本記事は、北 宏志氏の著書『新しい教え方の教科書』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。
令和の上司は共に歩みを進め、成長するスタンスで、心理的安全性を高める
皆さんはこれまで、指導・教育におけるスタンスを意識したことはありますか。
例えば、〝友達みたいな〞関係だったり、〝部活の先輩後輩〞風だったり、人によっては〝上司は絶対〞というスタンスの方もいるかもしれません。さすがに、〝上司は絶対〞スタンスが令和の時代に通用しないことは、おそらくご理解いただけるでしょう。
では、令和の上司はどのようなスタンスでいるべきなのか。
それは、部下と共に歩みを進め、共に成長するスタンス!ぐいぐいと引っ張っていくのでもなく、後ろからそっと見守るのでもなく、隣にいて、共に考え、共に動いていくスタンスこそが、令和に求められるものなのです。
ではなぜ、このようなスタンスが良いのか。
そこには1つ、Z世代ならではのキーワードが隠れています。それが、書籍などでもしばしば見かけるようになった〝心理的安全性〞です。この言葉は、1999年にエイミー・エドモンドソン氏が提唱、「チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態」と定義されています。チーム内で心理的安全性が確保されていることで、活発な意見交流ができ、健全なコミュニケーションが図れる。このような環境が維持されていることを、Z世代の若者たちはとても重視しているのです。
では、スタンスの話に戻りましょう。ぐいぐいと引っ張っていくスタンスの場合、後ろからついていく部下はどんな気持ちでしょうか。〝ついていくことに必死?〞、〝正しいと思われる道を教えてくれているのに、後ろから意見や疑問を言いづらい?〞、ハードそうですね。後ろからそっと見守るスタンスの場合はどうでしょうか。〝そもそも見守られているかどうか分からない?〞〝後ろで悪口を言われていたらどうしよう?〞、上司は見守っているつもりでも、部下は後ろから〝見張られている〞と思っているかもしれません。
ということで、心理的安全性を確保するための適切な距離は、前でも後ろでもなく、隣にいて、共に、伴走者として寄り添った状態なのです。
行動を褒めるよりも、存在を認めるのが令和式
共に歩みを進めるスタンスにおいて、上司から部下への声かけは欠かせません。
では、どのような声かけがより効果的なのでしょうか。
よく取り上げられるのは〝褒めて伸ばす〞教育でしょう。たしかに、褒められて嫌な気持ちになる人はあまりいません。例えば、〝つくってくれた書類、とても上手だったよ〞という誉め言葉は、頑張って書類をつくった甲斐があったな、また頑張ろう……と次の行動を促すきっかけになります。このような、行動を褒める言葉は、部下のモチベーション維持・向上に一定の効果があるでしょう。
しかし、時代は令和です。行動を褒めるよりももっとZ世代の若者たちに刺さる方法があります。それが、存在を認めること。多様性、コスパにタイパ、共感に心理的安全性など、すでにさまざまなキーワードが出てきていますが、令和において、「存在を認める」も、ポイントとなる言葉です。
では実際に、どのように部下の存在を認めれば良いのか、マネジメント層の皆さんはちょっと悩んでしまうかもしれませんね。
しかし、それほど難しく考える必要はありません。例えば、〝あなたがいてくれるおかげで、職場が明るくなった〞〝提案に同席してくれたおかげで、スムーズに話がまとまった〞といったようなフレーズはどうでしょうか。その人の存在を認め、それに感謝していることが伝わる言葉だと思います。
令和式は、何かをした行動を褒めるのではなく、その人がいてくれることを認める。
このことを覚えておいてください。
人はイメージできないと動けない、完成物や動画を見せてゴールをイメージさせる
突然ですが皆さん、今、「空を飛ぶ潜水艦の羽の仕様書を書いてください」と言われたらどうしますか。その道の専門家である場合を除き、ほとんどの人が〝見たことがないものは書けない〞と考えるのではないでしょうか。
空を飛ぶ潜水艦は極端な例だとしても、人はイメージが浮かばないものに対し、アクションしづらいもの。どんなものなのか分からないという状態では、何をすれば良いのか見当もつかないのです。
これは仕事においても同じ。新入社員や若手社員にいきなり「仕様書を書いて」と指示を出しても、彼らはそれがどんなかたちのもので、何が書かれているのか、作成にはどんなステップがあるのか、分かりません。マネジメント側は、初めての業務にトライさせるにあたり、適切な準備をしてあげることが必要です。
その一例が、完成物や動画を見せるという方法です。完成物があれば、部下は〝正解〞を直接見ることができます。あるいは、実際の物を紹介した動画や、プロセスを描いた動画などがあれば、作成までの道のりを知ることが可能です。
指導・教育の場において、しばしば言われるのは〝ゴールの姿を示す〞ことの大切さ。見たことのない、想像もつかないゴールではなく、部下側が触れることができ、イメージを持つことができるゴールを提示することも、マネジメント層のすべきことの1つなのです。
人材育成コンサルタント
大学卒業後、立命館大学に関係する中高一貫校で6年間社会科教諭として勤務。その後、「ララちゃんランドセル」を製造・販売する(株)羅羅屋に転職。中国での3年間の駐在中は経営幹部として部下80名を束ね、中国国内の売上を3年間で9.7倍に拡大させ黒字化させる。帰国後、日本とアジアの架け橋となり、教育をより良くしていきたいという思いから、人材育成コンサルタントとして独立。 現在は、Z世代の若手社員の研修を中心に全国35都道府県で600回以上の登壇実績を持ち、これまでの受講生は17,000名を超える。受講者にやる気スイッチを入れる熱血講師として定評があり、「研修業界の松岡修造」の異名を持つ。大手企業や各種団体から依頼される研修・セミナーのリピート率は90%を超える。離職率低下の実績も多数。 ※画像をクリックするとAmazonに飛びます