この記事は2024年1月26日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「先発投手の公平性指標「クオリティースタート」」を一部編集し、転載したものです。
(NPB公式サイト)
プロ野球の先発投手にとって「勝利」という記録は最も目標とすべき指標とされている。しかし、例えば、9イニングを完投して1失点で抑えても、味方打線の援護がゼロ点で試合が終われば、その投手の記録は「敗戦」である。
このように勝利の記録は投手自身の力量に加え、自チームの攻撃力に依存する。そのため、自チームの援護点に影響を受けない先発投手の評価指標として作られたのが、クオリティースタート(Quality Start=QS)である。QSは、先発投手が6イニング以上登板し、自責点3以内に抑えたときに記録される。
中日の柳裕也選手は2023年シーズンに24試合に先発し、4勝11敗と大きく負け越した。22年シーズンから勝利数を五つも減らしたため、この成績だけを見れば減俸となってもおかしくない。ただし、柳選手は先発24試合中17試合でQSを達成し、QS達成率は70.8%を記録した(図表)。この数字は、セ・リーグ平均の53.6%を大きく上回る。しかも、防御率は22年シーズンの3.64に対し、23年は2.44と改善している。
それでも勝利数に恵まれなかったのは、援護率(投手が登板した際に援護してもらった点数をイニング数で割り9を掛けた値)が1.99点と低かったためだ。特に後半戦で登板した10試合の援護点はわずか4点。中日は柳選手の勝利数以外の成績を考慮し、前年から4,000万円アップの推定1億4,800万円の年俸で契約に至った。
パ・リーグで3年連続投手4冠(最多勝・最優秀防御率・最高勝率・最多奪三振)を達成した山本由伸選手は、QSも3年連続でリーグトップを記録。直近3年間のQS達成率も88%と群を抜いた成績をたたき出した。24年からは大谷翔平選手と同じロサンゼルス・ドジャースと、12年総額3億2,500万ドル(1年当たり約2,700万ドル)で契約し、移籍することが決まった。年俸総額は、ゲリット・コールがニューヨーク・ヤンキースと結んだ9年総額3億2,400万ドルを抜き、MLB投手で史上最高額である。
また、DeNAで活躍した今永昇太選手も過去3年のQS達成率が72.6%と安定していることが評価され、シカゴ・カブスと4年総額5,300万ドル(1年当たり約1,300万ドル)で契約した。楽天で12年から13年にかけて34試合連続でQSを達成した田中将大選手が14年にニューヨーク・ヤンキースに移籍した際の年俸は2,200万ドルと、当時の日本選手史上最高額だった。QS達成率が高い先発投手を、MLB球団が高く評価することの表れといえよう。
山本選手や今永選手も、チーム投手陣の柱としてローテーションのトップを担うだろうが、両選手の活躍がどれほどチームに貢献できるかは見ものである。なお、MLBデータサイト「Fangraphs」によれば、山本選手の24年シーズン成績予想は29試合に登板し12勝9敗、防御率3.98。今永選手は26試合に登板し9勝8敗、防御率3.83を記録すると予想している。
江戸川大学 客員教授/鳥越 規央
週刊金融財政事情 2024年1月30日号