本記事は、伊藤智洋氏の著書『弱者でも勝ち続ける「株」投資術』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。

Words High-frequency trading with the financial data on the background.
(画像=Vitalii Vodolazskyi/stock.adobe.com)

個人投資家を右往左往させる高速取引

現在は、証券会社と取引所のコンピュータを直接つないで、高速で注文することができるようになっています。

高速取引(HFT、ハイ・フリークエンシー・トレーディング)は、コンピュータを駆使した超高速の取引で、過去の価格の動きを統計的に分析し、1秒間に数千回もの高頻度で売買の注文を繰り返します。

株式のほか、デリバティブ(金融派生商品)や外国為替などで使われており、取引規模が大きく流動性の高い市場を取引対象としています。

弱者でも勝ち続ける「株」投資術
(画像=弱者でも勝ち続ける「株」投資術)

1秒間に数千回もの高頻度で売買の注文を繰り返すので、わずかな変化でも利益を積み上げていくことができるため、「割高なものを売り、割安なものを買うという取引」「市場のゆがみを埋めていく取引」が中心になります。

「アルゴリズム」とは、コンピュータで計算を行なうときの手順や計算方法のことです。

相場で利益に結び付くやり方は複数ありますが、その時点で最も効率のよいやり方は限られます。アルゴリズムを使った取引では、その時点で最も効率よく利益を得られる方法を瞬時に解析して、取引を実行します。もちろん、実際に運用されているアルゴリズムは、それぞれの会社に固有のものであり、詳細は公開されていません。

ここでは、代表的なアルゴリズムのパターンの大枠として、アービトラージ系、マーケット・メイク系、執行系、ディレクショナル系の考え方を紹介します。

アービトラージ系は、市場の動きを分析し、裁定機会(同じ性格を持つ2つの商品のあいだで、割高なものを売って、割安なものを買うことができる機会)を探索して、裁定取引による収益獲得を狙います。

マーケット・メイク系は、市場に対して買・売の両方の注文を指値提示して、他の取引参加者からの注文を受けることで、スプレッド収益の獲得を狙います。

執行系は、大量の注文を出して、コストの最小化や、約定価格の最適化をしていきます。市場に対して大規模な注文を一度に出すと、その注文自身の影響により、需給バランスが崩れ、想定外の変化をもたらす場合もあります。そのような状況にならないように、注文を分割して、1回あたりの数量や頻度を最適化し、頻繁に注文を繰り返します。

ディレクショナル系は、市場内外から得られるさまざまな情報を分析して、短期的な価格変動を予測し、それに応じた取引を実行します。ディレクショナル系では、ニュースに反応するアルゴリズムというものもあります。社会の動きや異変、経済指数の発表といったニュースを監視し、価格変動に影響する情報が出たとき、即座に反応し、自動的に注文を出します。

昨今のコンピュータによる売買では、AIによるアルゴリズム取引と高速取引を駆使して、さまざまな手法で利益を得るための仕掛けを行ないますが、そのときの注文方法も、いろいろなタイプがあります。

ステルス注文は、市場に気づかれないようにカムフラージュして注文を出す方法です。板(注文画面上に表示される売買状況)にはたいした注文がなかったはずなのに、一般の投資家が注文を入れようとするとコンピュータがそれを察知、瞬時に注文を入れてしまうといった手法です。

見せ板は、他の投資家が注文を入れているように見せる方法です。売買の意思がないのに、特定の値段で大きな注文を出して、特定の値段で取引が集中しているように見せて、停滞していた価格を動きやすくしたり、市場参加者に特定の値位置を意識させたりすることに役立ちます。

アイスバーグ注文は、執行したいボリュームが非常に大きくなる機関投資家が仕掛けるときに使われます。大量の注文をそのまま市場で全量を執行してしまうと、自らの注文で値段が大きく変化してしまう場合があります。価格の急激な変化を防ぐため、大口注文を小口に分割して、可能な限りマーケットの価格形成に影響を及ぼさないように執行する方法です。

こうしたコンピュータによる売買によって、個人投資家はかつてよりも不利な立場に置かれるようになりました。いちばんわかりやすいのは逆指値注文です。個人投資家の注文方法が成行注文と指値注文がほとんどであることは変わりませんが、これらの注文のほかに、逆指値注文もできるようになりました。

逆指値注文は、主に手じまいするときに用います。買いを入れた建玉をそのままにしておくと、予期せぬ暴落場面で大損してしまうことも考えられますが、買玉に対して逆指値注文を入れておくと、設定した値位置以下へ下げた場合、「成行」または「指値」注文が自動的に発注されて、手じまいとなります。逆に、売玉に対して、逆指値注文を入れておくと、指値に設定した値位置以上へ上げた場合、「成行」または「指値」注文が自動的に発注されて、手じまいとなります。

リスク管理に良いとして普及してきた逆指値注文ですが、コンピュータを相手とした場合、あらかじめ損切りの場所を入力していることは、敵に自分の戦術をさらけ出しているようなものになっています。

「支持・抵抗」は罠として機能するようになった

前項で、敵に自分の戦術をさらけ出しているようなものになったと書きましたが、そのことによってどのような影響が出ているのでしょうか。

いちばん典型的なのは、従来からテクニカル分析で有用とされてきた支持・抵抗のあり方が変わってきたことです。

逆張りと呼ばれる投資手法があります。一定の流れができている場面で、その流れが行き過ぎている状態になると、価格は反転しやすくなります。逆張りは価格の行き過ぎの動きに狙いをつけて、反転した場面で仕掛け、行き過ぎが修正される動きを狙う投資の仕方です。

