〔要旨〕

2023年に得られた5つの市場の教訓と、2024年についての5つの予測
(画像=Wealth Road編集部)
  • 金利が重要:多くの欧米中央銀行が積極的な引き締めを行ったため、金利に対して非常に敏感な環境となっている
  • 政策当局による警戒:政策当局は2024年も警戒を怠らず、過去の引き締めから生じる問題に迅速に対処するだろうと楽観的に見ている
  • 現金重視の投資家も参入:2024年初頭に「FOMO(機会を取り逃すことへの恐れ)」が加速し、現金重視の投資家たちも、株式や債券への移行に導かれると考えられる

2023年: 得られた5つの教訓
2024年開始にあたって注目されるFRB
2024年: 5つの予測
注目の日程

新年明けましておめでとうございます。1月になったということは、2024年の世界市場がどうなるか、予測する時期が来たということです。しかしその前に、昨年1年間で学んだことを振り返ることが重要です―市場、経済、中央銀行について学んだことは数え切れません。そこで、まず2023年に得られた5つの重要な教訓を振り返った上で、今年期待される5つのポイントについて述べることとします。

2023年: 得られた5つの教訓

  1. 各国の政策当局は、積極的な利上げが行われた結果、何かが「壊れる」可能性に非常に敏感になっています。2023年3月のミニ地方銀行危機や、2022年9月の英国債危機の際に見られたように、政策当局は起こりうるアクシデントに積極的に対処してきました。このことは、今後投資家にとって一定の安心材料となるでしょう。私は政策当局が、金融政策の長く可変的なラグを認識し、多くの中央銀行の積極的な引き締めに起因するいかなる問題にも、警戒を怠らず、迅速に対処していくだろうと楽観的に見ています。
  2. 米連邦準備制度理事会(FRB)が自ら「こうする」と言った内容ではなく、データが「FRBがこう動くだろう」と指し示す内容を信じるべきです。私がここ数カ月論じてきたように、ディスインフレの実質的な進展が続いているにもかかわらず、多くの中央銀行のメンバーは、表向きにはタカ派的なスタンスを維持する発言を行っています。最新の「ドットプロット」(FOMCメンバーによる金利予測分布図)では、FRBが2024年に0.75%の利下げを行う見通しが示唆されましたが1、私は、FRBは1.0-1.5%の利下げを行う可能性が高いと考えています(もちろんデータ次第となりますが)。
  3. 金融政策は市場に過大な影響を与えました。昨年は、金利が非常に重要な要素となりました。多くの欧米先進国で激しい引き締めのサイクルとなったことに鑑み、金利に対して非常に敏感な環境となっています。2023年終わりの数カ月間の長期金利の低下は、株式から債券、金に至るまで、多くの異なる資産クラスに対して強い影響を及ぼしました。
  4. 心理が経済に与える影響を過小評価してはいけません。私は、パンデミック後の経済再開となることから、昨年中国経済が力強い回復をすると予想しましたが、景気刺激策が十分ではないことへの懸念から、企業や消費者の心理が低調となる可能性を織り込んでいませんでした。しかしそれはまた、企業や消費者が今後の政策により満足するようになれば、心理が急速に改善する可能性があることの示唆でもあり、私は実際そうなるのではないかと予想しています。
  5. 私は、分散投資は依然として重要だと考えています。昨年、いくつかの主要な資産クラスで見られたことを振り返ってみましょう:
    • 株式。中国株は上で述べたような経済への懸念から期待外れとなりましたが、全体として世界の株式は昨年、20%以上上昇しました2
    • 債券。世界の債券は昨年、年間を通じて上昇しました3が、特に欧州と米国のハイ・イールド債の上昇が顕著でした。
    • コモディティ。コモディティは低下しましたが、金は、地政学的リスクから来る買い、中央銀行による買い入れ、そして年後半の金利低下に需要が後押しされ、昨年揺るぎない強さを示しました4

まとめると明らかに、2023年は市場にとって良い年だったと言えます―「ひどい年」だった2022年の傷を癒してくれました。2022年をカントリー・ミュージックの曲名で表現するとすれば、私なら「How can I miss you if you won’t go away?(去っていかないなら、どうすれば貴方を恋しく思えるだろうか?)」としたでしょう。しかし昨年1年については、全く同じようには感じません。2023年をカントリー・ミュージックの曲名で表現するなら、「If You Leave Me, Can I Come Too?(私を置いて行くのなら、ついて行ってもいい?)」がふさわしいと思います。

つまり、2023年は良い年だったということです。もし投資環境が変化するとしたら、ほとんどの人は、熱心に2024年のスタートを切ろうとは思わないでしょう。

2024年開始にあたって注目されるFRB

さて、2024年初めの取引営業日数日は、残念なことにより厳しいものとなりました。これは、今年のFRBの利下げ幅に関する不安と混乱の表れと考えられます。またタカ派的な 「Fedspeak(FRB関係者の発言)」や直近のデータも、これに拍車をかけました。

