アトツギベンチャーが注目される背景とは

国内でアトツギベンチャーが注目される背景には、同族企業の多さや後継者難がある。

国税庁の会社標本調査(2021年度分)によると、国内企業のうち96.4%は同族企業にあたる。同族企業とは、上位の3グループにあたる株主が、50%を超える株式(または出資額)を保有している企業である。

(参考:国税庁「会社標本調査 -調査結果報告-」)

つまり、国内では後継者を親族にするケースが多いものの、その一方で後継者問題に悩まされている企業は後を絶たない。帝国データバンクの調査によると、2023年の後継者難倒産は初めて500件を超えて、年間最多件数を更新した。

(参考:帝国データバンク「「後継者難倒産」動向調査」)

いまや後継者難は社会問題となっており、中小企業の倒産とともに多くの経営資源が失われている。このような時代において、会社そのものを次の世代へとつなぐアトツギベンチャーの存在は大きく、今後もますます重要性が高まると予想される。

公的機関もアトツギベンチャーを後押し

近年では、国や自治体もアトツギベンチャーを後押しする姿勢を見せている。

中小企業庁は「中小企業の成長経営の実現に向けた研究会(第3回)」において、アトツギベンチャーを通じた後継者の育成を議題に挙げている。また、本研究会の提供資料には、ベンチャー型事業承継の事業概要がまとめられている。

参考:中小企業庁「第 3 回 中小企業の成長経営の実現に向けた研究会 議事要旨
参考:中小企業庁「~地域のアトツギの挑戦が地域の未来を創る~ 一般社団法人ベンチャー型事業承継について

また、経済産業省が管轄する北海道経済産業局は、アトツギベンチャーの支援強化に取り組んでいる。2021年9月には、道内のアトツギを対象にしたコミュニティを立ち上げ、積極的な情報交換などを行った。

参考:北海道経済産業局「アトツギベンチャーの支援強化 ~承継を契機とした挑戦・成⻑を加速~

公的な支援策が充実すると、アトツギベンチャーの注目度はさらに高まることが予想される。

アトツギベンチャーのタイプとそれぞれの目的

一般社団法人ベンチャー型事業承継は、アトツギベンチャーのタイプを「Exit型アトツギ」「地方豪族型アトツギ」「ランチェスター型アトツギ」に分けている。

それぞれどのような目的があるのか、以下では各タイプの特徴を解説する。

Exit型アトツギ

Exit型アトツギは、IPOやM&Aによるイグジット(出口戦略)を目指すアトツギベンチャーだ。既存企業だけではなく、新会社を別に立ち上げてイグジットを目指すようなケースも、このタイプに含まれる。

通常、IPOやM&Aを目指す場合は企業価値が必要になるため、Exit型アトツギは借入金や社債などの外部資本も活用する。多方面から資金調達を行い、そのリソースを使って急成長を目指す方針が基本になる。

地方豪族型アトツギ

地方豪族型アトツギは、地域での雇用創出の役割をもったアトツギベンチャーである。既存事業で地道に規模を拡大しながら、持続的なイノベーションも狙って地域を支えていく。

地方豪族型アトツギは特定の地域にフォーカスするため、成長率の目安は1~2桁(1~100%)とされている。Exit型に比べると成長の規模は小さいが、地域活性化のためには欠かせない存在になることが予想される。

ランチェスター型アトツギ

ランチェスター型アトツギは、独自性の高いビジネスモデルでニッチな市場を狙うアトツギベンチャーだ。会社としての規模は小さいが、高い収益性を期待できる特徴がある。

ランチェスター型はしぶとく生き残ることが目的であり、基本的には規模拡大を狙わない。オンリーワンの企業を目指す方針なので、高いシェア率を維持しやすいと考えられる。