前項で、高速取引によって、市場のゆがみが狙われると書きました。そうであれば、価格が行き過ぎてしまう場所は以前よりも少なくなっているのではないかと考えたくなりますが、実際には、行き過ぎる場面が少なくなる以上に、少額の個人投資家にとって、やっかいな事態になっています。

弱者でも勝ち続ける「株」投資術
(画像=弱者でも勝ち続ける「株」投資術)

図表1-3は、押し目をつける場面での過去と現在の違いを示しています。

下降の最終段階で、売り一色となって、価格が下げ過ぎている状況です。図表の下段の線が日ベースの動き、上段のジグザグの線が時間ごとの動きのイメージです。

以下は、おおまかなイメージとして書きますので、実際にまったくこのとおりになるわけではありませんので注意してください。

以前は、押し目をつける場面で、多くの市場参加者が押し目だと推測できる場所の付近で止まり、押し目をつけた後は、徐々に下値堅さを確認する作業を経過して、上昇を開始していました。

ですから、多くの市場参加者が目安にしている場所を極端に上下に行き過ぎる動きにならず、個人投資家も、せいぜい数度の売り買いを仕掛ければ、(リスク管理のための逆張りの手じまい注文が執行されることはなく)反転場面での仕掛けを利益にすることができました。

しかし、現在は、多くの市場参加者が目安にしている場所などあてにならず、その地点を大きく下回ってしまいます。

それだけではなく、細かなジグザグと大きなジグザグを何度も繰り返して、何度でも、逆張りの手じまいの場所を抜けて、多くの投資家に損失を確定させる「罠」となっています。

それでもその日に押し目をつけてくれるなら、ジグザグもまだ許容できますが、日ベースでもジグザグを繰り返して、押し目だと推測した地点を何度となく割れて、押し目をつける日がズレていきます。

結果として、押し目をつける場所の見通しは当たっていても、個人投資家の多くが何度かの押し目買いと損切りを繰り返し、あきらめた後に、価格が上昇を開始してしまい、実際の利益に結びつかないという状況になってしまいます。

また、押し目買いと損切りを繰り返す回数が多いと、うまく反転上昇する場面に乗れたとしても、損失分を取り戻す程度で安堵して手じまいしがちで、大きな利益に結びつきにくい状況ができてしまいます。

どうしてこういう動きになるのかといえば、個人投資家が逆張りで買うポイントは、大口の売買が利益を上げやすいポイントだからです。

多くの市場参加者が押し目だと考えている場所では、その手前で多くの押し目買いが入りやすくなります。

一方で、押し目だと推測できる場所を割れると、いっせいに手じまいの売り注文が出て、その際、積極的な買いが少なくなるので、価格がさらに下げることになります。

大口投資家は、こういう場面で、押し目買いを新規売りで受けて、さらに一段安となる売りを入れて、価格を下げて、損切りの目安となっている場所以下へ価格を押し下げる作業を行ないます。

そして、個人投資家の手じまい売りが一巡する場所で、自分たちの新規売りを手じまいする買いを仕掛けて、利益を出していきます。

この取引は、新規売りを仕掛ける側の取引量が多く、売り側が圧倒的に有利な状況があるからこそ利益に結びつけることができます。

とはいえ、多くの市場参加者が反転上昇を期待している場所なので、一瞬のタイミングを読み間違えれば、価格が急反転して、新規に売った側が大きな損を出すリスクもあります。小幅な利益を確実に得るための戦略で大損したのでは、割が合いません。

だからこそ、かつては行き過ぎた後に押し目をつける場面では、ジグザグを繰り返すにしても、長くジグザグを繰り返す動きにならなかったわけです。ジグザグが長くなるなら、それは下げの流れがまだ継続しているだけで、行き過ぎという判断が間違いだったと素直に考えることができました。

一方、現在は大口の機関投資家が利益を上げるための取引が、利益を得られるあいだはずっと、何度も繰り返されているような値動きになっています。個人的な推測に過ぎませんが、理由は、AIの計算速度が上がっていることと、高速取引にあると考えています。一般の投資家の注文の多くは、市場にさらされています。AIは、注文状況を瞬時に計算して、自己資金とのあいだで推測できる勝敗を計算し、勝てるあいだはずっと仕掛け続けているのではないかと考えられます。

弱者が押し目買いで利益を出そうとしているあいだは、すぐ下に価格を一段安にしてくれる手じまいの売り注文がセットになって入っているのですから、これを売り崩してすぐに買い戻すことで、大口の機関投資家は利益を得続けることができます。

これは1秒にも満たない時間のなかで、利益計算と仕掛ける場所と注文方法を選択することができるからなせる技だといえます。そして、個人投資家があきらめてしまい、新規の押し目買い注文がまばらになるまで、利益を追求している可能性があります。

現在は、それができる環境が整っています。

実際に、そのような取引が実行されているかどうかはわかりません。

しかし、お金を投資するのですから、考えられる状況は、すべて起こっている事象として見ておくべきなのです。

弱者でも勝ち続ける「株」投資術
伊藤智洋(いとう・としひろ)
証券会社、商品先物調査会社のテクニカルアナリストを経て、1996年に投資情報サービス設立。株や商品先物への投資活動を通じて、相場予測の有効性についての記事を執筆。株探の「伊藤智洋が読む 日経平均株価・短期シナリオ」などで、株価、商品、為替の市況を解説するほか、シグマベイスキャピタルのeラーニング講座「テクニカル・ファンダメンタル コンビネーション分析コース」講師を担当。
『チャートの救急箱』(投資レーダー社)、『投資家のための予想&売買の仕方マニュアル』(同友館)、『株価チャートの実戦心理学』(東洋経済新報社)、『テクニカル指標の読み方・使い方』『株は1年に2回だけ売買する人がいちばん儲かる』『ローソク足チャート究極の読み方・使い方』(以上、日本実業出版社)など著書多数。

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