本記事は、和泉祐子氏の著書『もし部下が「やる気」をなくしたら リーダーが1年目に学びたいこと』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

ビジネスマン
(画像=HML/stock.adobe.com)

時代と共に変化する上司と部下の関係性

私が若い頃、「バカかお前は! そんなの自分で考えろ」という言葉が、上司の決まり文句として広く使われていました。

大量採用で組織に人があふれていた昭和の時代は、それでよかったのだと思います。時間がかかっても自分で考えて、答えを見つけた人が、競争を勝ち抜いて昇進・昇格していきました。

しかし、今はそんな時代ではありません。

現場は常に最低限の人数で、ギリギリの状態。自分で答えを見つけるまで待っていたら、いつになっても仕事を任せることができません。成り行き任せなやり方では、スピード感が重要な現代社会から置いていかれます。

1日も早く一人前になってもらう一番の近道は、とにかく正解を先に示すこと。

情報過多の時代に育った若い世代は、ゼロから自分で考えるたくましさでは劣っているかもしれません。

しかしその一方で、情報を処理して模倣する力は、ずば抜けています。若い世代の方々が、動画を見ているだけでピアノを弾けるようになったり、魚をおろせるようになったりすることは、昭和世代の私には考えられない才能です。

それならば、その模倣力や器用さを活かさない手はありません。模倣を繰り返すうちに要領をつかんで、少しずつ自分で考えられるようになっていきます。

このような特長を持つ若い世代を育てるためには、上司もそれに対応した指導をすることが必要です。具体的な指導例に入る前段として、まず、人材育成のベースとなる枠組みを理解すると、さらに効果が高まります。

職場の人材は、仕事を通じて成長しますので、部下に指示を出す流れにそって考えてみましょう。

求める結果を具体的に示す

部下に仕事の指示を出す場合、上司であるあなたはどのように伝えますか?

「第1四半期の売上結果をまとめておいてもらえますか」

これは最も失敗しやすい指示の出し方です。上司の頭の中には、美しく完成した報告書のイメージが浮かんでいることでしょう。

しかし、部下の頭の中は真っ白です。

上司に質問したくても、何をどう尋ねればいいかわかりません。やむを得ずインターネットで調べて、それらしいレポートを作るかもしれませんが、それが上司のイメージに見合う可能性は限りなく低いです。

受け取ったレポートを見て、上司はがっかりします。

「うーん、ちょっと違うんだよね」
「大体、報告要素の順番が違うなぁ」
「この数字は表じゃなくて、グラフで見せるべきでしょう」

と、矢継ぎ早にダメ出しをし、最終的には

「もう修正する時間もないな。仕方ない、今回は私がやるからいいよ」

と、仕事を取り上げてしまいます。

上司が「せっかく任せてみたけど、全然ダメだった」と落胆する一方、部下は「自分でやるなら、最初から人に振らなきゃいいのに」と憤慨します。

これが相互不信の第一歩というわけです。

では、どのように指示を出せば、求める結果を得られるのでしょうか。


「第1四半期の売上結果をまとめておいてもらえますか」
「期限は、今週金曜日の午後2時でお願いします」
「売上の数字は、昨年同期との比較を縦棒グラフで表示してください」
「月次の結果だけでなく、週次に展開したものもお願いします」
「グラフとは別に、あなたなりの考察も入れてもらえますか。うまくいっていることと改善が必要なことを、それぞれ2、3点ずつ簡潔に書いてください」
「全体量は、A4で3ページ以内にお願いします」
「以上の説明で、何かわからないことはありますか」
「何か困ったら、いつでも質問してくださいね」

と、こんな感じでいかがでしょうか。

「えっ、そんなに丁寧に説明しないとダメなの?」と思った方もいるでしょう。

そうなのです。初めての仕事を任せる場合には、自分が期待するアウトプットのイメージを、なるべく具体的に伝えることが大切です。

雑な指示を出せば、雑な結果しか戻ってきません。5W1Hに基づいて、可能な限り具体的に言語化しましょう。

最初にしっかり説明しておけば、2回目は「前回と同じ要領でお願いします」の一言で済むので簡単です。手間を惜しまず、最初の説明に時間をかけたほうがいいと思いませんか。

