世界最大規模のロボット見本市である「2023 国際ロボット展」が、2023年11月29日~12月2日まで、4日間の会期を終え閉幕しました。
コロナ禍の影響で2020年は未開催、2021年は縮小して開催。3年ぶりの本格開催となる今回、国外企業では中国企業が最多の出展数となり話題となりました。
年間の設置台数でも世界一位となり、躍進を続ける中国産業用ロボット市場の現在地と今後の見通しはどのようなものなのか。
同イベントで「中国産業用ロボット市場の最新動向」のテーマでセミナーを実施した株式会社エム・アイ・アールの来長勝氏に中国の製造業の状況について伺いました。
ーーまずはエム・アイ・アール社の概要について教えて頂けますでしょうか。
中国の製造業市場に特化したマーケティングリサーチや、販路や代理店開拓などのサービスを提供しています。中国の北京に本社を構えており、当時増加していた製造業の市場調査ニーズに対応すべく、2008年に創業されました。
当初はファクトリーオートメーションに関する調査のみを行っておりましたが、その後PLC、サーボやインバータなど調査対象の幅を広げております。また創業当初より日系クライアントからも多くご依頼を頂いており、増加する情報提供ニーズにお応えするべく、日本における現地法人として株式会社エム・アイ・アールが設立されました。その他カナダやベトナム、シンガポールにも拠点を置いており、調査員を含めグループ全体で200名の従業員を抱えています。
ーー先日の国際ロボット展にて来さんが講演された中国の産業用ロボット市場についてのセミナーは満員と盛況でした。熱心に聞き入っている聴講者が多く印象的でしたが、日本の製造業関係者の中国への関心をどのように感じましたか。
引き続き中国市場や中国ローカルの製造業への高い注目を感じています。
個別にお話を聞くと、中国企業の台頭に危機感を感じており、その競争力の源泉の一つであるコスト構造などについて詳しく知りたいというご相談が多かったですね。
ーー中国製造業、特にロボットに関する現在の概況を解説いただけますか
2015年より中央政府が「中国製造2025」という産業政策を掲げています。
これは2025年までに中国が製造強国の仲間入りを果たし、2049年までに世界の製造強国の先頭に立つことを目標とする長期戦略で、10の重点産業と23の分野を設定しており、その一つにロボットが位置付けられています。
【10の重点産業と23の分野】
10産業 | 23分野 |
次世代情報技術 | IC・専用設備、情報通信設備、OS・産業用ソフト、スマート製造のコアとなる情報設備 |
高度なデジタル制御の工作機械・ロボット | CNC工作機械・基盤製造設備、ロボット |
航空・宇宙設備 | 航空機、航空エンジン、航空機設備・システム、宇宙関連設備 |
海洋エンジニアリング・ハイテク船舶 | 同左 |
先端的鉄道設備 | 同左 |
省エネ・新エネ自動車 | 省エネ自動車、新エネ自動車、コネクテッドカー |
電力設備 | 発電設備、送変電設備 |
農業用機材 | 同左 |
新素材 | 先進基盤素材、コア戦略素材、先端新素材 |
バイオ医療・高性能医療機械 | バイオ医薬、高性能医療機器 |
当初は官主導で製造業の高度化を推進する一方で、中国のローカル製品に対するユーザーの信頼が高まらず、中国の工場であっても外資系のロボットや工作機械が多く使用されていました。
しかしコロナ禍を経て大きな変化が起こります。
外資系の製品が輸入しづらくなり、ローカルのロボットや工作機械を活用せざるをえない状況となりました。その中で実際使用してみたら意外と使えるな、ということでローカル系製品に対する見方がかなり変わりつつあります。2023年上半期では、中国国内の市場シェアの約40%をローカルメーカーが占めており、今後はさらに拡大する見通しで、中国以外でも本格的に活用が進んでいくのではないかと予想しています。
ー中国国内でのシェアが拡大する一方で、GDP成長率ではかげりが見え、これまでのような経済成長は期待できないとみる向きもあります。経済全体の停滞が製造業に与える影響をどのようにお考えですか。
やはり影響は大きいです。ただ元々の販売の絶対量が圧倒的に大きいので、業界全体への影響力は変わらず強いと思います。
また、最近の米中関係の悪化で中国製の製品が輸出しづらくなっていることもあり、中国の製造業企業が自社工場を海外にシフトする動きが活発になっています。
例えばEMS(電子機器受託生産)の領域 で世界最大の企業グループであるFoxconn(鸿海精密工业股份有限公司)のラインが去年からベトナムに移管されていますし、EV(電気自動車)メーカーとしてテスラを猛追するBYD(比亜迪股份有限公司)もタイやベトナムの方に工場を作り始めていますね。
ーー海外で生産拠点を作り、その生産拠点から直接輸出する動きが出ているのですね。中国メーカーの海外展開は強まっているのでしょうか
