本記事は、小林 弘幸氏の著書『自律神経の名医が教える集中力スイッチ』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。
集中が集中を呼ぶ「ミラーニューロン効果」とは?
コロナ禍の影響でリモートワークが一気に普及しました。一方、コロナ禍が収まるにつれて通常のオフィスワークに戻す会社も増えてきています。
両方を経験された方は、どちらのほうが仕事に集中しやすかったかを考えてみてください。
リモートワークには、通勤ラッシュに巻き込まれないという大きな利点があります。通勤ラッシュのストレスは自律神経を狂わせます。また、オフィスにいると、同僚に話しかけられる、雑務を頼まれる、来客や電話があるといった、集中力を切らす出来事も多くあります。そのため、「リモートワークのほうが集中しやすかった」と答える方は多いでしょう。
反面、リモートワークにも集中力を切らす要因があります。生活空間で仕事をし、労働時間の拘束もゆるやかなので、プライベートとの切り替えができない点です。「オフィスで働いているときよりもリモート仕事ははかどらない」と感じている方も、一定数いるはずです。
ちなみに、令和3年度の総務省『情報通信白書』では、「テレワークで容易に実施可能なこと」をアンケートしています。
そのなかで「作業・仕事を行うための意欲の維持」について、テレワーク経験者に尋ねているのですが、「容易に行える・どちらかといえば容易に行える」と答えた人が41.9%なのに対し、「どちらともいえない」が35%、「容易に行えない・どちらかといえば容易に行えない」と答えた人が23%いました。
仕事の意欲の維持。この言葉を置き換えるなら、集中力の維持といってもいいでしょう。
周りが集中していると、自分も集中できる
なぜ、リモートワークに集中力のメリットがあると感じている人が4割程度しかいないのでしょうか。それは、オフィスワークには「ミラーニューロン効果」が働いているからかもしれません。
ミラーニューロンとは、目の前にいる人に共感する脳の神経細胞のことです。
1996年に、イタリア・パルマ大学の神経生理学者ジャコモ・リッツォラッティらは、マカクザルの脳に電極を設置して行った実験結果を発表しました。サルの前で、人間の実験者がエサを取ろうとすると、サル自身の脳もエサを取ったように反応することがわかったといいます。霊長類などの高等動物の脳内では、他人の行動を、自分のことのように感じる共感能力を持っているのです。
このサルの実験から、人間にもそばにいる他人の行動を見て、自分も同じ行動をとっているかのように共感するミラーニューロンシステムがあると考えられるようになりました。
リモートワークよりもオフィスのほうが集中できるという人は、同僚たちが仕事に集中している姿を目にし、ミラーニューロン細胞が活性化され、「自分も集中する」という意識が生まれやすいからではないでしょうか。
学生時代に自宅で勉強するよりも、図書館や塾の自習室で勉強をしたほうが集中できたというのも、ミラーニューロン効果かもしれません。
つまり、集中したいときには、すでに集中している人のそばで作業をするのがひとつの手段なのです。
YouTubeを使って集中する
では、リモートワークなどひとりで集中しなければいけないときにはどうすればいいでしょうか?
じつは最近、YouTubeなどで『勉強ライブ』といった名前の動画が流行しています。これは、ただひたすら無言で勉強している人が映っている動画です。
集中している人を目にすることで、ミラーニューロン効果により、自分も集中できるといわれています。
東大出身タレントの伊沢拓司さんらが運営するQuizKnockの勉強LIVE動画などは100万回再生を超えています。あえて集中する先が変わるようなエンタメ性をなくしているので、これらの動画を利用したほうが、集中力が発揮できると感じている人も多いのでしょう。
目の前で動画を流しながらの作業になるため、人によって合う・合わないはあると思います。まずは一度試してみて、効果があるようなら続けてみてはいかがでしょうか。
1960年、埼玉県生まれ。1987年、順天堂大学医学部卒業。
1992年、同大学大学院医学研究科修了。
ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属医学研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学小児外科講師・助教授を歴任する。
自律神経研究の第一人者として、プロスポーツ選手、アーティスト、文化人へのコンディショニング、パフォーマンス向上指導にかかわる。
『医者が考案した「長生きみそ汁」』『結局、自律神経がすべて解決してくれる』(小社刊)など、著書多数。