達成手段は本人に考えさせる

うまく指示を出して、「はい、終了」と思うのは早計です。部下が頭の中で具体的な行動を組み立てられているかどうかも、しっかり確認しましょう。具体的には、


「作業のイメージはできましたか?」
「手順を説明してみてください」

などと質問すればOKです。作業工程を説明できれば問題ないですし、どこかで行き詰まったら、改めて補足説明すればいいだけです。この言語化プロセスを入れると、部下の手が動き出すまでの時間を劇的に短縮できるのでおすすめです。

ここでもう1つ大切なことは、いい結果を出すための手段や創意工夫を、本人に考えさせることです。

自分で考えていなければ、いい結果が出たとしても「言われた通りにやっただけですから……」と謙遜し、手応えを感じられません。万が一にも、失敗した場合は、「言われた通りにやったんだから、失敗したのは上司の責任でしょ。私は悪くないです」と、他人に責任を押しつけやすくなります。

このような状態で部下の成長を期待するのは難しいですよね。

では、部下に自分で考えさせるためにはどうすればよいでしょうか。例えば、次のような質問を投げかけてみましょう。


「他の業務も忙しいですよね。時間調整はできそうですか?」
「見栄えよく仕上げるために、何か工夫はできそうですか?」

もし、部下のほうから、


「大丈夫です。毎朝30分をこの作業に充てます」
「プレゼンの本や、先輩の資料を見てみます」

などと自発的な発言が出たら合格です。それを少しだけ大げさに肯定し、最後に改めて期待する結果のイメージと、達成するための手段について合意しましょう。

他人に言われたことをやるより、自分で決めたことをやるほうが、ずっと楽しいと思うのが人情です。本人の取り組む姿勢が、ぐっと前のめりになります。

フィードバックと振り返りが重要成果物が提出されたら、まず率直にフィードバックをしましょう。

上司が何も反応を示さないと、部下は「あれでよかったのだろうか」と不安になります。シンプルに「イメージ通りにできています。ありがとう」と伝えるだけで安心できます。

フィードバックと振り返りが重要

成果物が提出されたら、まず率直にフィードバックをしましょう。

上司が何も反応を示さないと、部下は「あれでよかったのだろうか」と不安になります。シンプルに「イメージ通りにできています。ありがとう」と伝えるだけで安心できます。

フィードバックをしたら、振り返りも大切です。

振り返りの際に、私はいつも「ヒーローインタビュー」のような質問をしています。スポーツの試合後、インタビュアーが活躍した選手に「今日の勝因(もしくは敗因)は、どのような点ですか」「次の試合に向けた意気込みを聞かせてください」と質問をするのは鉄板ですよね。

これらの質問は、そのまま職場で使うことができます。

予定通りに成功を収めたなら、


「成功の要因は、どんなことですか」
「初めてでこれだから、次はもっとうまくできますよね。どんな工夫をしますか」

万が一にも、十分な結果が得られなかった場合は、


「小さな成功にとどまったのは、何が不足していたからだと思いますか」
「もう一度やれば、きっと大成功できますよね。その時はどんな工夫をしますか」

という具合です。

成功も失敗も、記憶がホットなうちに言語化して、記録するように促しましょう。

一連の振り返りプロセスによって、体系化されたノウハウが形成されます。

その知見を踏まえて、次はもう少しレベルの高い仕事を任せましょう。人材育成は、このサイクルの繰り返しです。

しかし、「現実はそんなに簡単じゃない」と感じた方もいるでしょう。

事実、その通りです。部下のタイプや置かれた環境、その時の状況によって、相手の反応はさまざま。任せた仕事に取り組んでいる中で、何か問題が発生することもよくあります。そんな時はどうしたらいいでしょうか?

千に一つの奇跡をつかめ!
和泉祐子
カルディアクロス 代表/人材育成・組織開発コンサルタント
上智大学外国語学部卒。外資系の商社に勤め、28才で初の昇進。元上司が部下になるという、逆転現象の洗礼を浴びる。米国本社でコールセンターと出合い、以降、外資企業6社でセンター長を歴任。「どんな人でも育てられる育成力があれば、人を選ぶ必要は無くなるはず」と考え、「採用基準のいらない組織作り」に邁進する。やがて業界屈指の優良センターとなり、数々の表彰を受ける。独自の手法が評判となり、延べ2,200人の見学・聴講者を受け入れた。2016年に独立。組織開発や人材育成、女性活躍を主なテーマに、コンサルタント・講師として活躍中。「コールセンターの教科書プロジェクト」共宰。

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