本記事は、伊藤智洋氏の著書『弱者でも勝ち続ける「株」投資術』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。
テクニカル分析で利益を得るためには「信じる」ことが不可欠
本記事では、「そもそもテクニカル分析で利益を得るとはどういうことか」について復習しておきます。値動きを予測するための根っこになっている部分を理解したうえで、それが現状で有効に機能するかどうかを再考してもらいたいからです。
株式相場の値動きを予想するやり方には、ファンダメンタルズ分析とテクニカル分析があります。
ファンダメンタルズ分析で扱う情報は、株式市場全体なら、景気の動向を示す経済指標、その年の財政・金融政策、個別銘柄なら、個々の企業の財務状況、企業理念、経営計画など、価値判断の基礎になるものになります。
株価の変動の根っこにあるものは、個々の企業の場合、増益ならば株価が上昇する、市場全体の場合、市場全体へ入る資金の量が増えるなら、市場全体の株価が上がりやすくなり、指標となる指数が上昇するといったことです。ファンダメンタルズ分析は価格変化の核心部分の分析だといえます。
一方、テクニカル分析では、値動きだけを見て、その先の価格が上がるのか、下がるのかを判断します。テクニカル分析の場合、その根拠は「信じる」ということだけです。過去の値動きから類推される確率を信じるか、値動きに意味を見つけて、その見方を信じるかのどちらかです。
テクニカル分析を追求するということは、「何かあなた(=テクニカル分析)を信じられる根拠を教えてください」と値動きに問い続ける作業です。
『アカギ』という麻雀の漫画があります。アニメ化されているのですが、アニメの第2話で、「賭けているものがないとき、勝負を制するのはセンスと集中力」「賭けたものがある場合、それらの能力だけでは絶対に勝てない」「いくら相手の手の内が読めても、その読みを自分が信じられなければ無意味」という解説があります。
まさに、これが駆け引きで勝利をつかむ本質です。「心の底から信じられるもの」がなければ、どこかでつまずき、再び投資へ向かう勇気を奮い立たせることができなくなります。
よく知られているテクニカル指標に、移動平均線というものがあります。
単純移動平均線は、終値の一定期間の平均値を結んだ線です。ある銘柄の終値が移動平均線よりも上にあれば、計算期間内で、買い側が利益を得ている人が多いと考えられるため、その後も価格が上昇する可能性があると推測します。
この推測には、ほとんど根拠がないので、信じるための理由を積み上げていきます。
ある銘柄で、移動平均線を終値が上抜いた後、60%程度の確率で、5営業日以上その状態を維持して、価格が100円幅以上の上昇を経過したというシミュレーションの結果が出たとします。
検証するために仕掛けてみたところ、〇を勝ち、×を負けとして、順番に「╳、╳、〇、〇、〇、╳、╳、〇、〇、〇」となったとします。
結果として、トータルではデータどおりの勝率で利益も出ていたとしても、たとえば4回目の負けで3勝4敗となった時点で、想定していた勝率と違う結果になり、かつ、4回の負けのなかで、一度でも大損になる取引があって、全体でも損になっていたら、取引を継続できるでしょうか。たいていの方は、不安になり、取引を中止するか、次の取引以降で、損失をカバーできた時点でやめてしまうのではないでしょうか。
一方で、仕掛けの開始が2回遅れて、結果が「〇、〇、〇、╳、╳、〇、〇、〇、╳、╳」となって、途中の大損もなく上記と同じ利益が出たとします。こちらは途中で想定していた勝率を下回ることもなかったことから、自分の発見が利益になることを自らが証明し、強く信じられるようになるのではないでしょうか。
検証を開始するスタート地点が少し後ろにずれただけで、自分のなかでの価値が大きく変わってしまいます。
とはいえ、後者の投資家が今後もずっと利益を得られるのかといえば、そうではありません。
過去データから得られる確率は、しょせん確率でしかありません。長く取引を継続していれば、確率と異なる場面や、大幅な損失が積み重なる場面があらわれて、いずれ信頼が薄れていきます。
このように書けば、テクニカル分析を使って投資するということが、どれだけむずかしいことに挑戦しているのかがわかってもらえるのではないでしょうか。
現状を考慮すれば、もう、テクニカル指標を使って勝ち続けることなどできないのかもしれません。だからと言って、「テクニカル分析で勝ち続けることなどできない」と結論づけてしまおうというわけではありません。
人の世の中では、必ずわかる未来があります。
それは、人が何か目的をもって積極的に行動しているとき、その人がどう動くかということです。
ただし、目的を持って行動していても、いい加減な人、長続きしない人であれば、想定しているような未来に行きつかないでしょう。
確実に、未来を予測したいのならば、その人や企業がそうせざるを得ない状況を探すことができれば、そこには、必ずわかる未来があります。そして、そうであれば、強く信じて、投資を続けることができます。
このことが値動きを予測するためのポイントになるということを、解説します。
1年間の値動きの予想は時間の経過ごとに精度が高まる
予想というのは、(1)基準になるシナリオをつくり、(2)そこからのズレを確認し、(3)修正し、(4)予想の信頼性を高めていく作業になります。
