示するよう求められるようになった。アセットオーナーの新規口座を開設してから1年目、2年目、3年目で、損益がどれほどプラスになっているのか、またはマイナスになっていないかを、すべての証券会社が評価可能な共通KPIで市場に対して開示することが義務付けられているのだ。つまり、市場で顧客の運用の支援ができる金融機関はどうか、ガラス張りの状態で比較される時代に入っているということだ。
投資信託の口座を開いた初年度は、手数料も発生するのでマイナスになりがちだ。だが、5年間継続している口座がまだ赤字を出していたとしたら、証券会社の運用の仕方が悪いのではないですか? ということになるだろう。そうすると、例えばX証券会社の顧客になると5年経っても黒字化する確率は3割しかないのに対し、Y証券会社なら8割だと聞いたら、あなたはどちらへ行くだろうか? もちろん8割のほうだろう。
インベストメントチェーン改革が進めば、上場企業に息の長い投資が集まるようになり、企業が中長期的に価値を高めていけると同時に投資した個人の損益もプラスに転じやすくなる。これは公助の限界に対する国のとった行動であるため不可逆的な動きであり、だからこそこれからの資産運用をしないということの機会費用が重くなってきているのも事実だ。そして、この機会費用は人生が長くなるほど、大きな経済格差要因となることを忘れてはならない。