内閣府が2022年版の「高齢社会白書」を発表し、65歳以上で経済的不安を抱えていない人が68.5%に上ることが分かった。一方、不安を感じている人は31.2%。いわゆる「老後2,000万円問題」など、リタイア後の生活資金不足に関する懸念が高いとされるのをよそに、現在の高齢層はそれほど危機感を抱いていない状況が浮き彫りになった。
上昇の一途を辿る、日本の高齢化率
2022年版の高齢社会白書によると、日本国内の65歳以上人口は3,621万人 (2021年10月1日時点) であり、総人口に占める割合は28.9%だった。国民の3人に1人が高齢者という時代が近づきつつある。
総人口に占める65歳の割合は「高齢化率」といわれるが、1950年には5%にすら満たなかった高齢化率は、上昇の一途を辿っている。2017年4月に国立社会保障・人口問題研究所が公表した「日本の将来推計人口」によれば、総人口が減少傾向にある中で高齢化率は高まり続け、2065年には高齢化率は38.4%に達し、国民の2.6人に1人が高齢者という時代がやってくることが予想されている。
そうなると、今後の日本の社会を考える上で、一定の比率どころか多数派を占めることになる高齢者層の生活実態や経済感覚を把握する意味は大きいといえる。
経済状況「家計にゆとりある」12%
高齢社会白書では、65歳以上のうち経済状況について「心配ない」と答えた人の割合は68.5%だった。その内訳は、「家計にゆとりがあり、全く心配ない」が12.0%、「あまりゆとりはないが、それほど心配ない」が56.5%だった。
これら「心配ない」とした人が占める比率は、高齢者の中でも年配の層ほど高くなる。65歳以上を「65~74歳」「75歳以上」に分けると、65~74歳は計66.9%、75歳以上は70.3%だった。
高齢者世帯の所得、その他の世帯平均と比べて低い
高齢者世帯 (※) の平均所得金額 (2018年) は312万6,000円だった。全世帯から高齢者世帯と母子世帯を除いた世帯の平均所得金額664万5,000円と比べると、半分以下となっていることがわかる。 ※65歳以上の者のみで構成される世帯か、これに18歳未満の未婚者が加わった世帯
もっとも世帯人数の違いを調整した「平均等価可処分所得金額」では、高齢者世帯が218万5,000円で、その他の世帯が313万4,000円となる。つまり、高齢者世帯とその他の世帯の差は、世帯人数を加味すると小さくなるということだ。
ちなみに所得に関連していえば、公的年金や恩給を受けている高齢者世帯で、それらが総所得の100%を占める世帯は48.4%で、ほぼ半数に当たる。
65歳以上世帯は貯蓄現在高の中央値が全世帯の1.5倍
ここまでの説明で、高齢者世帯は現在の総所得が少ないものの、公的年金や恩給の支えもあり家計にはそれなりにゆとりがあり、将来への資金的な不安が少ないケースが多いと分かった。では、なぜ所得が低いのに余裕があるのかと言えば、その一因は貯蓄額の多さにあるとみられる。
2人以上の世帯の純貯蓄額は、世帯主の年齢と比例する傾向にある。実際、世帯主が60~69歳の世帯と70歳以上の世帯では、貯蓄現在高が2,000万円を超えているようだ。世帯主が65歳以上の世帯は貯蓄現在高の中央値が1,555万円で、全世帯の中央値1,061万円の1.5倍となっている。
全世帯を合計した金融資産を、10年ごとに区切った各世代がどれだけ保有しているかの比率を見てみると、2019年のデータでは60歳以上の世帯が保有する金融資産が63.5%を占めている。これは30年前の1989年に31.9%だったことから考えると、構成比は約2倍に高まっている。
働く高齢者の比率は上昇
2021年の労働力人口は6,907万人で、このうち65歳以上は926万人おり、構成比は13.4%となっている。この構成比は右肩上がりに上昇を続けている。20年スパンで見てみると、1980年は4.9%で、2000年は7.3%。2020年は13.3%で、年々高くなっていることが分かる。
もっとも、労働力人口に占める高齢者の構成比は、高齢者人口が増え続けている現状から考えれば、当然のことに思うかもしれない。
だが、世代ごとに分けて、働いている人、働いていない人の比率を見ると、実態が見えてくる。65~69歳は51.7% (2021年) で半数以上が働いている。2013年までは30%台だったので、近年になり働く高齢者の比率が急速に高まっているということである。
安心の資産形成へ、高齢社会白書を参考にする
最新の高齢社会白書から読み取れることは何か。少なくとも、今の高齢世代には経済的に不安を抱えている人が少ない。若い世代と比べれば貯蓄も多く、高齢者の人口構成比が高まっているだけでなく、労働市場での存在感もますます高まっている。
この高齢社会白書を見て、将来資産に不安を抱える現役世代が、今の高齢者層を羨んでも仕方ない。裏を返せば、今の高齢者層と同等の資産状況になれば、リタイア後への懸念が軽くなるということだ。
まずは自分の資産状況を洗い直し、あとどれだけの資産を確保すれば安心できるのかを考える材料として、高齢社会白書を参考にしてみてはいかがだろうか。
(提供:大和ネクスト銀行)
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