さまざまな業界でDXが進む中、ERP導入に失敗する中堅・中小企業も存在します。ERPはあくまで業務効率化をサポートするものであり、導入だけですべての課題を解決できるわけではありません。

ERP導入を成功させるには、その目的を明確にして製品を選ぶことが重要です。本記事では失敗事例を交えて、ERP導入を成功させるポイントやコツを解説します。

目次

  1. ERPとは
  2. ERPの導入目的
  3. ERP導入の失敗事例
  4. ERP導入における成功のポイント
  5. 専門家の力を借りながら自社に合ったERP導入を進めよう

ERPとは

ERP導入の課題とは?事例とともに解説
(画像=metamorworks/stock.adobe.com)

ERP(Enterprise Resources Planning)は、日本語では「基幹システム」「統合基幹業務システム」と訳されます。現在では、経営データを一元管理するシステムを指すことが多く、スピーディな経営判断や分析、製造プロセスの効率化などに活用されています。

具体的にどのような機能があるのか、まずは基本的な役割や機能を紹介します。

ERPとは経営資源を一元管理すること

ERPとは、企業経営の原動力となる資源を分配し、有効活用のために最適化する計画です。現在では、膨大なデータから資源計画を策定するシステムも登場しており、「ERPシステム」「ERPパッケージ」などと呼ばれています。

意味が似た用語としては、資材所要量計画を表す「MRP(Materials Requirements Planning)」があります。いずれも資源管理に関わる用語ですが、MRPは生産管理や在庫管理に重点を置いた計画です。対して、ERPはあらゆる業務プロセス(会計や財務、人事、生産、物流、販売など)を対象としているため、MRPを経営全体に応用したものと言い換えられます。

ERPの役割は、さまざまな経営資源を一元管理することです。部署や拠点を超えてデータを集約し、統合的にデータを管理・分析できるため、経営分析のスピードや正確性、リアルタイム性などが上がります。

ERPはさまざまな種類・機能がある

システムとしてのERPには、すでに多くの種類や機能があります。自社に合った導入形態を判断するために、主な種類・機能についても押さえておきましょう。

<ERPの主な種類>
1.統合型
会計や給与、人事、販売など、経営の基幹業務を網羅的にカバーしているERPです。「オールインワン型」や「全体最適型」とも呼ばれており、主にグループ会社や大企業などが導入しています。

2.コンポーネント型
会計や販売など、必要な業務システムのみを選んで導入できるERPです。業務の追加機能があるため、導入範囲を後から拡大することもできます。

3.業務ソフト型
会計や発注など、特定分野の業務を一元管理できるERPです。導入範囲が限定されているため、上記の2つに比べると費用が安い傾向にあります。

上記の他、ERPは運用体制で種類が分けられることもあります。

自社でサーバーなどの機器を設置し、導入から保守運用まで行うシステムは「オンプレミス型」と呼ばれます。一方で、インターネット上で運用するシステムは「クラウド型」と呼ばれており、近年では柔軟性が高い(※)クラウドが主流となっています。

(※)クラウド型には複数のデバイスからアクセスできる、自動アップデートされるなどの柔軟性がある。

ERPの導入目的

製造業におけるデジタルスレッドとは?デジタルツインとの違いや活用事例について詳しく解説
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ERPの導入目的としては、生産性向上やデータの可視化が多い傾向にあります。ただし、製造業においては規模・業種によって課題が異なるため、導入目的を一概に言うことはできません。

<ERPの導入目的の例(製造業)>
・販売データに基づいて、必要な部品数や製品数を予測したい
・製造コストを抑えるために、原材料や部品の購買計画を見直したい
・在庫やリードタイムを最適化したい

全体の傾向として、グローバル企業ではサプライチェーンの可視化や自動化を目的にしているケースが多く見られます。例えば、ERPで調達部品や販売経路などをデータ化し、低コストで運用できる仕入先・出荷先などを分析すれば、大きなコスト削減を見込めるでしょう。

一方で、国内企業はWMS(倉庫管理システム)としてERPを活用するなど、導入目的の範囲がやや狭まります。ただし、特殊な管理方法が必要になる業界は、ERPの搭載機能では対応できない場合があるため注意が必要です。

