本記事は、小林 弘幸氏の著書『自律神経の名医が教える集中力スイッチ』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。

スマホを捨てて集中力アップのイメージ
(画像=takasu / stock.adobe.com)

じつは「集中力」は2種類に分けられます

「(力や神経を)ひとところに集め、そそぐこと」

辞書を開いて「集中」を引くと、このように記されています。集中とは、今、自分が行っている行為、参加している活動に、真剣に取り組んでいる状態のことです。

たとえば学校の授業であれば、よそ見をせず、耳をそばだてて先生の話を聞いたり、ノートをとったりしている状態、スポーツの団体競技であれば、味方や相手の選手の動きをしっかり観察し、先の展開を予測し、自分がプレーに関わる際にスムーズに対応できるように準備している状態、ということになるでしょう。

集中に対して、脳波がこういう状態、あるいは心拍数がいくつ、といったような医学的な定義はありませんが、自分が取り組んでいること以外の現象(音や周囲の様子など)に意識が向きにくくなっていたり、物事を成功させたり、予想以上の結果を出したりしたときに、「集中できている(できていた)」と実感できるのではないでしょうか。

逆に、普段しないようなミスをしたり、やる気が出なかったり、別のことを考えてしまったりしたときは、集中していない状態と考えることができます。

また、一般的には「集中力」という言葉に集約されていますが、じつは集中力は2種類に分けられます。

アスリートや演奏家らが、ある限られた時間内でパフォーマンスを上げるための集中力を「短期集中力」とするのに対し、私たちが仕事や勉強で必要とする、ゆるやかに長く途切れない集中力は、「持続集中力」と名づけられます。

たとえば日常の仕事時間を8時間とした場合。8時間ものあいだずっと息抜きなしで集中して作業をすることは、正直不可能です。長時間にわたる研究や、脳を働かせ続ける必要のある勝負事などは、継続して高い集中力を保ち続ける必要がありますが、私たちが日々の仕事をこなすために、そこまでの集中力を必要とすることはほとんどありません。

私たちが普段、必要とするのは、今日一日のタスクを無事に終わらせるための安定した集中力です。

とはいえ、パソコンやノートに向かっても、ついニュースやSNSをチェックしてしまったり、気がつくと目の前の作業から離れて別のことをしてしまっていたりというのもよくあることでしょう。

一日のタスクをこなすための集中力を手に入れるためには、まずは自身の状態を「安定」させることが大切です。

体のどこかが痛かったり、低気圧の影響で気分が晴れず、モチベーションが上がらなかったりということはつねづねありうることですが、そんななかでも、体調面や環境面で「自身の状態を安定」させることができれば、「持続集中力」を手に入れることも可能となるのです。

スマホに心を奪われると集中力を失います

少し前のことになりますが、2013年に集中力に関する驚きのニュースがあったことをご存じでしょうか。

カナダのマイクロソフト社の発表によると、現代人の集中力は8秒しか続かず、金魚の9秒を下回る ― すなわち、人間の集中力は金魚以下であるという内容でした。

あくまで発表なので、研究成果として論じることはできませんが、情報過多社会が到来し、現代人の意識があらゆることに向けられる、いや、向けざるを得ない状況になり、集中しづらくなったことは間違いないでしょう。

インターネットの一般化にともない、デジタルデバイスが爆発的に普及し、スマートフォンをひとり1台持つ時代が訪れました。

とくに若い世代は、ネットニュースにSNSにソーシャルゲームにと、つねにスマホに視線を送り、さまざまな情報を得ようとしている人が多いです。

この「あれもこれも」となってしまう状態が、ひとつのことに集中する能力を減退させる一因になっていると考えられます。

2019年に大阪産業大学のやまもとこうすけ准教授が発表した研究結果を見てみましょう。

講義中、自由にスマートフォンを使用できる状況下で約10分間の動画を2本流し、視聴後に動画の内容に関して回答を求めるという実験を行ったところ、「スマートフォンへの依存傾向が高い学生ほど、侵入思考(意図に反する望まない思考)の抑制・制御が難しい」ことを示唆する結果になったといいます。

これもまた、スマホが集中力の低下に影響している事実を証明しているといえるでしょう。

自律神経が乱れる最大の要因はストレス

そして、この問題に大きく関係してくるのが、自律神経の乱れです。

情報過多社会は、人々の生活からゆとりの時間を奪いました。

完全に奪ったわけではないので、減少させた、と表現したほうが適当かもしれませんが、いずれにせよ、関心ごとが多くなり、つねに情報のアンテナを張っている状況に身を置くことで、心身ともにリラックスできる時間は誰もが以前よりも少なくなってきているはずです。

せわしない生活を送っていると、脳が興奮状態から抜け出しづらくなってしまい、結果として自律神経が乱れることになります。

そして、そんな状況に拍車をかけるのが、SNS依存です。知らず知らずのうちに入ってくるネガティブな情報、相手への気づかいに端を発する返信の内容やタイミングに対する悩みなどが、余計なストレスを生みます。

自律神経が乱れる最大の要因は、ストレスです。つまり、SNSに依存すればするほど、自律神経は乱れていきます。

「孤独」と「同じ姿勢」も自律神経と集中力の乱れを生む

コロナ禍によって増加したリモートワークも、無関係ではありません。

居心地のいい自宅で仕事ができるのだから、リラックスできるのでは?

そう思われがちですが、意外にそうはいかないもの。

ひとりで仕事を完結しなければならないという責任感や孤独感、子どもをはじめとする家族への配慮などが、思いのほかストレスとしてのしかかってきます。

人間は環境の変化が大の苦手で、それがストレスを生み、自律神経の乱れをもたらすのです。

同じ姿勢で長時間仕事をすることによって起こる首や肩のこりや、パソコンのモニターを見続けていることからくる目の疲れも、自律神経のさらなる乱れを誘発します。

このように、現代人は自律神経が乱れて当然ともいえる状況で、日々の生活を送っているのです。

集中力のスイッチ
小林 弘幸(こばやし・ひろゆき)
順天堂大学医学部教授。日本体育協会公認スポーツドクター。
1960年、埼玉県生まれ。1987年、順天堂大学医学部卒業。
1992年、同大学大学院医学研究科修了。
ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属医学研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学小児外科講師・助教授を歴任する。
自律神経研究の第一人者として、プロスポーツ選手、アーティスト、文化人へのコンディショニング、パフォーマンス向上指導にかかわる。
『医者が考案した「長生きみそ汁」』『結局、自律神経がすべて解決してくれる』(小社刊)など、著書多数。
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