「高値づかみ回避」だけでは世界再編に乗り遅れる

こうしたクロスボーダーM&Aの失敗で対比されるのがニデック<6594>。日本電産時代から「適切な価格で買収する」をモットーに、「高値づかみ」を避けてきた。しかし、同社最大の買収は米エマソン・エレクトリックの産業モーター事業を取得した約1200億円と、日鉄や東芝といった巨大製造業とはスケール感が異なる。

超大型買収となると、ターゲットの社数も限られてくる。少ない売り手に多数の買い手が群がる構造だ。「割高だから手を出さない」では、永遠にM&Aができないことになる。事実、巨額の「のれん」損失を出したターゲット企業のM&Aでは、激しい争奪戦が繰り広げられたケースが多い。

こうした巨大企業のクロスボーダーM&Aでは、あらゆる事態を想定した「逃げ道」を用意するのが最善の危機管理になる。東芝の巨額損失では、その原因を作ったショーグループが2013年1月にWH株を東芝に売却、2015年10月には粉飾決算をやらかしたS&WもWHに売却。巨額損失が発生する前年に逃げ切った。

実はUSスチールも「逃げ道」を用意している。提出書類によると、日鉄が対米外国投資委員会(CFIUS)から買収承認を得る責任を持ち、承認されなかった場合はUSスチールに賠償金を支払うことを約束しているという。もし規制当局によって買収が中止になっても「タダでは起きない」仕掛けを施しているのだ。

こうした外国企業の強(したた)かな戦略構想と交渉術こそ、日本企業がクロスボーダーM&Aで成果を挙げるために必要な資質だと言えるだろう。

文:M&A Online