投資信託の分配金で暮らしている人は、どれくらいの資金を運用しているのでしょうか。分配金はリターンにならない場合もあるので、仕組みを理解した上で投資することが重要です。本記事では投資信託の分配金で暮らす方法やシミュレーションをまとめました。
投資信託の分配金で暮らしている人はいる?

資産運用に使える金額が多ければ、投資信託の分配金で生活するのは不可能ではありません。仮に普通分配金(※)をベースに利回りを3%とする場合は、単身世帯で約6,700万円、2人以上世帯では約1億1,700万円の資金が必要です。
利回りが増えるほど投資の必要資金は減り、利回り10%では2,000~3,500万円の資金が目安になります。この計算結果から、理論上は投資信託の分配金で暮らすことができると考えられます。もちろん、数千万円単位の資金や高い利回りが必要になることを考慮し、預貯金の利息とは異なり支払いが保証されているものでもないことを考えると、実現するハードルは高いといえます。
(※)運用益から支払われる分配金のこと。
投資信託の分配金で暮らしている人のシミュレーション
投資信託の分配金での生活を考える前に、固定金利で支払われる金融商品を購入した場合、どの程度の利回りで暮らしていけるのかをまず考えたいと思います。
年間の利回り(※)を1%とすると、単身世帯で2億114万4,000円、2人以上世帯で3億5,279万6,400円の資金が必要になります。利回りを3%または5%とした場合のシミュレーション結果は、以下の通りです。
(※)投資金額に対する利益の割合。基本的には1年間の割合で表される。
<世帯別の投資に必要な資金>
利回り | 単身世帯 | 2人以上世帯 |
---|---|---|
3% | 6,704万8,000円 | 1億1,759万8,800円 |
5% | 4,022万8,800円 | 7,055万9,280円 |
上記のシミュレーションは、総務省統計局による「家計調査(家計収支編)」の生活費を参考に計算をしています。
<単身世帯の生活費>
消費項目 | 1ヵ月あたりの支出額 |
---|---|
食料 | 4万2,049円 |
住居 | 2万3,799円 |
光熱・水道 | 1万3,045円 |
家具・家事用品 | 5,760円 |
被服及び履物 | 4,447円 |
保健医療 | 7,367円 |
交通・通信 | 2万1,654円 |
教育 | 2円 |
教養娯楽 | 1万8,794円 |
その他の消費支出 | 3万704円 |
合計 | 16万7,620円 |
<2人以上世帯の生活費>
消費項目 | 1ヵ月あたりの支出額 |
---|---|
食料 | 8万1,738円 |
住居 | 1万8,006円 |
光熱・水道 | 2万3,855円 |
家具・家事用品 | 1万2,190円 |
被服及び履物 | 9,297円 |
保健医療 | 1万4,645円 |
交通・通信 | 4万2,693円 |
教育 | 1万446円 |
教養娯楽 | 2万8,630円 |
その他の消費支出 | 5万2,498円 |
合計 | 29万3,997円 |
以下では、投資信託の分配金で暮らしている人のシミュレーション結果をご紹介します。
利回り1%での必要資金
前述の家計調査(家計収支編)を参考にすると、1年間の生活費は単身世帯で約201万1,440円、2人以上世帯で約352万7,964円です。年1%の利回りでこの生活費を賄うには、少なくとも以下の資金が必要になります。
<計算式>
1年間の生活費÷利回り=必要資金
<単身世帯の場合>
201万1,440円÷1%=2億114万4,000円
<2人以上世帯の場合>
352万7,964円÷1%=3億5,279万6,400円
上記の計算では取引時や保有中のコスト、税金などを考慮していないため、実際の必要資金はやや増えると考えられます。また、これが投資信託の場合は、運用成果は基準価額にも左右されるので、あくまで目安として参考にしてください。
利回り3%での必要資金
次に、同じ流れで利回りが年3%のシミュレーションを行います。
<単身世帯の場合>
