ビジネスエンジニアリング様ウェビナーレポート

コロナの流行やロシアのウクライナ侵攻などに影響を受け、世界規模で生じたサプライチェーンの混乱。その一方で、ChatGPTに代表される生成AIが登場するなど、技術は進化を遂げています。こうした動きは、日本の製造業にどのような影響をもたらしているのでしょうか。

2023年10月19日、コアコンセプト・テクノロジー(CCT)CTOでKoto Online編集長の田口紀成氏と、CCTのアドバイザーで東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター チーフエバンジェリストの福本勲氏の二人が、ビジネスエンジニアリング代表取締役・取締役社長の羽田雅一氏を招いて、ウェビナーを開催しました。

製造業に特化したシステム構築を行う同社は、サプライチェーンの混乱に対して前線で対応し、さまざまな変化を感じたといいます。ここでは、ウェビナーの内容を再構成したダイジェストをお届けします。

田口紀成氏(コアコンセプト・テクノロジー)、羽田雅一氏(ビジネスエンジニアリング)、福本勲氏(東芝)
左より田口紀成氏(コアコンセプト・テクノロジー)、羽田雅一氏(ビジネスエンジニアリング)、福本勲氏(東芝)
羽田 雅一氏
ビジネスエンジニアリング株式会社 代表取締役・取締役社長
1987年にエンジニアリング会社に入社。システムエンジニアとして製造系のシステム開発に従事。1996年に自社製品「mcframe」を企画・開発。1999年にビジネスエンジニアリング株式会社設立と同時に同社に入社。常務取締役新商品企画本部長、専務取締役新商品開発本部長などを歴任。2020年4月に代表取締役社長に就任。
福本 勲氏
株式会社東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター チーフエバンジェリスト
アルファコンパス代表

1990年3月、早稲田大学大学院修士課程(機械工学)修了。1990年に東芝に入社後、製造業向けSCM、ERP、CRMなどのソリューション事業立ち上げやマーケティングに携わり、現在はインダストリアルIoT、デジタル事業の企画・マーケティング・エバンジェリスト活動などを担うとともに、オウンドメディア「DiGiTAL CONVENTiON」の編集長を務める。また、企業のデジタル化(DX)の支援と推進を行う株式会社コアコンセプト・テクノロジーのアドバイザーも務めている。主な著書に「デジタル・プラットフォーム解体新書」「デジタルファースト・ソサエティ」(いずれも共著)がある。主なWebコラム連載に、ビジネス+IT/SeizoTrendの「第4次産業革命のビジネス実務論」がある。その他Webコラムなどの執筆や講演など多数。
田口 紀成氏
株式会社コアコンセプト・テクノロジー 取締役CTO兼マーケティング本部長
2002年、明治大学大学院 理工学研究科修了後、株式会社インクス入社。2009年にコアコンセプト・テクノロジーの設立メンバーとして参画し、3D CAD/CAM/CAEシステム開発、IoT/AIプラットフォーム「Orizuru」の企画・開発などDXに関する幅広い開発業務を牽引。2015年に取締役CTOに就任後は、ものづくり系ITエンジニアとして先端システムの企画/開発に従事しながら、データでマーケティング&営業活動する組織/環境構築を推進。

目次

  1. VUCA時代における製造業の問題点
  2. 日本の製造業の勝ち筋
  3. ERPにできることはまだまだある サステナビリティへの対応はビジネスチャンス

VUCA時代における製造業の問題点

世界規模で生じたサプライチェーンの混乱を受け、製造業に特化したシステム構築支援を行うビジネスエンジニアリング社は、その影響に対する準備を急ぐ必要がありました。羽田氏は、コロナの流行が始まった直後に代表取締役社長に就任。この危機を乗り切るために、大きく2つの仮説を立てたといいます。

1つ目は、リモートワークを余儀なくされることでデジタル化がさらに進行し、それに伴って世の中の価値観が変わるのではないかということ。2つ目は、中国で始まっていたサプライチェーンの再編が、コロナの流行によってより広範囲で起こるのではないかということです。

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コロナが流行するまでは、経済産業省が「2025年の崖」について、盛んに警鐘を鳴らしていました。その内容は、日本企業、特に製造業がデジタル化やIT化の面において遅れをとっており、このままだと競争に勝てないというものです。

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コロナ前に経産省が指摘していた「2025年の崖」。サプライチェーマネジメント分野におけるデジタル化の遅れなどが、阻害要因として挙げられていた。

しかし実際には、コロナの流行によって、デジタル化の「量」が一気に加速。ITに苦手意識を持っていた日本の製造業も、非常事態を受けて変わらざるを得なかったのです。このことは、同社の生産管理ツールである「mcframe」のライセンスの販売推移をみても窺えます。こうした急激なデジタル化の流れは企業努力だけでは説明できず、コロナの流行で一気に進んだと羽田氏は分析しています。

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ビジネスエンジニアリング社製「mcframe」の販売推移。コロナが流行し始めてから導入が進み、ERPの伸び率を上回っているのがわかる。