先程述べた通り中国マーケットにおけるローカルメーカーのシェアが拡大しており、そこからさらにグローバル企業を目指そうという企業が増えています。
海外展開の流れとしては、まずエンドユーザーである完成車メーカーなどが進出し、その動きにあわせてサプライヤー、装置メーカーやロボットメーカーが追随するのが一般的ですね。
進出先としては現在東南アジアが中心ですが、北米エリアにおいても興味深い動きがでてきています。従来北米エリアではエンドユーザーが工場内で使用する設備まで指定するケースが多かったのですが、その設備選定の選択をSIerに任せるケースが増えてきています。結果として廉価な中国製AGVメーカーやセンサーメーカーが採用されることが増えてくるのではないかと考えています。
ーー中国の工場における自動化やスマートファクトリーの取り組みについて教えてください
中国独自の建設設計のルールが、スマートファクトリー化の促進を後押ししています。中国で工場を新設する際には、設計院という地方政府が管轄管理する設計企業を通す必要があります。この設計院に対して、大手FAメーカーなどが最新のテクノロジーを活用した設計案で提案営業をかけており、その提案内容がそのまま新工場の設計に反映されることも多いです。その結果、工場のスマートファクトリー化が進行しやすくなっています。中国では日本と比較し職人の技術力が相対的に低いことから、積極的にデジタル技術を活用して品質の安定化を図ろうとしている背景もありますね。
また大手IT企業が製造業に進出し、スマートファクトリーを実現しようという動きも見られます。
例えばTencent(腾讯控股有限公司)はIoTやデジタルツインの技術を活用した産業向けプラットフォームである「WeMake」を提供してデータドリブンなスマート工場の実現を後押ししていますし、Alibaba(阿里巴巴集团控股有限公司)も関連企業のデータを活用して多品種少量生産を実現するプラットフォームを構築しようとしています。
ーー特に注目すべき中国のロボットメーカーとしてはどのような会社があるのでしょうか
総合的なロボット/FAメーカーとして今一番勢いがあるのがInovance(匯川技術股份有限公司)という会社です。
工場や発電所など、従来日系企業が強かったプロジェクト型のトータルソリューションが求められる領域で、Inovanceが受注するケースも目立ってきています。
またHCFA(禾川科技股份有限公司)という会社も産業用オートメーションの領域で大きく成長しており、この2社は注目すべき会社と言えます。
ーー日系企業と比較して、これらの躍進している中国企業の競争優位性はどのような点にあるのでしょうか
高価格で高品質な製品から低価格で低品質な商品まで幅広く網羅して自社製品を展開できることが彼らの強みです。
逆に日系企業の場合、「どうやって良い製品を作るか」という点を重視してしまい、安い金額で低品質の製品を作ることがなかなかできない。
そのため、大きな需要が存在する中〜低価格帯の製品ニーズを中国企業が軒並み取り込んでいる結果となっています。
また当初は低価格製品のニーズしかなかったクライアントであっても、中国国内でのシェア拡大とともに企業規模が拡大し、その成長にあわせて高価格製品の提供に切り替えるという好循環も起きていますね。
ーー企業の成長ステージに応じて幅広く対応できる強みがあるのですね
その通りです。また以前に弊社で取材した際に興味深い話がありました。
ベトナムでFoxconnの生産ラインを作っている会社があり、アップル社の製品を作っています。そこではAirPodsなどの製品ライフサイクルに合わせて生産ラインを設計しており、その該当モデルの製品ライフサイクル期間である数年間さえ問題なく稼働できる程度の品質で良いという発想をもってコスト競争力の高いサービスを提供していました。日系企業の場合だと、技術力や品質に対するブランドが高いために、そこそこの品質のものを安く作るという発想がなかなかしづらい。
この発想の違いがコスト競争力に現れ、日本を初めとした競合企業との差別化につながっていると考えています。
ーー最後に、読者へのメッセージをお願いします
日系の調査会社や販売会社から上がってくるレポートはどうしても日本人の目線でのデータとなってしまいます。
市場シェアに関するレポートを例にすると、日本や欧米の主要企業は個別の企業名で記載されているものの、それ以外は「その他」と分類されていることが少なくありません。しかし中国企業を中心に「その他」の割合は年々拡大しており、その中にこそ経営判断において重要な要素となりうる情報が含まれています。ここに我々の情報を活用する価値があると考えており、従来の情報ソースとは別の視点からご活用いただけると幸いです。
株式会社エム・アイ・アール:https://mir-industry.co.jp/
(提供:Koto Online)