ダラス連銀のローガン総裁は最近の講演で、「抑制的な金融条件は、需要を供給と整合させ、引き続きインフレ期待を良くアンカーさせる(安定的に維持する)上で重要な役割を果たしてきた。十分に抑制的な金融条件を維持しなければ、物価安定の維持は期待できない」と説明しました5。これは、タカ派的な発言がなされている理由を説明する上で役立ちます。

私は、多少の懸念及びボラティリティは続くと考えられるものの、今後数カ月間で出てくるデータによって、FRBが今年大幅な利下げを行うことがより明確になり、株式と債券を後押しするだろうと考えています。言い換えれば、2024年上半期は、ボラティリティは高まるものの、概ね2023年下半期最後の数カ月の続きになるだろうと考えています。

2024年: 5つの予測

  1. 少なくとも1つの選挙では、結果にサプライズがあると予想しています。しかしこれまで見てきたように、選挙は長期的には市場を左右することはないため、心配には及ばないと考えています。(私の同僚ブライアン・レビットによる、米国大統領選挙と株式市場のパフォーマンスに関する分析をぜひご参照ください。)
  2. 私は今年の早い段階で、FRBからタカ派的な発言が更に出てくるだろうと予想しています。これは、FRBが金融環境の緩和を抑制する手法です(上記のローガン総裁発言の引用にもある通り)。しかしこうしたタカ派的な発言は、利回りを上昇させ、株式その他の資産を下落させ得ることから、市場の乱高下が大きくなる可能性を認識しておく必要があります。
  3. 市場の幅は拡大し続けるでしょう。言い換えれば、2023年のように一握りの銘柄によって市場のパフォーマンスが左右されることはなくなると考えています。私は新興国株、新興国債券と並んで、小型株に最も期待しています。
  4. 私は2024年初頭に、市場のパフォーマンスに対する「FOMO(機会を取り逃すことへの恐れ)」が加速し、現金重視の投資家たちも、株式や債券戦略への移行に導かれると考えています。投資家がリバランスを行い、エクスポージャーが低い分野への投資を増やすことで、分散投資が進むと予想しています。
  5. 今年下半期には、株式がより軟化する可能性があります:市場が2025年への懸念を織り込むことで、上半期の上昇分をある程度「戻す」可能性が考えられます。

注目の日程

公表日

指標等

内容

1月8日

ユーロ圏消費者インフレ期待

将来の物価上昇率に関する
消費者期待を測定

1月8日

ユーロ圏小売売上高

消費需要を測定

1月8日

ユーロ圏失業率

労働市場の健全性を示す

1月8日

米国消費者インフレ期待
(ニューヨーク連銀)

将来の物価上昇率に関する
消費者期待を測定

1月8日

米国消費者信用残高

個人に供与された与信残高を報告

1月9日

日本CPI

インフレの動向を示す

1月9日

ドイツ鉱工業生産

鉱工業セクターの健全性を示す

1月10日

中国ローン残高成長率

消費者や企業に供与された
ローンを測定

1月11日

米国CPI

インフレの動向を示す

1月11日

中国CPI

インフレの動向を示す

1月12日

英国国内総生産

地域の経済活動を測定

1月12日

英国鉱工業生産

鉱工業セクターの健全性を示す

1月12日

米国生産者物価指数

生産者に対して支払われる
モノ・サービスの価格変化を測定

  • 1.出所:FRB、2023年12月13日
  • 2.出所:ブルームバーグ、2023年12月29日、MSCI ACWI価格指数で測定。MSCI ACWIは、先進国および新興国の大型・中型株を代表する指数とみなされるアンマネージド・インデックス。価格指数は配当や現金払い出しを加味していない。
  • 3.出所:ブルームバーグ、2023年12月29日。欧州・米国のハイ・イールド債はICE Bank of Americaのユーロ・ハイ・イールド・インデックスと米国ハイ・イールド・インデックスで測定。ICE Bank of Americaのユーロ・ハイ・イールド・インデックスは、ユーロ圏内またはユーロ債市場で公募発行されたユーロ建て投資適格未満社債のパフォーマンスをトレースする。米国ハイ・イールド・インデックスは、米国国内市場で公募発行された米ドル建て投資適格未満社債のパフォーマンスをトレースする。ICE All Maturity Global Broad Market Index で測定されたグローバル債券は、米国国内市場で公募発行された米ドル建て投資適格未満社債のパフォーマンスをトレースする。
  • 4.出所:ブルームバーグ、2023年12月29日。S&P GSCI指数で測定されるコモディティ。S&P GSCI指数は、活発で流動性の高い先物市場の対象となっている主要な現物商品で構成される、世界の生産量加重でみたアンマネージド・インデックス。 金のスポット価格はブルームバーグの集計データに基づく。
  • 5.出所:ダラス連銀、2024年1月6日

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

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