この記事は2024年1月12日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「「WAR」から考察する大谷翔平の破格の契約金」を一部編集し、転載したものです。


「WAR」から考察する大谷翔平の破格の契約金
(画像=Bargais/stock.adobe.com)

(米野球データサイト「FanGraphs」)

2023年シーズンの大谷翔平選手は打者として打率3割4厘、本塁打44本で本塁打王を獲得。投手としても防御率3.14、10勝をマークし、21年に続き2度目のMLBアメリカンリーグのMVPを受賞した。MVPを選考する全米野球記者協会の会員30人全員が1位票を投じたのは驚嘆に値する。

メジャーリーグのMVP選考において、重視される指標がある。それはWAR(Wins Above Replacement)と呼ばれる指標で、「控えレベルの選手と比較して、そのチームに何勝分の貢献をしたか」を表す。大谷選手のWARは9.0であることから、「大谷がエンゼルスに9勝を上積みさせる活躍をした」という評価になる(図表)。WARの計算は、打者と投手で算出方法が異なるが、大谷選手は打者のWARだけでも他の候補選手よりも高い上、投手分のWARを加算すれば他を圧倒しており、客観的な評価からしても、MVPは妥当といえる。

WARは選手の市場価値を計る上でも重要であり、「1勝当たりに期待できる市場価値(収益)」にWARを乗じた金額が選手の適正年俸とされている。過去の例を挙げると、ロサンゼルス・エンゼルスのマイク・トラウトがWAR9.5を記録し、18年オフに12年4億2,650万ドルで契約を結んだ。ニューヨーク・ヤンキースのアーロン・ジャッジはWAR11.6を記録した22年オフに、9年3億6,000万ドルでそれぞれ大型契約を結んでいる。マイク・トラウトとアーロン・ジャッジの年俸を足してWARで割ると、WAR1当たり年俸350万~370万ドル程度の価値があると考えられる。

もっとも、今回大谷選手を獲得したロサンゼルス・ドジャースはかなりの経済力を有したチームで、19年にボストン・レッドソックスで活躍しWAR6.4だったムーキー・ベッツに12年総額3億6,500万ドル。21年にアトランタ・ブレーブスでWAR4.9を記録したフレディ・フリーマンに対しては6年1億6,200万ドルの契約を交わしている。これより、ドジャースのWAR1当たりの年俸は470万~550万ドル前後と推定される。

ドジャースは大谷選手に対し、10年総額7億ドルという北米プロスポーツ史上最高額での契約を提示したと報じられている。大谷選手の年俸は7,000万ドルとなり、WAR9.0で割ると、WAR1当たり約778万ドルとなる。仮に、過去のドジャースの事例と同等のWAR1当たりを500万ドルとすれば、本来4,500万ドル(=WAR9×500万ドル)が大谷選手の適正年俸となるため、(契約の大半が後払いのために単純比較はしづらいが)今回の契約金額がいかに破格であるかが分かる。

メジャーでのMVPやホームラン王獲得、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)優勝と野球選手として数々の栄誉を獲得してきた大谷選手。いまだに手に入れていないのが「ワールドシリーズ優勝」だ。今回のドジャース移籍がそれを実現するための最良の選択であったことを今年の活躍で証明してもらいたい。

「WAR」から考察する大谷翔平の破格の契約金
(画像=きんざいOnline)

江戸川大学 客員教授/鳥越 規央
週刊金融財政事情 2024年1月16日号