ゴルフでは、そのホールの形状や距離などを見て、グリーンから逆算した自分なりの攻略法を考えてからスタートしていると思います。第一打が想定よりも飛ばなかったら、第二打の予定を7番アイアンから5番アイアンに変更して、足りない距離を稼ぐのか、自分の使いやすいアイアンを優先的に選択するのかなどを決めて、最初の予定を修正しながら進んでいきます。
スタート地点では何通りかあった攻略法が、一打ごと、ピンに近づくごとに絞られていき、イメージとのズレも少なくなっていきます。
値動きを予想する作業も同じことです。最初に想定できるいくつかのシナリオを作成して、時間の経過に合わせて、未来が現実になっていく過程で、シナリオを修正していきます。その結果、最初は複数あったシナリオが、節目になる場所を経過するごとに絞られていきます。
だから、値動きの予想は、時間が経過していく過程で、精度が上がっていきます。
こう書くと、「時間の流れは永遠と続くのだから、シナリオが絞られることなんてないのではないか」と思った方もいるのではないでしょうか。しかし、テクニカル分析における時間には必ず期限があります。
その理由を書きます。
ファンダメンタルズ分析は、価格を動かす芯の部分を基準にしていると前述しました。
価格を動かす芯の部分ですから、その時点で注目を集めていなくても、いずれ注目されて、価格が評価のとおりに動き出すと考えられます。だから、ファンダメンタルズ分析での予想は、「どこまで、いつから上昇するかはわからないけれど、いずれ上昇を開始する可能性が高い」という、期間と目標のあいまいな読みになりますし、それで十分なのです。
一方で、テクニカル分析には、価格を動かす芯になる根拠などありません。人々が価格を動かしている行為そのものを分析しているのですから、その時点で人々に注目されているか、常に人々から注目されている対象に対してしか、予想が成り立ちません。
株式市場でいえば、市場全体の動きに影響を受けやすい銘柄(日経225やその構成銘柄が中心)や人気化している銘柄、あるいは特定の時期に必ず注目される理由のある銘柄が、「テクニカル分析の当てはまりのいい銘柄」になります。
テクニカル分析では、そうした対象を利用して、「いかに売買差益を得るか」ということを予想します。そのため、予想の期間と目標となる場所(値位置)がはっきりと示されていなければ、役に立ちません。
つまり、テクニカル分析で値動きを予想するということは、期間と値段を一定の範囲内に絞り込んで、そこまでの道筋を描く作業だといえます。
目標となる場所があいまいでは、日柄を経過する過程で、シナリオを修正していく作業も、結果としていい加減で、意味のないものになってしまいます。
そして先ほども書いたように、予想を組み立てるときの根拠は、必ずそうなる可能性がある事象である必要があります。筆者は、それを「人が何か目的をもって積極的に行動しているときに推測できる未来」だと考えています。
このように定義すると、それまで、見えていなかったものが見えるようになります。
つまり、市場には、多くの市場参加者が一定の方向へ誘導されるような仕掛け(策略)があるということです。
信頼できる予想は、いつまで、どこまでの何通りかの目安があって、その道筋を修正し、絞っていく作業なのです。ですから、「市場を誘導する側がいて、一定期間、特定の場所(値位置)というおおまかな目安へ向かって、多くの市場参加者を導いている」という前提がなければ、テクニカル分析での予想は、意味のないものになってしまいます。
これはいわゆる陰謀論の類ではありません。
私見になりますが、テクニカル分析での予想に意味があると考えている人は、当然、市場全体を誘導する仕掛けがあることを前提としているはずなのです。
そのことを考えもせずに「テクニカル指標が買いサインをつけた」などと言っている人たちは、本質を理解せず、表面だけを語っているに過ぎません。
なお、ここで、「市場全体」と書いたのは、株の個別銘柄で値動きを誘導する仕掛けを実行すれば、金融商品取引法に違反する犯罪となるからです。時々ニュースにもなるように、それを密かにやっている投資家もいるのでしょうが、本記事ではそういう犯罪を前提としているわけではありません。だから、誘導するための仕掛けとしては、景気対策のような、誰もが平等に知ることができ、かつ相場全体を動かすと思えるような材料を用いることを前提としています。
1990年にバブルが崩壊した後、アベノミクスが実行される2013年までの期間、日経平均株価は、戻せば売られる展開を継続し、徐々に下値を掘り下げてきました。そのような動きのなかでも、1990年から2012年までのあいだに日経平均株価は、
- 1992年8月~1993年3月(7,087円幅)
- 1993年11月~1994年6月(7,087円幅)
- 1995年7月~1996年6月(8,455円幅)
- 1998年10月~2000年4月(8,046円幅)
- 2003年4月~2007年2月(1万697円幅)
- 2008年10月~2010年4月(4,414円幅)
と6回の値幅と日柄のともなった上昇を経過しています。
それぞれの上昇場面では、すべて政府が大規模な経済対策を実行して、株価を上昇へと導いています。
このように、はっきりと多くの市場参加者が意識できる材料を使って、投機家は、株価を一定の時期まで、一定の値位置まで引き上げるように誘導していると考えられます。
主導する側がいて、目標となる場所と期間があるから、価格は似た動きを繰り返して、テクニカル分析の当てはまりのいい展開になるのです。
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