特集『令和IPO企業トップに聞く〜経済激変時代における「上場ストーリーと事業戦略」』では、令和以降に新規上場された経営者にインタビューを実施。 上場までの思いや今後の事業戦略、思い描いている未来構想について各社の取り組みを紹介する。
著書:
「ハック思考〜最短最速で世界が変わる方法論〜」 (News Picks Book)、
「90日で成果をだす DX(デジタルトランスフォーメーション)入門」(日本経済新聞出版社)
「総務部DX課 岬ましろ」(日経BP日本経済新聞出版)
「AIドリブン経営」(日経BP日本経済新聞出版)
事業の変遷について
ーー事業の変遷について教えてください。
株式会社Kaizen Platform 代表取締役社長・須藤 憲司氏(以下、社名・氏名略):
まず私たちは2013年にアメリカで現地法人として起業しています。当時はWEBサイトの改善において効果検証を行うABテストの事業で創業しました。
私が前職のリクルート時代に感じていたことですが、WEBサイトは常に改善が必要なものなのですが、特に大企業では、関連する業務を外注しているケースも多く、継続して改善することはなかなか難しい状況にあります。そのため、WEBサイトのABテストの観点から、ツールとチームを提供して、プロジェクトに伴走するサービスでスタートしました。 アメリカでは、WEBサイトを自社で内製化していることも多く、当初は伸びを感じにくかった一方、外注する傾向が強い日本の環境が有利に働き、着実に事業は伸びていきました。
その後、2016年に日本の法人にインバージョンし、2020年にはマザーズに上場しました。最近では、デジタルマーケティングのBPOサービスでKPI最大化による売上成長を支援する「グロース」という事業に加えて、コンサルティングから開発まで、幅広く支援することで、企業のDXや新規事業開発を進める「トランスフォーメーション」という2軸で事業を拡大しています。
ーー貴社が解決する日本の社会課題とは何ですか?
須藤:生産性の課題になると思います。生産性において海外と差がついている理由は、日本独自の雇用習慣にあります。生産性を上げるにはDXが必要になりますが、日本では社員の解雇が難しいため、元々アナログの会社がデジタルに変わるのはとても難しい環境にあります。
前職のリクルートでは、当時所属していた10年間で紙媒体の売上とネットでの売上が逆転したことを経験しています。その理由は、デジタルに対応した社員で構成される組織に変わったからです。リクルートの離職率は当時約8%ほどであり、10年間で8割の社員が入れ替わっています。しかし、これはリクルートだからできることであって、雇用の流動性が低い日本では、社内の人材が入れ替わることによるDXには限界があります。
この雇用習慣があるからこそ、DXで生産性を高めるには、アウトソーシングが必要なのです。この領域において、私たちは実際にプラットフォームに1万2000人ほどのデジタル人材を集め、お客様のビジネスに伴走するチームを提供するビジネスをしています。
ーー2023年度のグロース事業とトランスフォーメーション事業それぞれに対する総括を教えてください。
須藤:グロース事業は、創業当時から行っているWEBサイトの改善や制作、動画を使った集客、そしてCRMの改善をするという3つに分かれています。その中でも、動画を使った集客は2年ほど前からシュリンクしていきました。一番の要因は、プライバシーの観点でWEB上のターゲティング広告に対する規制が厳しくなってしまったからです。それに応じて同じ人に何度も対象の広告が当たることがなくなり、動画のニーズが減ってしまいました。
一方で、サイトの改善やCRMに関しては伸びていきました。規制によりターゲティング広告の効果が悪化した結果、その分をサイトの改善やCRMで補う必要が出てくるためです。このようにセグメントの中で転換が起こったのが昨期でした。
また、トランスフォーメーション事業においては、コンサルティングのサービスに加えて買収したSESの事業が伸びていることから、大きく進捗がありました。コンサルティングのサービスが伸びている中で、その後の工程である開発を加えたことで、より継続してお客様をご支援させていただけるようになりました。トランスフォーメーションは、新しいチャレンジをしっかりと形にした1年だったなと思っています。
上場を目指した背景
ーー上場を目指した背景や思いについて教えてください。
須藤:創業当初よりVCの出資があったため、どこかのタイミングで上場かM&Aを含めたEXITは常に考えておりました。ちょうど上場準備期間中にコロナ禍になってしまい、世間一般の人々や社内のメンバーも含めて絶望的だと感じていましたが、私は全く逆の好転的な考えを持っていました。これを機に日本でDXはすごく進むと確信していたからです。
この確信に至った理由は、2つあります。1つは金融緩和です。コロナをきっかけにマーケットがシュリンクすることから確実に金融緩和が入ると思っていました。2つ目は非対面、非接触化のニーズが加速することです。
実際に、サービスの需要も伸び続け、IPOの準備をする中でも、これは逆にチャンスだと感じられたのです。実際にそこで獲得した資金を使って、元々やりたかった制作と開発の会社をM&Aでグループインしていただきました。これを通じて、当初から考えていた、コンサルティング、デジタルマーケティング、制作や開発の一連のプロフェッショナルサービスを揃えることに成功しました。
ーー今後の事業戦略や展望は何かありますか?