日本の製造業は従来、現場の工夫やカイゼンで勝ってきた側面があります。そして、このことがERP導入の妨げになってきました。ERPを導入すると業務がやりにくくなり、自分たちの良さがなくなってしまうのではないかという懸念が強かったのです。その結果、パッケージのカスタマイズを重ね、結局は新しいレガシーができてしまうという悪循環に陥っていました。しかし、ERPの導入の仕方にも変化が訪れているといいます。

「最近は、業務の効率化の部分で差別化をしようとするのではなく、できるだけERPの標準機能に合わせる『Fit to Standard』の傾向が、非常に顕著になりました。お客様も我々ベンダーサイドも、相当意識が変わってきています。この部分には、もうそれほど費用はかけないということは、皆さんの共通認識だと思います」(羽田)

一方で、デジタル化の「質」については段階を踏んで変化していくというのが羽田氏の考えです。

「DXは10年、20年かけて行うものですよね。まずは、基幹システムの部分にERPを入れる。例えば在庫管理のような部分は、人手に依存しない形で行うためのベースが必要だと思います。次にAIやIoTなどのデジタル技術を使うことで、競争力を強化しようという動きが出てきます。実際に2022年の半ばぐらいから、AIやIoTのほかにも、PLMとERPの連携など、他社と差別化するためのデジタル化が増えるようになり、今はこの部分への投資が非常に盛んですね」(羽田)

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DXは、デジタル化の段階を踏んで、実現していく

また、サステナビリティの観点では、ビジネスは従来の集中型・垂直統合型から、もっと緩やかにつながる「分散・ネットワーク型」になる動きが起きています。

「カーボンニュートラルが求められ、同時に経済は循環型に変えていくことも求められる中で、グローバルではサステナブルな取り組みが加速し、不可逆的に進むでしょうね。ESG経営も重視されるようになります。市場では、製品が環境に優しいかどうかが問われるので、この点に対応するために、これまで付き合ってこなかったプレイヤーとも付き合うことになると思います」(福本)

日本の製造業の勝ち筋

さまざまなプレイヤーと連携していくためには、大前提としてデジタルでつながることが必要です。しかし日本の製造業においては、営業サイドと現場サイドで行動背景や言葉が異なるケースが多く、これまで人が“翻訳”することで業務を回してきた部分もありました。こうした状態のまま外部とつながって新たなデータが入り込むようになると、人による翻訳ではとうてい追いつかない可能性が高くなります。そこで、改めて描かなければならないのが、日本の製造業の「勝ち筋」です。

まず、サステナブルな取り組みとして、最終的に廃棄物が出ないような製品・サービスの設計が求められるようになります。ここで重要になるのが、顧客が製品をどうやって使い、最終的にどうやって廃棄するかまで考慮するデザインシンキングです。また、長く使ってもらうためにアップデータブルであることや、使用後にリサイクルやリユースができるかどうかも、重要視されるようになると考えられます。

従来の日本の製造業においては、データを社外に出したくないと考える傾向があり、オンプレミスの仕組みが好まれる側面が強くありました。しかし、さまざまなプレイヤーとつながっていくためにはクラウド化を進め、 柔軟な仕組みを作っていくことが求められます。

こうしたことを踏まえると、データ駆動型で工場やサプライチェーンが動くように、ガバナンスを含めた企業の仕組みそのものを変えながらデジタル化を進めていかなければなりません。したがってデジタル化の役割は、どんどん経営に近づいていくとも考えられます。

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「経営に必要なデータを揃えるという意味では、製造業の仕事の仕方やあり方を大きく変えるというより、今までデータドリブンでやってきたものの中で良かったものはそのまま伸ばせばいいし、そうでなかったものは良くなるようにやっていけばいいと思います。カイゼンという観点では、やっていること自体はそれほど変える必要がないのかもしれません」(田口)

ただ、サステナブルな取り組みについては、「かなり忙しいのに、社長が面倒くさいことを言い出した」と現場で忌避されがちな面もあります。しかし、ERPはここでも活用できるのです。例えば、ERPの資材所要量計画(MRP)機能を徹底的に活用すれば、原材料をより計画的に調達し、古い在庫から使うことで、廃棄率の減少につながります。

「システムを導入して終わりではなく、もう一歩進めて、『本当に活用できているか?活用できているならば在庫が減っているはずであり、廃棄ロスも確実に減っている』というように考えてみると、古典的かもしれませんが、業務のデジタル化を進めながら、もう一歩踏み込んで見直せる。それだけでもERP導入の価値は全然違うと思います」(羽田)

これまで日本の現場力は、「三現主義(現場・現物・現実)」で成り立ってきました。日本のものづくりの強さを支えてきたこの三現主義を否定することなく、しかし現場に物理的に行かなければ今までできなかったようなことを、行かなくても三現主義を実行できるように、デジタルで支援することはできないか。こうした考え方が今求められています。

