仕事の個別性と専門性
平均賃金は、その国の産業構造によって決まってくる。なぜなら付加価値の高い産業を多く有する社会では、給料が高くなる傾向にあるからだ。1人当たりGDP首位のルクセンブルグの場合、産業構造の3割以上は金融業、特に資産運用に特化した金融業が占めている。その比率は、金融大国と言われるスイスよりもはるかに高い。
付加価値の高い産業、と言われてもいまいちピンとこないかもしれないが、仕事を専門性と個別性の2つの軸で捉えるとわかりやすい。専門性こそが付加価値の高さであり、高ければ高いほど賃金水準も上がる。個別性とはすなわち顧客側のニーズの多様性である。個別性が高ければ高いほど、サービスをする側の提供コストも高くなる。
この観点で言うと、例えば介護ビジネスはコスト(=個別性)が高い。しかし専門性は必ずしも高くないので、賃金はそれほど高くない場合が多い。一方で、個別性が高く、専門性も高いゾーンにはマネジメントコンサルティングやプライベートバンキングの仕事がある。ルクセンブルグにおいては、産業構造の3割以上をこのような付加価値が高く、1人のプロフェッショナルが多額の資金を動かすことができる資産運用業が占めている。
マネジメントコンサルティング業は、顧客一人ひとりに個別対応しているためコストは高いが、同時に支払われる料金も非常に高い。それより個別性をもう一段階下げることでもっと幅広い顧客のニーズに対応しているのが、例えばインターネット上でも加入できるマス向けの資産運用サービスだ。
「だいたいこれほどの資産を持っていて、こういうライフスタイルを選択している人であれば、このような資産運用法とライフスタイルサポートサービスをお勧めしますよ」
というようなソリューションのパッケージ化を行うことにより、本来高かった顧客の個別ニーズへ対応するための労力を減らす、つまり、その対応コストを下げることが可能となる。一方、専門性の高さは依然担保されているので、サービスの付加価値の高さがあるため、結果として適正利益を生むことになる。
あなたはどのゾーンで仕事をしているだろうか? 個人が今後のキャリアをデザインする上でも有効な考え方だ。
大淘汰時代の夜明け
さて、産業構造の高度化が遅れ、賃金が上がらなかった日本の話を続けよう。問題は、生産性の低い企業がたくさん残ってしまったことだ。このような状況に置かれている日本でこれから起こるのは、第1回の記事でも述べたとおり、ローカル企業の二極化である。
より生産性の高いローカル企業がより生産性の低いローカル企業を買収することで、地域ごと業界ごとの再編が進む可能性がある。きっかけとなるのは銀行による不良債権処理だ。
金融は産業の血液であるからして、国の産業構造を高度化するためにお金を回さなければいけないし、そのために貸し出し先を柔軟に検討し、選別していかなければならない。そして選別する上で重要な手法が、事業性評価だ。
銀行は、営業活動に伴うキャッシュフロー(=税引後当期利益+減価償却費-運転資本の純増)がマイナスの領域にある企業にはお金を貸さない。すでに融資を受けている企業に関しても、キャッシュフローがズルズルと下がりっぱなしで、3 期連続で改善の余地がない状態が続いてしまったとしたら、銀行の立場では融資取引先として断念せざるを得なくなるだろう。この先、そういった企業は生き残れないかもしれない。