須藤:私たちは、企業のトップラインになるセールスマーケティングに特化しており、このような攻めのDX支援を強化し続けたいと思っています。今のDXサービスの9割は守りのDXと言われるような、労務管理や法務管理、経理システムが多くを占めています。しかし、マッキンゼーのあるリサーチによると、営業やカスタマーサービス、プロダクト開発などの攻めのDXのほうが、AIによって大きく影響を受けると言われているのです。
ここで私たちがやりたいことは、お客様の攻めのDXを人とAIを使って変えていくことです。AIは、大規模な開発を少人数で実現することを可能にします。今後の事業戦略は、「なめらかな働き方で世界をカイゼンする」という私たちのミッションに沿って、AIを使って「少人数で大規模なカイゼン」を提供し続けることです。
今後のファイナンス計画や重要テーマについて
ーー今後のファイナンス計画や重要テーマについて教えてください。
須藤:重要なテーマとなるのは、新たなビジネスモデルです。これまではクラウドサービスとBPOのサービスで、サブスクリプションの形でお金をいただいておりましたが、今ではM&Aによって制作や開発までできるようになりました。これによって3つのビジネスモデルを考えています。
1つ目は、既存にもある通りのソリューションを提供し、お客様から対価をいただくものです。また、2つ目はジョイントベンチャーやレベニューシェアのようにお客様と事業を共創するモデルです。最後に3つ目は、プライベートエクイティのように会社を買収し、DXを通じて企業価値を最大化した上でエクイティにて利益を上げるモデルです。
これまではこの2つ目、3つ目のビジネスモデルを実行するために2025年までにケイパビリティを揃えることを目標にやってきたのですが、それが今では準備ができた状態になります。したがって、これらのビジネスモデルにも注力していくことが今後の重要なテーマです。
今後のファイナンス計画としても、引き続きM&Aは行っていきたいと考えています。先ほども述べた通り、生成AIを用いることで、大規模な開発を少人数でも行えるようになってきます。これまでは私たちが、プロフェッショナルサービスを提供することで対価をいただいてきましたが、これからはM&Aを通じて会社を買収し、AIを使って企業価値を高めてエクイティで利益を得るようなAIが稼いでくれるビジネスモデルも考えています。最終的には、AIを用いて小資本でも稼げるようなモデルを確立することで、収益モデルを多様化していきたいです。
ZUU online ユーザーに向けて一言
ーーZUU onlineのユーザーに向けて一言お願いします。
須藤:現在日本株が好調であったり、新NISAが整備されたりと投資環境が整ってきた中で、今後もDXの市場は拡大し続けると思います。日本では労働人口が足りなくなる一方であり、この10年間はさらに人口減少が加速し続けます。現在はその中でも守りのDXに注目が集まりますが、そこには限界があり、今後は攻めのDXが必要となってきます。これまでは「AIは開発するものや高度な人材が扱うもの」と認識されていましたが、だんだんとオープンソース化が進み、使う時代へと変化してきているからです。AIを活用することで、ただ雇用を補うのではなく、企業のDXを加速させ市場を前進させるアクセラレーターパートナーとして注目していただけると嬉しいです。
- 氏名
- 須藤憲司(すどう けんじ)
- 社名
- 株式会社Kaizen Platform
- 役職
- 代表取締役