2023年12月期通期決算から4大ラグジュアリーブランドの今後を占う
ファレル・ウィリアムスによる「ルイ・ヴィトン」メンズ2024春夏コレクション(© ARR)
(画像=「セブツー」より引用)

今さらジローとクチにしても伝わらない2024年5月、今さらながら2023年12月期通期決算の数字を踏まえて書いてみる。2024年1月末に発表になった、LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)、ケリング(Kering)、エルメス・インターナショナル(Hermès International)のラグジュアリーグループだ。

LVMHの売上高は861億5300万ユーロ(約13兆8699億3516万円、前年比9.0%増)、純利益が151億7400万ユーロ(約2兆4428億9109万円、同7.7%増)、ケリングの売上高は195億6600万ユーロ(約3兆1305億円、同3.9%減)、純利益は29億8300万ユーロ(約4772億円、同17.5%減)、エルメスの売上高は134億2700万ユーロ(約2兆1483億円、同15.7%増)、純利益は43億1100万ユーロ(約6897億円、同28.0%増)だった。

3社の決算を簡単にまとめると、LVMH(過去最高)、ケリング(やや低迷)、エルメス(絶好調)ということになるだろう。

言い出しっぺは存じませぬが、そろそろクワイエットラグジュアリー(Quiet Luxury)の称号をブランド側が公式使用してもいいかと思うのだが、懐かしのノームコアとミニマリズムの富裕層向け最上位互換たる「エルメス(HERMES)」が物静かに好調をキープしている。理由のひとつとして、インフレ化で「投資的な消費」が増えている現況があるが、これは当然の帰結と言えるだろう。

これまた今さらジローだが、現時点で世界最大の売り上げを誇る「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」でさえ、日本市場を抜きにして考えても「憧れの存在だが簡単には買えない」という「ラグジュアリーブランド(Luxury Brand)」の定義に当てはまるのかどうか、そもそもの疑問も浮かんでいる。この疑問を払拭するようなマーケティングに支えられているわけだ。これに比べて、マーケティングというよりも「文化的な工芸品」というコンセプトの「エルメス」が投資的な消費に支えられている実情は、非常に納得感がある。

2022年度をもって決算を公表しなくなったため、推測するしかないのだが、ファッション&レザー分野で上掲ブランドとビッグ4を形成する「シャネル(CHANEL)」は、マーケティングと文化的な工芸品を併せ持つ存在であり、その2023年期決算は好調と堅調の間ではないだろうか。「数字は嘘をつかない」の例外として記しておく。

上場3社を俯瞰した2023年12月期通期決算での注目点は、「グッチ(GUCCI)」を中核ブランドに据えるケリングの急減速だ。2022年12月期は、売上高が前年比15%増(為替変動などを考慮した前年と比較可能な前年比は9%増)で史上最高決算をマークしていたにもかかわらずだ。2022年12月期でケリング傘下の「グッチ」の売上高は前年比8%増(比較可能な前年比で1%増)だったが、この2022年12月期の第4四半期では、「グッチ」の売り上げは比較可能な前年比ですでに14%減になっていた。数字とは饒舌なものである。

2023年12月期の「グッチ」の売上高は98億7300万ユーロ(1兆5796憶円)で、ケリング全体の売り上げのほぼ50%にあたり、前年比は5.9%減だった。グループ全体の低迷からの脱出はグループ筆頭格ブランドの「グッチ」、具体名を挙げるならば、新クリエイティブ・ディレクターに抜擢され、2023年9月にデビューショーを披露したサバト・デ・サルノ(Sabato De Sarno)の手腕にかかっているのだ。同じケリング傘下の「バレンシアガ(BALENCIAGA)」の数字は屋台骨を揺るがすほどではないのだ。

革新的なグッチ旋風を巻き起こした寵児であり、かつ今回の低迷の原因と見なされたアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)の後任であるデ・サルノ。マルコ・ビッザーリ(Marco Bizzarri)に代わり当面の指揮を執っている、グッチ前社長兼CEOのジャン・フランソワ・パリュ(Jean-Fransoir Palus)=マネージング・ディレクターが彼の後ろ盾になる。果たして、「GUCCI "Ancora(もう一度)"」を掲げた2024年春夏の初ランウェイでは、王道のセクシーエレガンス路線に180度方向転換した。

世界のラグジュアリー市場における三大傾向として、マーケティング型の「ルイ・ヴィトン」、文化的な工芸品志向の「エルメス」、その中間的な「シャネル」と前述したが、いささかキャラクター性に憑依しやすいイメージが定着している「グッチ」のポジションは趣が異なる。そもそも、トム・フォード(1994~2004年)、フリーダ・ジャンニーニ(2005~2015年)という希代の傭兵デザイナーを据えたセクシーエレガンス路線の旗手であり、怪物クリエイターのアレッサンドロ・ミケーレ(2015年1月~2022年11月)が奏でたストーリーテリングがヤング層の開拓に成功した7年余りの圧倒的成長が、甚だ例外だったというべきである。これが逆噴射のごとく「ルイ・ヴィトン」型のマーケティング主導のラグジュアリーブランドに転身する目算なのだ。

ちょうどミケーレ信者のヤング層がデ・サルノ路線にフィットする年齢だが、たとえ同銘柄であっても、ことファッションにおいては無視すべき存在であることに異論の余地はない。基調が回復するためには、マーケティング主導で「もう一度」の掘り起こしが急務だ。ちょうど5月13日に2024-25年クルーズコレクションが8年ぶりにロンドンでショーを開催し終えたタイミングにあり、ここから一気呵成にミラノへとなだれ込むのだろう。デ・サルノが手掛けた新生「グッチ」の初動はケリングによると好評。店頭に並ぶタイミングは2024年2月後半であり、その業績への反映は第2四半期からになる。

今さらジロー、好きだとジロー、言わないでよね。これほどまでに胸が締め付けられる通期決算調べを過去に知らない。

1ユーロ=160円換算(1月28日時点)