インベストメントチェーン改革が同族企業にもたらす課題

もう1つ、重要だがあまり認識されていないインベストメントチェーン改革の影響がある。非上場のファミリービジネスが、相対的にチャレンジを受けているのだ。

本来なら、安定した一族株主構造の下、一貫した戦略で忍耐力のある投資を行い、息の長い経営をしていけるのはファミリービジネス(特に、非上場)の固有の強みだった。ところが、インベストメントチェーン改革が推進されつつある今、ファミリービジネスよりもずっと規模が大きく、資本市場から資金を調達できるような上場企業が鳴り物入りで中長期的な視点で自らの企業価値を高める事業経営を目指すようになってきている。既に、ファミリービジネスの相対的優位性が上場企業の資本市場改革で大いに挑戦を受けていると言っても良い。

日本人の夢を守り続けたツケがのし掛かる今

一部の地域で活動している企業、いわゆるローカル企業にも、大きな試練が待ちうけている。ローカル企業の二極化だ。どういうことかというと、より生産性の高いローカル企業がより生産性の低いローカル企業を買収することで、地域ごと、業界ごとの再編が進む可能性がある。きっかけとなるのは銀行による不良債権処理だ。

日本の人口は減少してきたのに、1人当たりの国民所得が低水準のまま上がっていない。上がらなかった最大の理由は、国の予算のついた保証融資制度を使って、生産性の高い低いに関わらず、結果として、全ての企業が雇用を守ってしまう政策を取ってしまったからだ。

具体的に言うと、本来なら事業性評価(編集者注:金融機関が現時点での財務データや保証・担保にとらわれず、企業訪問や経営相談等を通じて情報を収集し、事業の内容や成長可能性などを適切に評価すること)から考えると、融資を引き上げるべき事業であっても、それを残してしまったのだ。

その根底には、より良い教育とより良い就業機会を子どもたちに提供したい親心があったのではないだろうか。こうした親の夢を実現しようと、戦後、大学教育が普及し、その供給を満たしてきたのが私立大学である。私立大学の学費はほぼすべてが日本人の家計によって支えられてきた。別の言い方をすれば、子どもを大学に送れるだけの給与を確保するという意味では、雇用を守るということは、すなわち日本人の夢を守ることであったように思う。

ローカル企業の再編と高度化が起こる

しかし、結果として生産性の低い企業も残ってしまった。その挙句、1人当たりの国民所得は、日本だけ低水準のままだ。このような状況に置かれている日本でこれから起こるのは、ローカル企業同士の買収による再編と、その結果もたらされる地域の産業構造の高度化だ。

地域の産業構造の高度化とは具体的にどういうことだろうか。ここに、事業収益から運転資本の純増の調達ができない、つまり利益率の低いビジネスBがあるとする。ビジネスBは、新たにお金を借りることができなくなり、同じ地域で活動しているより生産性の高いビジネスAに事業譲渡することになる。

同様にC社、D社も事業を譲渡した場合、生産性の最も高いA社にマーケットシェアが集まり、粗利ベースと販管費(販売費及び一般管理費)の効率性が上がるので営業利益率も高くなる。
こうした一連の動きによって、地域の産業構造の高度化が進むのである。