201万1,440円÷3%=6,704万8,000円
<2人以上世帯の場合>
352万7,964円÷3%=1億1,759万8,800円
利回りが年1%のケースと比べると、必要資金は1億円以上減ることが分かりました。
利回り5%での必要資金
利回りが年5%のケースでは、以下の資金が必要になります。
<単身世帯の場合>
201万1,440円÷5%=4,022万8,800円
<2人以上世帯の場合>
352万7,964円÷5%=7,055万9,280円
上記のケースより必要資金は減りましたが、年5%の利回りでも数千万円単位の資金が必要になります。
では、ここからは、分配金で暮らせるかどうかを考えたいと思います。
投資信託の分配金はリターンになるとは限らない
投資信託の分配金は、必ずしもファンドの収益から支払われるわけではありません。分配金には「普通分配金」と「特別分配金(元本払戻金)」の2種類があり、支払われ方によってはリターンにならないことがあります。
普通分配金の仕組み
分配金が支払われた後に、基準価額(※)が個別元本と同額または上回っている場合は「普通分配金」と呼ばれます。簡単に言えばファンドの収益から支払われる分配金であり、普通分配金はその年の配当所得として課税されます。
(※)投資信託の取引価格の基準となる金額。「純資産総額÷総口数」で一口あたりの基準価額が計算される。
特別分配金の仕組み
分配金が支払われた後に、基準価額が個別元本を下回る場合は「特別分配金」と呼ばれます。個別元本を払い戻す形となるため、特別分配金は投資家のリターンにはなりません。
普通分配金も同様ですが、投資信託の分配金は信託財産から支払われます。分配される度に純資産総額が減るため、運用状況によっては分配後の基準価額が個別元本を下回り、その下回った部分が特別分配金として扱われます。
ファンド運用の安定性を示す「分配金健全度」とは
投資信託の分配金で安定した生活を送るには、各ファンドの「分配金健全度」に着目することが重要です。分配金健全度は、1年間の分配金に対する普通分配金の割合を示す指標です。割合が大きいほど普通分配金の割合が高くなるため、ファンドの運用が安定している状態を表します。
分配金健全度は、「1年間の分配金合計÷1年間の普通分配金」で計算できます。証券会社の公式サイトなどから必要な情報を収集し、気になったファンドの分配金健全度を計算してみましょう。
投資信託の分配金で暮らすための方法
投資信託の分配金で暮らしている人は、どのような方法で資産運用をしているのでしょうか。そのヒントとして、金融商品のリターンを増やすポイントをご紹介します。
貯蓄や資産運用で必要資金を貯める
上述したように、固定金利で利息をもらえるとしても、利回り5%であったとしても7000万円ほどの資金が必要でした。投資信託の分配金利回りはもっと高い商品が多いものの、それらの数字は保証されているものではなく、また、自分がだした運用資金が戻ってきているだけの場合(特別分配金)もあります。
投資信託の分配金だけで平均以上の生活を送るとしても、少なくとも数千万円単位の資金が必要です。そのため、まずは日頃から貯蓄や節約を心がけて、必要資金を貯めることから考える必要があるでしょう。
前述では3パターンの必要資金をご紹介しましたが、以下では分配金利回りをさらに細かく分けて、平均的な生活を送るための必要資金をまとめました。
<世帯別の投資に必要な資金>
分配金利回り | 単身世帯 | 2人以上世帯 |
---|---|---|
1% | 2億114万4,000円 | 3億5,279万6,400円 |
2% | 1億57万2,000円 | 1億7,639万8,200円 |
3% | 6,704万8,000円 | 1億1,759万8,800円 |
4% | 5,028万6,000円 | 8,819万9,100円 |
5% | 4,022万8,800円 | 7,055万9,280円 |
6% | 3,352万4,000円 | 5,879万9,400円 |
7% | 2,873万4,857円 | 5,039万9,486円 |
