本記事は、小日向素子氏の著書『ナチュラル・リーダーシップの教科書』(あさ出版)の中から一部を抜粋・編集しています。
「弱さ」を尊重する
多様性を受け入れ活用することで、組織の成長の幅が広がる
「多様性」とはなんでしょうか。ナチュラル・リーダーシップでは、「多様性」を象徴する言葉として、「弱さ」という表現を使っています。
「弱さ」(=多様性)には、次の3種類があります。
A:指標化した時に、低い評価になるもの(学歴、年齢、役職、性別、経歴など)
B:指標化できず、言葉にしづらく、見えにくいもの
C:目には見えないが、存在しているもの
3つの違いを、事例を使ってご説明しましょう。
ある中小企業でアルバイトとして長年働いているベテラン女性がいました。
ある時、彼女は若手社員がストレスを抱えていることを察し、丁寧に声がけを続けました。その結果、その社員は健康を害さず、自らの役割を全うすることができました。女性のサポートは価値ある行動です。しかし、上層部は彼女の貢献に気づかず、評価にも結びつきませんでした。
多くの企業で、この女性のような方の影響力は、見過ごされてしまっています。これといった役職ではないうえに(A)、周囲の人からは見えにくい(B)ためです。同じ行動を、マネージャー職の人が行ったらどうでしょう? 多くの人が気づき、「頼りになる」と、高い評価を受けるのではないでしょうか。立場の違いひとつで見えやすさが変わるという意味では、AとBは連動することがあるとも言えます。
一方、Cは見えないので、スルーされてしまいがちです。
例えば、大人の発達障がいや、HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン/Highly Sensitive Person)という言葉が日本でも浸透してきましたが、このような「弱さ」は、10年前には見えていませんでした。人間には無意識のバイアスや死角が常に存在しますから、今この瞬間も、私たちが見えていない「弱さ」は、いくつも存在しているはずです。
さて、昨今の企業では多様性を持たせるために「女性を増やす」「学歴にこだわらない」など、Aに注力しがちです。しかし、ナチュラル・リーダーシップでは、A、B、Cのすべてを大切にします。すべての「弱さ」に、意味があるからです。
先程のベテラン女性の行動に意味を見出し、彼女の行動を評価できたら、同じような行動を率先して行う人が増えるでしょう。組織のチーム力が高まります。
このように、視点や環境の変化によって、「弱さ」とそれに対峙する「強さ」は、入れ替わることがあります。未来の予測が難しく、誰も答えを持っていない時代では、「弱さ」を排除して「強さ」だけを追い求めるのは、新しい何かを生み出す可能性を失うことにもなりかねません。「強さ」と「弱さ」を区別せず、共に尊重し活かすことが、リーダーには求められるといえるでしょう。
まずはあなたが率先して、取り組んでみてください。あなたの周りに、多様な才能が集まり、組織としての成長が加速するはずです。
私の会社にも、様々なバックボーン、強み、弱み、際立つ個性を持つ方々がいらっしゃり、一緒にお仕事等をさせていただいていますが、各々の個性を活かすことで、会社も、取り組みも豊かになっていきました。私自身もそのような方々から刺激を受け、成長できていると実感しています。
多様性を尊重する時代の波にうまく乗り、「組織にとって必要な個性として活かす」という視点を持つことで、予測できなかった新しい変化が生まれてくるはずです。
ここからは、「弱さ」を尊重した方の事例を紹介します。
ときには不得手に目をつむって、あるがままを受け入れる
Gさんは、動物病院の経営者兼院長です。
この病院には、アルバイト獣医として働いてくれているSさんがいます。彼は、確かな腕を持っており、長い期間、この病院に関わってくれています。
ある時、Gさんは、Sさんを社員として迎え入れたいと考え、彼に提案しました。
Sさんも喜んでくれるだろうと思っていましたが、返ってきた反応は予想外のものでした。
「社員にはなりたくありません。プレッシャーになるので …… 」
Sさんは、小さな頃から人付き合いが苦手で気分にムラもあり、社員として毎日働くのは責任が重すぎるため、社員にはなれないと言うのです。
Sさんの話を聞いたGさんは、彼の考えを尊重し、次のような提案をしました。
「出勤も帰宅も自由でいい。気が向いた日に来てくれればいい」
通常では考えられない特別待遇です。ほかのスタッフから不満が出てもおかしくありません。ところが、スタッフたちも皆、Gさんの提案をすんなりと受け入れ、Sさんが継続して働きに来ることを望んだのです。
Sさん本人も、この待遇のおかげで引き続き自分のスキルを活かせると喜び、その後も働き続けてくれています。
ほかのスタッフたちも、Sさんと一緒に働けることを喜び、院内の雰囲気が明るくなったそうです。
業務は完璧だけど、コミュニケーションが取りづらい。
好きな仕事では力を発揮するが、それ以外の仕事が雑だ。
アイデアは抜群だが、単純なミスを繰り返しがち。
優秀だが、日によってテンションに差がありすぎる。
このような極端な凸凹がある部下がいる場合、凸凹を修正するのは難しいことがあります。そんな時は、凸凹ではなく個性としてあるがままを受け止める、という選択肢を考えてみてください。
強烈な個性を受け入れることで、Gさんの動物病院のように、組織の雰囲気がよくなった事例は数々あります。
リーダーの立場にある方々が、「個性があるのは素敵じゃないか」「個性を活かすことで、ほかのメンバーや組織全体によい影響が出ることも多い」などといった観点を持つことで、様々な個性を持つメンバーがチームの一員として力を発揮できるのでしょう。
- NATURAL LEADERSHIP POINT
- できない、指標化しづらい、見えないなど、「弱さ」は多様です。
たくさんの「違い」に気づき、それぞれの中に「意味」を見出していきましょう。
それが、組織の成長につながります。
国際基督教大学卒業。NTT入社後、外資系に転じ、マーケティング、新規事業開発、海外進出等を担当。2006年、グローバル企業の日本支社マーケティング部責任者に、世界初の女性および最年少で就任。2009年独立。新たな学び・成長プログラムの開発を始動し、馬と出会う。2016年株式会社COAS設立。欧米各国の馬から学ぶ研修を巡り、米国EAGALA認定ファシリテーター取得。同時に、組織開発、リーダーシップ、コーチングを学び、スイスIMD Strategies for Leaders修了、キャリアコンサルタント試験合格、ICF認定コーチングコースアドバンスト受講。2017年、札幌に牧場を持ち、馬から学ぶリーダーシップ研修を導入。資生堂をはじめ様々な業種の企業研修として活用されるほか、エグゼクティブ、起業家、役員等、延べ2000名を超える受講者を輩出している。本書が初の著書。※画像をクリックするとAmazonに飛びます。