ベビーカーから香典まで…韓国の「ペット愛」は少子化を招く?
(画像=「セブツー」より引用)

お悔やみの金額、「ひと」並み?

「友人の犬の葬式に行ったら香典箱があった。いくら出すべきか?」

最近、韓国のオンラインサイトやSNSで、ペットをめぐる投稿がしばしば物議をかもしている。この投稿の主は「戸惑ったがATMで5万ウォン(約5500円)引き出して入れた。でも、いったい、いくら出せばよかったのだろうか」と他のネットユーザーに意見を求めた。韓国の香典額は故人との関係によって、3万ウォンから10万ウォン程度とされる。5万ウォンであれば、会社の同僚など面識のある人に出す金額にあたる。犬に対し、人間と同じような金額の香典を支払ったことになる。これには賛否両論が広がった。賛成派は「ペットも家族だから出すのが道理だ」「ペット文化が変わった」と主張する。そこには「家族の一員であり、ともに過ごす存在」という見方がある。ペットは単なる「愛玩動物」ではなく、「伴侶動物(Companion Animal)」――こんな認識が韓国社会に急速に広がっている。一方、反対派はこの見解とは一線を画す。「人間並みにする必要はない」「香典を払ったら、お返しはあるのか」など、疑問を呈しているのだ。

韓国では少子高齢化が急速に進む。2022年の合計特殊出生率(女性1人が生涯に産むと予想される平均出生児数)が0.78にまで落ち込み、世界的にも最低水準になっている。これとは対照的に、ペットの飼育は増加の一途をたどっている。その結果、飼い主もペットを人間のように扱うようになり、葬儀を営むケースも増えている。犬や猫の場合、費用は25万~30万ウォン程度とされ、出席者は飼い主とその家族、ごく親しい知人に限られるのが普通だという。今のところペットに香典を出す慣習は根付いていないため、賛否をめぐって今後も論争が続きそうだ。

犬用ベビーカーが幼児用を上回る

韓国政府が実施した2022年の「動物保護に関する国民意識調査」によれば、ペットを飼育するのは602万世帯、約1300万人と推定される。全体の約25%に上る。動物は犬(545万匹)、猫(254万匹)とされ、この二つで9割を占める。前年(2021年)に比べ、犬は約5.2%、猫は約12.7%増加しており、猫の人気が高まっているようだ。こうした事情から、郊外の大型ショッピングモールや公園などで、ペット用のベビーカーを使用する人が増えている。犬を連れた買い物客は「犬も歩くのに限界があるので……」とこぼす。韓国の大手ショッピングモールサイトによると、ベビーカーの販売台数が2021年にはペット用33%、幼児用67%だったのが、2023年にはペット用57%、幼児用43%と逆転した。サイト側は少子化の影響と分析している。

少子化に拍車?

「子どもを育てると養育費が侮れませんよね。いくらなんでも犬よりはもっとかかるし、育児する過程が大変」。子犬の飼い主はこうつぶやく。高額な養育費や育児の大変さを考えると、ペットを飼う方が気楽だと考える人も多い。一方で、ペットに多額の資金を投入したり、人間並みに育てたりすることには「行き過ぎ」「やりすぎ」との批判も絶えない。また、こんな解釈もある。子どもを増やさなければならないのに、ペットの飼育に力を入れてしまうあまり、結婚・出産・子育てから遠ざかり、結果的にペット飼育が少子化に拍車をかけている――という見方だ。韓国の書籍「ママにはならないことにしました―韓国で生きる子なし女性たちの悩みと幸せ」(晶文社)は、出産しない選択をした既婚女性17人の声を集めた。著者のチェ・ジウン氏はこの中で、ペットを飼育する「子どものいない女性」たちに向けられた批判を紹介している。

「寂しさを埋めるために動物をかわいがっている」
「猫がいると結婚できない」
「人間に興味がなくて動物にばかり愛情を注いでいる」

こうした意見は、ペットを飼う「子供のいない既婚者」だけでなく「独身者」にも向けられ、「結婚」「出産」を求める社会的な圧力として作用している。そもそも、ペットを飼育し、家族の一員として慈しむことと、結婚・出産の選択は全く別問題だろう。個人の判断にゆだねられるべき問題を、あたかも「ペットを飼っているから結婚・出産をしなくなる」と決めつけるのも、拙速ではないだろうか。韓国のペット人口は今後も増加を続け、ペット市場の規模は現在の4兆ウォンから2027年には6兆ウォンへと急激に拡大すると見られている。

ペットをめぐる論争が加熱する背景には、韓国で少子高齢化を食い止める手だてが見えないことへの社会的不安やいら立ちがあるのかもしれない。