Win Winな市場再編

ローカル企業の二極化によって市場が再編されていく中で、日本の産業構造は高度化していくはずだ。実は、市場の再編は、就業人口が減少している日本においては労働移動がしやすく、失業が少ないため、むしろやりやすいことでもある。ただし、ITなど高度分野へのキャリアアップにはリスキリングが求められるため、政府も舵を取り始めている。

日本の有効求人倍率は、コロナ以前から全都道府県で 1 倍を超えていた。この数字が意味するものは、恒常的な人手不足だ。これから市場が再編され、生産性の高い企業に人材が回れば、今まで大勢でやっていた仕事をより少ない人数でこなせるようになる。さらに、解放された労働力を、その地域で人手が足りていない仕事──例えば介護──などに回すことができる。

コスト面から言うと、生産性の高い企業はより少ない人数で仕事をこなせるようになるので、コストが削減され、利益が増える。その利益を従業員の賃金に上乗せすれば、事実上の賃金アップである。

今の日本には、このようなWinWinな市場再編が必要なのではないだろうか。

変革の旗手はローカル企業

ここで真剣に考えなければいけないのが「地域性」だ。上記で構想したような事業性評価を発端とした市場再編が、仮にメガバンクと総合商社の連合体が担うとしたら、どうなるだろうか?

上場企業は、その利益を分配するにあたってまず株主を優先してしまう。R O E(自己資本利益率)というものが、上場企業に関わっている利害関係者に対してそのしわ寄せを強烈に強いる仕組みになっているのだ。そのことが、例えば、賃金の引き下げは正規就業率を引き下げることによって、また、原価は下請けいじめで、さらには地域で行われている伝統的なお祭りに対する支出を減らしていくことなどにより、株主至上利益の追求が企業を取り巻く利害関係者への負の連鎖を生むことにもなり得る。

従って、「地域に利益を分配する」という固有の哲学を共有しない上場した大企業が業界再編を集中的に担ってしまえば、切り捨てられる地域も出てくるだろう。そうすると、バランスの取れた国土開発は難しくなってくるし、地域の固有性が失われた末に、日本は面白くない国になってしまうかもしれない。

「ローカル」とは、一定の地理的範囲内で、一定の商品やサービスの供給と需要が同時に生じているということだ。消費者と生産者の距離が近い、ということもできるだろう。

日本の多くのローカル企業はファミリービジネスである。すなわち、有力ファミリービジネスが地域ごと業種ごとに業界再編を積極的に担うことが、今切望されている。それと同時に、ファミリービジネスをよく知り、支えてくれる地域金融機関との共生関係を生み出し、こうした地域への利益還元をする業界再編を後押ししていくことは、結果として地域の産業構造の高度化やバランスの取れた国土開発、そして地域の文化発展にもつながるのではないだろうか。