本記事は、明石順平氏の著書『データで見る 日本経済の現在地』(大和書房)の中から一部を抜粋・編集しています。
バブルの失敗をまた繰り返す
太 株価が本来あるべき価格よりも上がってしまっているのは、バブルのときと共通してるね。なら土地はどうなの?
モ 目のつけどころがいいね。では、土地も同様に高くなっているのか、公示価格の推移を見てみよう。
太 えーと……、バブル時代がすごすぎて、これじゃよく分からないね。
モ じゃあ2000年以降だけを切り取ってみよう。そうすればグラフの傾きが分かりやすい。
太 2000年以降だけ見ると、リーマン・ショック前の時点で地価の急上昇があり、そこからリーマン・ショックで落ち込んで、アベノミクス以降に上昇が再開したのが分かるね。
そして2020年までずっと上昇している。やはりお金を増やすと、それが土地に流れるということだね。
モ そうだ。結局、バブルで起きたことをまた繰り返しているんだ。ただ、その規模はバブルのときと比較にならない。
太 ラクしていい思いをしたいから、同じ手段に行き着くんだね。こうして色々なデータを見ると、アベノミクスが実質的な成果にことごとく結びついていなくてツラいね。でも、円安になったから、さすがに輸出は伸びたんじゃないの?
円安で輸出は伸びた?
モ 輸出の額だけを見れば円安の影響で大きく伸びたんだが、量は伸びなかった。輸出金額、価格、数量を指数で確認してみよう。
モ 輸出金額というのは、輸出の「総合計額」のことであり、輸出価格というのは「単価」のことだ。輸出金額と価格は円安の影響を受けて2013~2015年にかけて大きく伸びた。2016年は円高になったので落ちたが、2017年から再び円安基調になったので上昇した。
他方、輸出数量指数は2016年まで横ばいであり、2017年からようやく上昇したが、2018年の105.6がピークだ。2019年は前年から4.6ポイントも落ちた。アベノミクス前の2010年の数量指数は109.2だ。つまり、アベノミクス以降の数量指数は、2010年の水準を一度も超えていないんだ。
要するに、輸出される商品の量が増えて輸出が伸びた、というわけではない。外貨建ての価格を据え置きにし、円安の為替効果によって、円換算の金額がかさ上げされただけだ。例えば、1万ドルの商品があるとする。1ドル80円なら、この商品の価格は円換算で80万円、1ドル120円なら120万円だ。ドル建てでの値段は同じ1万ドルだが、円建てに直すと40万円も売り上げが変わる。だけど、輸出数量が増えたわけではないので、原材料を輸入し、それを国内企業に納入する企業などはまったく恩恵を受けない。
太 なんか円安でかさ上げしてるだけって感じなんだね。
モ そうだね。そしてアベノミクスの「効果」は日本の財政面にも大きな影響を与えている。