8% | 2,514万3,000円 | 4,409万9,550円 |
9% | 2,234万9,333円 | 3,919万9,600円 |
10% | 2,011万4,400円 | 3,527万9,640円 |
上の表を参考にしながら、必要になる資金や分配金利回りを考えてみてください。
目標金額まで遠い場合は、ほかの金融商品での資産運用も選択肢になります。たとえば、国内株式や外国株式に投資をしたり、譲渡益に期待して投資信託を取引したりすると、効率的に資金を貯められるかもしれません。ただし、元本保証が備わっていない金融商品には、損失が生じるリスクもあります。かえって資産を減らしてしまう可能性もあるので、運用方法は慎重に判断してください。
投資信託の分配金で暮らす際の注意点
投資信託の分配金を活用して生活していくためには、以下3つの注意点を意識しながら運用を続ける必要があります。
【1】分配金の方針が変わることもある
分配金を支払う方針は、ファンドの運用成績などによって変わる場合があります。そのため、投資信託の保有中には運用状況を定期的に確認し、方針が変わったら売却することも検討しましょう。
【2】基準価額の下落で損失がでる可能性もある
投資信託のリターンは基準価額にも左右されます。購入時から基準価額が下がっている場合は、普通分配金を含めても売却時に損失がでるかもしれません。基本的には、基準価額を確認するだけではなく、分配金を含めたトータルリターンが長期的に右肩上がりで推移しているか、今後も上昇を続ける可能性があるかを確認しましょう。
【3】パフォーマンスによっては繰上償還になる
繰上償還とは、当初予定されていた運用期間を迎える前に、投資信託の運用が終わることです。保有中のファンドが繰上償還になった場合は、その時点で個別元本が払い戻されます。繰上償還になる条件については、各ファンドの目論見書などに記載されています。
【4】1年間の分配金に対して税金がかかる
NISAや確定拠出年金を利用せずに普通分配金を受けとると、1年間のリターンに対して20.315%の税金(所得税や住民税)がかかります。仮に1年間で100万円の普通分配金を受けとると、20万3,150円(100万円×20.315%)の税金が徴収される計算です。
税金を支払った後に生活費分の資金を残すには、いくらの分配金を受けとればよいでしょうか。平均の生活費を基準として、二人以上世帯と単身世帯に分けて計算をしてみます。
手元に残る資金(税引き後)÷(1-20.315%)=必要な分配金(税引き前)
352万7,964円÷0.79685=約442万7,388円(二人以上世帯)
201万1,440円÷0.79685=約252万4,239円(二人以上世帯)
上記の「手元に残る資金」に当てはめる数字を変えると、ご自身の生活水準に合わせたシミュレーションができます。
投資信託だけではなく、ほかの資産運用と組み合わせることも検討しよう
3%の利回りを想定すると、投資信託の分配金だけで暮らすには6,000万円以上の資金が必要です。2人以上で生活をする場合や、余裕のある生活を送りたい場合は、さらに多くの資金が必要になります。
また、繰り返しになりますが、投資信託も分配利回りは預貯金の利息とは異なり、固定されているものではなく、運用実績によって変わる可能性があり、また、高い利回りに見えても自分の資金が戻ってきているだけの場合もあります。
また、分配金はファンドの純資産総額から支払われるため、分配金支払い後の純資産総額は減少し、基準価額が下落する要因となります。分配金で暮らすことを考える場合、そうしたことも考慮に入れて検討が必要であり、最も重要なのは分配金も含めてのファンドのパフォーマンスと分配金の利回りが釣り合っているのかどうか、あるいはパフォーマンスの数値が分配利回りを超えているのかどうかが重要になります。
投資信託の分配金だけでなく、ほかの資産運用も含めて検討し、組み合わせることも考えてみましょう。
※本記事は投資信託に関わる基礎知識を解説することを目的としており、特定ファンドの売買や投資を推奨するものではありません。
(提供:Wealth Road)