本記事は、林 重光氏の著書『声のデザイン 一瞬で相手を惹きつける最強のプレゼンスキル』(ジー・ビー)の中から一部を抜粋・編集しています。

Consumer feedback concept. Customer satisfaction evaluation to improve and develop product and service.
(画像=Parradee / stock.adobe.com)

声にはその人の本音が表れる

声にはそれを発する人の気持ちが大きく反映されますので、声を聞くことによって相手の本音を推し量ることができます。声は、言葉を発するための単なる道具ではなく、非常に多くの情報が詰まっています。声からどれだけの情報を取れるかが、複雑な人間関係を円滑にするためのカギにもなるのです。

声というものは「高低」「強弱」「テンポ」「音質」という4つの要素から成り立っています。この4つの要素に着目することによって、その人が何を感じているのかという「情報」を手に入れることができるのです。

たとえば、営業でアポを取り、初対面の人に向けて商品のプレゼンをすることになったとしましょう。対面してアイスブレイクから始めたものの、受け答えをする相手の声が低く、声も大きくはない、心なしか声色も暗い。そんなとき、あなたはおそらく相手に対して「このプレゼンには興味がなさそうだな」と感じるはずです。ところが、途中で共通の話題が見つかり、会話中に相手の声が急に高くなったとします。それは、あなたや話の内容に対して好意的になった証しです。その変化にあなたもすぐに気付くでしょう。

逆に声が低くなったとしたら、さらに関心を失ったか、不快な気持ち、不信感を抱いている、ということが感じ取れます。

このように「あ、今すごく興味を持ってくれたな」と感じられれば、その話を広げることでさらに相手の関心を得られるかもしれませんし、「この話題になった途端に声が低くなったな」とわかれば、その話題を早急に切り上げてほかの話題に移った方がいいでしょう。

また、話すテンポが速い方や早口な方を見ると、「この人はそそっかしいな」とか「せかせかしている人だな」という印象を受けます。逆にゆっくり話す人に対しては、大らかさや落ち着きを感じるものです。

さらに、どんなに堂々と振る舞っていても、消え入りそうな弱々しい声で話してしまうと、「本当は自信がないのだろう」と見抜かれてしまいます。本人は自信のなさを隠せているつもりでも、実は声にくっきりと表れてしまっているわけです。

それほど、私たちは話すテンポや声の大きさ、声の出し方によってその人の性格やその人の本質を見出すことができるのです。声に表れている他者の性格や本音をより鋭敏に察知することができれば、プレゼンや商談、セミナーなどを、優位に進めていくことも不可能ではありません。

「メラビアンの法則」をご存じの方も多いのではないでしょうか。メラビアンの法則は、アルバート・メラビアンというアメリカの心理学者が提唱したもので、視覚情報、聴覚情報、言語情報の3つの情報が矛盾しているとき、人は視覚情報から55%、聴覚情報から38%、言語情報から7%の割合で影響を受けるという法則です。

たとえば、「怒った顔で人を褒めた」とき、人は視覚情報から最も影響を受けるため、「怒っている」と感じます。「優しい声で罵倒するような言葉を発した」ときには、言語情報よりも聴覚情報から多く影響を受けるため「この人は冗談を言っている」「言葉はきついが、本音は別のところにありそうだ」という解釈をしやすいのです。

対面で話をしているときには、聴覚情報である声よりも、表情などの視覚情報からの影響を受けやすいため、相手の本音を掴み損ねることがあります。試しに、目を閉じて視覚情報を遮断した状態で、いろいろな人の声を聞いてみてください。最初のうちは声だけを聞いて人の本音を読みとることは難しいかもしれませんが、通勤電車の中やカフェ、自宅でご家族と過ごしているときに声だけに集中して聞くことを続けていくと「この人は不快に思っているな」「話に同意しているものの、心の中ではためらっているな」「今、すごく話に乗ったな」ということに敏感に気付けるようになっていきます。

声のデザイン
林 重光(はやし・しげみつ)
ヴォイスコンサルタント。MAKE UP VOICE代表。大阪芸術大学芸術学部芸術計画学科卒業。2003年から経営者や政治家、芸能人を対象に「伝えたいことを伝わるように伝える」ための、声と言葉のブランディングを行い、約8,000人を指導。日本旅行、みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社など行政機関・民間企業・学校向けのセミナーも多数実施。20年間の発声身体技法研究から、独自のメソッド「身体操作と思考操作の組み合わせでパフォーマンスを安定させる技法」を開発。「話す」「読む」「歌う」ことや、発声障害などにより生じる悩みと苦痛を取り除き、短期間でパフォーマンスを安定させることに定評がある。
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