ERP導入の失敗事例

ERPの導入に失敗すると、現場に大きな負荷がかかったり、機能を使いこなせなかったりなどの弊害が生じます。かけたコストが無駄になってしまうため、導入後の効果を見据えて計画を立てなければなりません。

ここからは、ERP導入でよく見られる失敗事例やその対策を紹介します。

導入目的が明確ではない

ERPを導入するには、従来の業務プロセスを見直したり蓄積するデータベースを設計したりなどの変革が必要です。そのため、導入目的を曖昧なままにしておくと、施策の方向性を誤るリスクが高まります。

特に注意したいのは、ERPを扱う現場が目的を理解できていないケースです。経営トップが明確な目的を伝えていない場合は、運用を現場に押しつける形となるため、ERPの機能を十分に生かすことはできません。いくら高いコストを支払っても、このような状況で効果を期待することは難しいでしょう。

ERPの導入目的は、時代の変化に合わせて設定することが重要です。必ずしも経営戦略に則る必要はなく、状況によっては部署や業務を切り分けて個別最適で相談する企業も見られます。

経営のサポートがない

全社的にERP導入を進める場合は、部署間や拠点間のコミュニケーションが必須です。しかし、全ての導入先に同じ効果が現れるわけではないため、各部署・各拠点が利害で対立するかもしれません。

失敗例としてよく見られるのは、CIOやCDOといったプロジェクトリーダーのみが指揮をとるケースです。例えば、縦割り組織は部署間・拠点間の関係が薄いため、リーダーが動くだけでは協力体制を築けないことがあります。

したがって、経営トップは以下のような対策を考えて、プロジェクトをサポートする必要があります。

<ERP導入をサポートする対策>
・プロジェクトのチェック体制を構築する
・現場に対して、ERP導入の目的や方向性を強く意思表示する
・経営トップが俯瞰的に判断し、プロジェクトの方向性を都度調整する

また、ERP導入では社内だけではなく、取引先やクライアントにも目を向けましょう。システム変更にあたって受注方式などを変えると、顧客の負担が増えることもあるためです。

このような判断を現場に任せると、取引先との関係が崩れる場合もあります。特に製造プロセスの変更は、顧客にも大きく影響する可能性があるため、必要に応じて社外にもプロジェクトの概要を伝えましょう。

ベンダーやSIerに丸投げしている

ERPを提供するベンダーやSIer(システムインテグレーター)は、システム導入・運用の専門家です。企業にとっては頼れる存在ですが、専門家に導入・運用を丸投げしていると、プロジェクトは思ったようには進みません。

ERP導入を成功させるには、システムの機能と業務内容のフィット&ギャップ(※)を分析し、埋め合わせる作業が必要です。そのため、業務プロセスを理解している企業側が、積極的にアイデアを出すことが求められます。

(※)システムと自社要件の「適合部分(fit)」と「乖離部分(gap)」を分析または計測すること。

ERP導入に対するマインドセットを変えるには、以下のような視点で計画を立てることが重要です。

<ERP導入で企業側が持っておきたい視点>
・ERPへの投資で、将来的にどのような売上や効果を実現したいか考える
・エンドユーザーにどのような価値を提供したいのか考える
・ベンダーやSlerの将来性や信用性もしっかりと見極める

なお、ERP導入はあくまで手段であり、企業にとってのゴールではありません。導入後には新たな課題やトラブルを洗い出し、システムの仕様や設定を調整する必要があります。

このブラッシュアップについても、企業側がイニシアチブをとりながら計画を立てるようにしましょう。

ERP導入における成功のポイント

ERP導入を成功させるには、正しい方向性でプロジェクトを進める必要があります。以下では、製造業の中堅・中小企業が意識したい3つのポイントを紹介します。

チェンジリーダーの存在

経営トップの立場からでは明確な目的は示せても、現場の細かい課題や変化には気づけません。そのため、プロジェクトを円滑に進めるには「チェンジリーダー」の存在が必要です。

