人材採用のエキスパート、LHH転職エージェントに訊く!② DX人材の需給トレンドと評価される人材の特徴

DX人材の獲得競争が激化する製造業。上編では、人材サービスのグローバルリーダーであるAdecco Groupで、日本における人材紹介・転職事業を展開するLHH転職エージェントのEMC紹介部の部長を務める原真人氏に、製造業のテクノロジーを駆使したデータドリブンな企業変革(DX)を実現する人材を取り巻く現状などについて伺いました。下編では、最先端技術とプラント領域での人材紹介を担当する同社の今井健介氏に、実際の転職事例などを伺います。

原 真人氏
今井 健介氏
New Tech&Plant紹介部 部長
北海道大学を卒業後、マーケティング・コンサル会社で約10年間、メーカー向けの電気・電子分野の技術コンサルティングを担当。その後、大手人材紹介会社を経て、2014年にLHH転職エージェント(アデコ株式会社)に入社。人材コンサルタントとして、電気・機械業界などのエンジニアを専門に担当。

――今井さんが担当されているプラント領域、最先端技術での、採用市場の傾向についてお聞かせください。

今井氏(以下同) プラントでは自動車や医薬、化学などの業界を担当しています。営業から開発まで幅広い求職者の方の転職をサポートしています。また、最先端技術では次世代通信やロボティクス、設備自動化といった領域に加え、昨年から宇宙開発領域のサポートにも注力しています。

業界を問わず、プラント領域における勤務経験が評価されやすい傾向にあります。例えばプラントで用いられる機械や設備に対して電気のエンジニアリングを施すといった意味では、どの業界も共通しています。若手は特に需要が大きく、引く手あまたな状況です。

――プラントでもDX関連の求人はありますか。

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プラントの予防保全に関する求人があります。故障に関する予測を行い、保全するシステムを自社内で構築しているプラントもありますし、故障予測システムをサービスとして提供している企業もあります。センサーの設備やシステムの構築は完了してデータは収集できるフェーズになっているものの、収集したデータをどのように分析し活かしていくかが課題となっている企業もありますね。

――人材の高齢化が叫ばれる製造業において、DX分野で求められる人材の年齢層はいかがでしょうか?

DXにおいて評価される技術を持っている人材は、50歳以下の方に多い印象があります。50代の方の中にもプロジェクトを統括する立場としてDXに取り組んできた方はいらっしゃいますが、実務経験が不足している場合が多いです。そういった意味で、20~40代の人材需要が高い印象です。

――どのような経験がDX人材として評価されますか。

工場や生産技術、設計を経験したことがあり、さらにDXの取り組みに参加した経験が評価されます。具体的には、DXだけでなく「設計×DX」といった組み合わせの知識、経験がある人材ですね。国内の製造業においては、製造現場でどのようなデータを収集し、どのように業務を改善するかを検討するフェーズにいる企業がほとんどです。そうした現場では、2つ以上のスキルの組み合わせが求められます。

また、DX事業の全体像が描ける人材も貴重です。既存の業務を改善する際に、必要なデータの選定と取得方法や、そのデータの活用方法を設計できる方は希少です。

――どの企業もDX人材の獲得には苦戦しています。今後DX人材を取り巻く市場はどのようになると予想していますか?

IT全体におけるDX人材の割合は増えていくと思います。ただ、IT人材は今後、少子化の影響を受けて減少していくと推測されます。そうしたときに、実質のDX人材の絶対数は減少するのではないでしょうか。したがって、今後も製造業のDX人材は不足した状態が続き、獲得競争はさらに激しくなると考えられます。

DX人材の獲得は、外資系企業を含めすでに争奪戦となっています。特に20~30代でDXの経験を持っている人材ですと、IT企業やコンサルも含め選択肢が幅広くなります。例えば、半導体の製造工場でビッグデータの取り扱いや分析の経験がある人材は、一見関連性のない金融業界にも転職できる可能性があります。
――そうした中で、企業がDX人材を確保するためには、どのような施策が必要ですか。

社内でDX人材を育成していく必要があります。社内にノウハウがなくても、出向の形で社外での育成を図るのも一つの手です。そして、働き方も含め、年収などの諸条件をスキルに見合った処遇に改善することが求められます。

ただ、一概に給与を上げれば良いという話でもありません。互いに気心の知れたチームで新しい事業に挑戦できるなど、職場の環境を整えることも必要です。

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同時に、人材の流動性についても、ある程度寛容になることも必要です。DX人材の獲得においては、メーカーだけでなくIT企業も競合します。従来のメーカーですと、「長く働いてほしい」という考え方に基づいて終身雇用を前提としている企業がまだまだ多いですが、IT企業ですと雇う側も雇われる側も終身雇用を前提に考えていない場合がほとんどです。そのため、採用する際には、転職回数の条件など自社で定める基準を緩和するなど寛容性も必要です。

――DX人材が製造業に就労するメリットや働きがいにはどのようなものがありますか?

古くからある大手製造メーカーには何十年にもわたる膨大なデータが集積されています。そのようなデータを活用しながらものづくり企業の変革を進めていけることは魅力です。

実際に、数理系の大学院を卒業しスーパーコンピュータを利用したシミュレーションの経験を積まれた後、重電系の大手メーカーに転職された方がいらっしゃいました。
ものづくりが好きで、長年蓄積されたデータを自身が培ったスキルで活用していく業務に魅力を感じての転職でした。

――製造業のDX人材を定着させるためには何が必要ですか。

自社の現状を把握し、求職者に正しい状況を伝える必要があります。DXの進み具合は企業によってさまざまです。DX人材を採用する際に、自社のDX導入のフェーズがどの位置にあり、どのような業務を担当してもらいたいのかを明確に提示しなければ、採用後のミスマッチにつながります。

工場の現場社員やプロジェクトリーダーとのカジュアル面談の場を設けるなど、求職者にどのフェーズにいるのかを伝える努力をしなければなりません。

ポイント

・DX人材は2つ以上のスキルの組み合わせがあると市場価値が高い
・企業は社内でDX人材を育成する一方で人材の流出・流入に寛容にするなど制度も再設計する
・企業側は自社の現状を求職者に的確に伝えることで、ミスマッチや早期退職を防ぐ工夫が必要

国内の製造業においては「どの業務をDXするか」を検討する最初のフェーズにいる企業、取得したデータの活用を検討している企業などフェーズはさまざまで、企業の規模やDXの推進度合いによって求められる人材像や経験は変わります。

製造業においてはDXについての知見だけでなく、生産技術や設計についての知識が求められ、そのような人材は希少なため、DX国内企業のみならず外資系企業も含めて獲得競争が激しいのが現状です。

各企業にとってDXはすでに避けては通れない経営戦略となるため、自社でDX人材を育てると同時に、人材の流出や中途採用、人事評価制度についてもフレキシブルに対応していく必要があります。DXの目的はデジタル化ではなく、既存業務のプロセスを根底から変革し、イノベーションを創出することですので、採用戦略・人事戦略の変更を視野に入れた短期・長期双方のビジョン策定が求められます。

(提供:Koto Online