ファミリービジネスの強みを最大限に活かす
息の長いファミリービジネスは、一族が代々蓄積してきたさまざまなノウハウやスキル、人脈、その業界で仕事をしていくための深い知識などを持っている。一族が集団として持っているこれらの「無形資産(=一族の社会関係資本)」は、地域と密接な関係を持っていることが多い。
地域に根ざしたファミリービジネスを育んできた環境、経済、そして人とのつながり。地域の非上場の優良企業は、お互いに生き延びるための利益の分配哲学を持っている。このように一貫した哲学に基づく経営と、一貫した利益分配の哲学を持っているファミリービジネスは、地域において尊敬される。
これから起こる地域の業界再編は、地元の人々から尊敬されている優良企業にこそ担ってほしいものだ。だからこそ、業界再編が日本経済を底上げできるかどうかは、ファミリービジネスの永続化にかかっていると言っても良いだろう。
ファミリービジネスの永続化が生み出す価値
ローカル企業の二極化という避けがたい状況の中で、地域のファミリービジネスと地域金融機関との共生関係が固有の役割を担い、中央集権的ではない、分散的な形での業界再編を実現していく。
このような時、ファミリービジネスに問われるのは、「どのようなバリューを重んじ、どのようなミッションをやり遂げ、どのようなビジョンを実現しようとしているのか」である。単に後継世代に一族の事業を承継していくだけでなく、「スチュワードシップ(=未来により良くして資産を承継する受託者責任の考え方)」の概念を持ってそれを成し遂げようとしているのかが、今後問われてくるだろう。
個人のレベルでは能力や寿命の限界というものがある。それらの限界を拡張するのが、多世代にわたって承継されていく「一族」という概念ではないのかと思う。
個々人の能力や寿命を拡張する一族の一体性、そしてそれを株主として支える仕組みと、その事業に関与していく仕組みを構築していくことが、ファミリービジネスの永続化に望まれている。これまでは人頼みだったガバナンスの仕組みを変えていかなければいけないのだ。
我々は、決して1人では生きていけない。そして、その人の価値が大きければ大きいほど、手を繋ぐことは大事だ。
地域の中で仲間と手を繋ぎながら、さまざまな事に時間をかけていく上で、荷が重ければ手伝ってもらったり、今度はこちらが手伝ったりと、地域のネットワークを育んでいく。これこそが、ファミリービジネスが地域で代々やってきたことであり、永続化させたい価値の1つである。
文・山田ちとら