チェンジリーダーの役割は、プロジェクトの主導だけではありません。経営トップと現場がコミュニケーションを図れるように、必要な情報をそれぞれに共有する必要もあります。

チェンジリーダー

上記の役割を踏まえて、どのような人材を選定すべきなのか整理しておきましょう。

<チェンジリーダーに求められる資質>
・プロジェクトを推進するための熱意
・各部署間を調整し、協力体制を構築する能力
・現場が積極的に意見できるムードを作り出す能力

システムの変革に抵抗感があるスタッフもいるため、チェンジリーダーは環境づくりが重要な仕事になります。進捗も確認したいところですが、細かいスケジュール管理まで立ち入ると、現場の意欲を削いでしまうかもしれません。そのため、経営トップやチェンジリーダーは、ある程度の運用を現場に任せることも重要です。

また、初めてのERP導入では、不測のトラブルが生じる場合もあります。トラブルはいち早く察知する必要があるため、ミスや失敗を共有しやすい環境づくりも意識してください。

プロセス変革から始める

経営環境の変革にはリスクが伴い、規模が大きいほどハードルも高くなります。例えば、海外拠点をもつ企業が統合型ERPを導入すると、さまざまな業務プロセスを変革する必要があるため、円滑に進まない可能性が高まります。

そのため、製造業のERP導入ではスモールスタートを意識しましょう。インフラではなく、工場などの製造プロセスから変革を始めると、効果を検証しながら徐々にERP導入を進められます。

<製造プロセスを変革する例>
・モバイル端末で発注できるシステムを導入する
・売上データを一元管理し、月次集計の手間を削減する
・日報を共有し、従業員全体のナレッジを高める
・リアルタイムの進捗状況やスケジュールをモニターで表示する
・勤怠システムを導入し、給与計算や勤怠管理を自動化する

製造業では上記のようなスモールスタートから始めて、ERP導入を横展開していく成功例が多く見られます。効果検証によって導入実績を出せば、部署間や拠点間の協力関係もスムーズに構築できるかもしれません。

ERPの導入範囲を絞れば、初期コストや取引先への影響を抑えられるといったメリットもあります。現場への負担も意識しながら、優先的に改善すべきプロセスを見極めましょう。

業界特化のERPを選ぶ

規模や目的にもよりますが、製造業では業界特化型のERPが向いています。

統合型のERPでは、会計から販売に至るまでさまざまなデータを一元化できます。ただし、1つの業界や規模に特化しているシステムではないため、少しでも特殊なプロセスがあると対応できない可能性があります。

その点、製造業に特化したERPでは、複雑な受注システムやサプライチェーンの改善なども実現できます。

<業界特化型ERPの機能例(製造業)>
・在庫や倉庫、引当出荷に関するデータの統合
・生産計画や出荷スケジュールの最適化
・現場スタッフがアクセスできるワークフォースデータの作成

ERP導入では専門知識が求められるケースもあるため、エキスパートな専門家を選ぶことも重要です。例えば、自社と近い業態や規模の導入実績が多いベンダーを選べば、安心して導入・運用を任せられます。

ERPのサポート体制は、ベンダーやSIerによって異なります。抱えている課題や改善したいプロセスを意識し、的確にサポートしてくれる専門家を選びましょう。

専門家の力を借りながら自社に合ったERP導入を進めよう

複数の受注方式や独自の設備など、製造業は特殊なプロセスが多い傾向にあります。そのため、あらかじめ目的を明確にし、企業側が主導で変革を進めないと、ERP導入に失敗する可能性は高まります。

ERPと聞くと大きな変革をイメージするかもしれませんが、一部のプロセスを最適化するだけでも効果は期待できます。特に予算が限られている中堅・中小企業は、スモールスタートを意識して計画を立てましょう。

また、導入範囲が狭くても現場には負担がかかるため、経営トップやチェンジリーダーによるサポートも重要です。変化を望まない風潮や古い慣習がある場合は、環境づくりから取り組まなければなりません。

エキスパートな専門家の力も借りながら、自社に合った導入計画を考えましょう。

(提供:Koto Online