本記事は、林 重光氏の著書『声のデザイン 一瞬で相手を惹きつける最強のプレゼンスキル』(ジー・ビー)の中から一部を抜粋・編集しています。

オフィスで雑談をするOL
(画像=taka / stock.adobe.com)

ほとんどの人は本当の自分の声を知らない

声を磨いていくためには、現状の自分の声を知っておく必要があるわけですが、「本当の自分の声」を知っている人は意外にも少ないものです。

他人の声というのは、空気の振動が音として自分の耳に聞こえています。一方で、自分が発した声というのは、空気中の音波と、自分の声帯を震わせてできた音が体壁(内臓を取り囲む骨や筋肉、皮膚などでできた壁のこと)を振動させて、それが自分の「聴覚中枢」に伝わることによって聞こえています。

試しに、家族など他人の背中に耳をつけて、その人が話す声を聞いてみてください。声と一緒に自分の体に振動が伝わってくるでしょう。声も、普段より少し低く聞こえてきませんか? これが、自分で自分の声を聞いている状態です。つまり、ボイスレコーダーや動画に収録された、自分以外の人が聞いている声こそが、本当のあなたの声なのです。

録音された声は普段聞いているものとは違うため、それがきっかけで自分の声が嫌いになってしまう方も少なくありません。しかし、「理想の声」という目的地にたどり着くためには、まずは出発点を知ることが必要です。出発点と目的地を結ぶことができて初めて、声を変えるために何をすればいいかがわかるからです。

自分の本当の声を知り、向き合っていくことには少し勇気がいりますが、まずは自分の出発点を知るために、ボイスレコーダーに録音した声を聞いてみてください。すると、人と比べて声が小さめだったり、声に抑揚がなかったり、普通に話しているつもりなのに怒っているように聞こえたりと、さまざまな気付きがあることでしょう。今までは気が付かなかった自分の声のいいところに気付くこともあるはずです。

出発点がわかったら、あとは目的地に向かっていくだけです。響く声や通る声を出すためのテクニックを身につけたり、安定した声が出るようになる体をつくるためのエクササイズを習慣化しながら、理想の声を目指していきましょう。

「自分に求められている声」を理解する

出発点が確認できたら、次に取り組みたいのが目標設定です。特にビジネスパーソンであれば、声によってどんな効果を得たいのかを軸に考えてみてください。たとえば上司として部下のパフォーマンスを上げることが仕事の一つだとすれば、どういう言葉をどういう声で伝えていったらパフォーマンスが上がるだろうか、と考えてみましょう。

新入社員の前で挨拶をして「これから一緒に頑張っていこう」と伝えるときには、ささやくような小さな声よりも、元気で張りのある声の方が適しているでしょう。落ち込んでいる同僚を励ますときは、心が落ち着くようなゆっくりとしたテンポと低めの声が適しているかもしれません。

経営者の場合、相手の感情に訴えかけることを目的として声や言葉を使っていくことが求められます。人は、理屈や理論だけでは動かないことが多いからです。すらすらと自社商品の優れたところをアピールしたとしても、期待した通りの反響が返ってくるとは限りません。相手が心を開いてくれるように優しい声を使ったり、自信や情熱を感じさせるエネルギッシュな声を使うなどの戦略が必要になります。

一方、研究者やエンジニアなど技術職の方なら、研究成果などについて論理的な説明をすることが求められるシーンが多いでしょう。論理的に、わかりやすく説明をするのであれば、必ずしも感情に訴えかける声を習得する必要はないわけです。あらかじめ台本をつくり込んでその通りに話すというスタイルでもいいですし、声に感情を乗せるトレーニングにたっぷりと時間をかける必要もありません。このように、理想の声という目標を設定するときには、「どのような声が求められているのか」を分析してみましょう。

私のクライアントさんには営業職の方も多くいらっしゃいますが、どんなタイプのお客様に対しても安定して高い営業成績を上げ続ける方は、「トークの引き出し」だけでなく「声の引き出し」をとても多く持っていらっしゃいます。「このお客様はどんな営業スタイルが好みなのだろうか」「今お客様はどんな感情を持っているのだろうか」と、相手のタイプやそのときの状況に合わせて見事に声を使い分けます。

ほかの人たちと全く同じ商品やサービスを、全く同じ資料を使いながら提案しているのに、営業成績に大きな違いが出るのは、彼らが「声」を重要な営業スキルの一つと認識して日々磨き上げ続けているからでしょう。

小説家で尼僧の瀬戸内寂聴さんは、自分の目の前に来た人がどんな言葉を求めているかがわかっていたため、自分が伝えたい言葉ではなく相手が求めている言葉をかけてあげていたそうです。

声も同じです。相手の求めるものや置かれた状況を判断し、声を使い分けていくことで、伝えたいことが相手にしっかりと届いてくれるのです。

声のデザイン
林 重光(はやし・しげみつ)
ヴォイスコンサルタント。MAKE UP VOICE代表。大阪芸術大学芸術学部芸術計画学科卒業。2003年から経営者や政治家、芸能人を対象に「伝えたいことを伝わるように伝える」ための、声と言葉のブランディングを行い、約8,000人を指導。日本旅行、みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社など行政機関・民間企業・学校向けのセミナーも多数実施。20年間の発声身体技法研究から、独自のメソッド「身体操作と思考操作の組み合わせでパフォーマンスを安定させる技法」を開発。「話す」「読む」「歌う」ことや、発声障害などにより生じる悩みと苦痛を取り除き、短期間でパフォーマンスを安定させることに定評がある。
声のデザイン 一瞬で相手を惹きつける最強のプレゼンスキル
  1. 「声」には、非常に多くの情報が詰まっている
  2. 「自分に求められている声」を理解して使い分けよう
  3. 声は、家庭環境などの後天的要素の影響を受けやすい
  4. 手の形ひとつで声を変えるテクニック
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