「無印良品」が千葉県南房総で目指す「地域循環」をテーマにしたコミュニティデザイン
千葉県鴨川市の「里のMUJI みんなみの里」(画像=「セブツー」より引用)

「無印良品」を展開する良品計画が、日本のさまざまな地域に目を向けている。ローカルエリアは、土着の豊かな文化や歴史的な遺産など、その土地独自の魅力を持っているにも関わらず、過疎化が進んでいる。耕作放棄地も数十年も前から増加傾向にあり、農業の担い手も減少の一途を辿っている。

こうした中、良品計画は店舗をコミュニティセンターとして捉え、「無印良品」と地域の魅力をクロスさせることで、持続可能なコミュニティ作りを目指している。こうしたコミュニティ作りの役割を担っているのが、良品計画のソーシャルグッド事業部だ。良品計画には、北海道から広島まで10の地域事業部があるが、これらの事業部とも連携し、店舗・地域の両面で地域活性化を深掘りしている。

良品計画のソーシャルグッド事業部、千葉事業部を兼任しているのが執行役員の河村玲氏だ。「無印良品の店舗を通じて地域資本が循環する仕組みを広げ、地域活性化とともに日本の産業の再興に寄与したい」と話す。河村氏が担当する千葉県の南房総エリアは地方創生のロールモデルとして注目されており、週末に限らず地元の家族連れや他県からの来訪者で賑わいを見せている。

「無印良品」が千葉県南房総で目指す「地域循環」をテーマにしたコミュニティデザイン
5月に行われた田植えに参加する良品計画の河村玲氏(画像=「セブツー」より引用)

南房総エリアでは、2014年から「食と農」をテーマに「無印良品」らしいコミュニティデザインを展開している。まず、地元のNPO法人と共に鴨川市の釜沼北集落にある天水棚田で、棚田と里山の保全活動である「鴨川里山トラスト」を開始した。コロナ禍を除いて毎年、田植えと稲刈りを実施しており、その活動も今年で10年目を迎えている。

2017年4月には、鴨川市と「地域活性化に関する協定」を締結し、「無印良品」の店舗が併設する「里のMUJI みんなみの里」をオープンした。「里のMUJI みんなみの里」では、地元の農家が手掛けた野菜や果物を産地直送で販売しており、加工品販売の支援として開発工房も設けている。

「無印良品」が千葉県南房総で目指す「地域循環」をテーマにしたコミュニティデザイン
(画像=「セブツー」より引用)
「無印良品」が千葉県南房総で目指す「地域循環」をテーマにしたコミュニティデザイン
(画像=「セブツー」より引用)

2023年になると、鴨川市長狭地区にある築100余年の古民家を宿泊施設として「無印良品」がリノベーションした「MUJI BASE KAMOGAWA」をオープンしている。156平方メートルほどの広さで、敷地には庭もあり、地元の文化や食材を活かした生活を体験することができる。

さらに、鴨川市では農家の所得向上とお米の新たな価値創造を目指して、インディカ米とジャポニカ米を掛け合わせた「プリンセスサリー」を栽培し、2023年秋に初めて収穫された米の全量を良品計画が買い取って、商品化を実現している。「プリンセスサリー」はパラパラした食感で香りの良いインディカ米の「バスマティ」ともちもちとした食感の国産うるち米の特徴を併せ持っており、カレーやチャーハン、それにアジア料理によく合う米として人気で、6月20日から千葉県の29店舗の「無印良品」で先行販売を開始し、7月17日からは全国160店舗に拡大する。「プリンセスサリー」は、300グラムで税込540円(ネットストアでは2キログラム 税込1680円)。

「無印良品」が千葉県南房総で目指す「地域循環」をテーマにしたコミュニティデザイン
(画像=「セブツー」より引用)

今年5月には、「鴨川里山トラスト」の天水棚田で「無印良品」の顧客らが参加して田植えが行われ、河村玲氏を始め、千葉事業部長の秋吉武士氏や今年4月に入社したばかりの新卒社員らも参加した。「鴨川里山トラスト」を良品計画と共同で運営しているNPO法人うずの林良樹氏は、「ここをみんなの故郷にしていきたいと思っています。このエリアは生物多様性の宝庫で、夏には蛍も現れます。今はオンラインで働ける人も増えてきましたので、この棚田にも働く場として電気やインターネットを導入して田植えをしながらデスクワークができる場所にします。働きながら空いた時間には米や野菜を作って、そういった健康的なライフスタイルをみんなで作っていきたい」と、今後の展望について語る。

「無印良品」が千葉県南房総で目指す「地域循環」をテーマにしたコミュニティデザイン
(画像=「セブツー」より引用)

田植えを行ったこの日は、絶滅の危機に瀕しているアカハライモリも田んぼに現れ、まさに生物多様性の宝庫であることを証明した。河村氏はこうした取り組みの目的について、「地域が抱える課題を解決し、地域に住んでいる皆さんと一緒になってその土地の魅力を引き出していくことで、地域の活性化に貢献していきたい」と話す。

地域にもともとある資源を新しい価値として捉えなおし、そのエリアにコミュニティを創出していくことで持続可能な社会へと発展していく。「無印良品」のこうした活動は、これからの日本の進むべき未来に大きな示唆を与えるものとなるはずだ。