ERPにできることはまだまだある サステナビリティへの対応はビジネスチャンス

ERPは元来、上場企業が財務情報を正確に早く算出するために使われていました。この役割に変わりはないものの、この領域でIT化が進んでいる背景として、不透明な時代になりグローバルサプライチェーンの組み替えが求められていることがあります。また、近年は顧客から「システムを活用してCO2の削減量を出してほしい」といった声も挙がっていると羽田氏はいいます。

「確かに、私どものシステムの中には、元になるデータが格納されています。そのため、データの貯蔵庫のようなイメージでERPが使われる、いわば『3段活用』のような形に変わっていくと考えます。そういう意味では、私どもはサステナビリティへの対応を、ビジネスチャンスとして捉えています。原価計算やCO2排出量の按分などもきちんと記録できるので、どのようなロジックで排出量などが計算されたのかわかるのです。これをもとにお客様は施策が打てるため、課題解決につながると考えています」(羽田)

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ERPに求められる役割は、当初の財務情報の正確性・迅速性を担保することから、「3段活用」する形に変わる

サプライチェーンの柔軟性を保っていくためには、サプライチェーンの情報の整理が必要だと福本氏はいいます。コロナで中国のサプライチェーンに混乱が生じた際、実は4次・5次のサプライヤーが「末広がり型」ではなく、一部のサプライヤーに依存する「ダイヤモンド型」だったことが判明。実際に、この部分がボトルネックとなって部品の供給が滞ったケースが多く見られました。なお、福本氏所属の東芝デジタルソリューションズが提供する戦略調達のクラウドのソリューション「Meister SRM」は約30社の大企業グループが導入し、1万社超がそこでやり取りをして情報を整理しています。

また、生成系AIの登場によっても、製造業の景色は変わりつつあります。ビジネスエンジニアリング社では、これまで自然言語処理に取り組んできたこともあり、今後は顧客からの問い合わせ対応にAIの活用を考えています。さらに、ERP導入時のマスターデータ設定に使うことも検討しているといいます。マスターデータの作成はベンダー側では行えない一方で、顧客側にも経験がないケースが多いことから、顧客に負担がかかってしまいがちです。それを、AIの活用によって解消していく狙いです。

このほか、同社は大規模言語モデルを活用して「mcframe」のデータ価値を高めることも視野に入れているといいます。ただし、顧客データの流出を防ぐ必要があるため、顧客やパートナーとクローズドな世界で学習させていく方針です。

世界中で猛威を振るったコロナは、世界的な秩序やグローバル経済、社会の枠組みや働き方、人と人との関わり方などを根本的に変えました。ビヨンドコロナ、アフターコロナが、本当の「ニューノーマル」になっていると福本氏はいいます。

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「新しい事業優位性を作っていかなければならない中で、他の国や他の産業も含めた状況をきちんと把握して、それがどのような影響をもたらし、どのような対応を求められるかについて、ゼロベースで改めて考えなければならなくなっていると思います。サステナビリティとレジリエンスにもきちんと対応できるように、柔軟にサプライチェーンを組み替えられるような企業には、明るい未来が見えてくるのではないでしょうか。サプライチェーンの柔軟性を確保できるかが、企業の生死を分けるような時代になっていくのではないかなと思っています」(福本)

従来、日本の製造業の現場ではカイゼンが勝っている傾向が強く、デジタル化と逆行している面がありました。しかし、コロナで日本の製造業もデジタル化がかなり進んできたというのが登壇者らの実感です。

「今まではソフトの部分は弱かったのですが、逆に言うとハードとか現場は強いですよね。海外の製造業に比べても、今も強いのです。そしてやっとデジタルに目覚めた。デジタル武装したらもう、最強です。福本さんが言われたように、きちんとデジタル武装ができて戦略的なIT導入ができている企業は、これからどんどん強くなっていくと思います。逆に、ダメな企業は本当にダメになってしまう、二極化ですね。日本の製造企業は、これだけ皆さんが必死になってデジタル化を進めているので、結構未来は明るいのではないかと私は感じています」(羽田)

デジタル化やIT化が遅れていることが指摘されてきた日本の製造業。コロナ流行とそれに伴うサプライチェーンの混乱という不可抗力を経て、日本のものづくりが本来持っている強みを、DXによってさらに伸ばしていくという素地が整いつつあります。デジタル技術に抵抗なく取り組める若い世代の活躍の場が、製造業にも広がっていくきっかけになるかもしれません。

この記事のポイント

・コロナ禍を経てデジタル化が加速。PLMとERPの連携など、他社と差別化するためのデジタル投資が盛んになりつつある
・ガバナンスを含めた企業の仕組みそのものを変えながらデジタル化を進める必要があり、それに伴いERPの役割も拡大している
・デジタルの戦略的な活用により、日本のものづくりが本来持持っている強みをさらに伸ばしていく素地が整いつつある

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【関連リンク】
ビジネスエンジニアリング株式会社 https://www.b-en-g.co.jp/
株式会社東芝 https://www.global.toshiba/jp/top.html
株式会社コアコンセプト・テクノロジー https://www.cct-inc.co.jp/

(提供:Koto Online