本記事は、工藤紀子氏の著書『レジリエンスが身につく 自己効力感の教科書』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。
自己効力感とは?
自己効力感は、
「自分ならできる」
「自分ならきっとできるはず」
「自分なら乗り越えられる」
「うまくやり遂げられる」
と、自分の能力や可能性を信頼できることです。
自己効力感を提唱したスタンフォード大学教授の心理学者アルバート・バンデューラ博士は、自己効力感を「自己の能力への確信と信頼」と定義しました。これは、ある目標や行動に対して「自分ならやればできる」と信じる度合いを表します。自分を信じる度合いが強ければ、目標の達成がたとえ困難だと感じても、諦めずに頑張ることができるのです。
博士は、「人は誰でも、力強い自己効力感を持てば、なんでもできる」「人々の日々の生活の中で、自己効力感の働きほど影響力のあるものはおそらく他にない」と述べています。
自己効力感が高いと、ビジネスはもちろん、何か新しいことにチャレンジするときや、困難な問題に直面したときなどに、その状況に対処するために必要なものはすべて自分の中にあると考えられます。
この感覚が自己効力感の先にある、逆境や失敗を成長の糧にして一歩踏み出す力となり、「レジリエンス」を高めることにつながるのです。
自己効力感は、行動に直結するモチベーションを生み出し、それを高める源であり、行動に変化をもたらす先行要因であると考えられています。
現在では、ビジネスや経営、教育、スポーツ、健康、予防医学などさまざまな分野で注目され活用されています。
自己効力感と自信との違い
「自信」という言葉は日常的に使われています。自信にあふれている人がいる一方で、なかなか自信が持てず、もっと自信を持てたらと思う人もいるでしょう。
では、自己効力感と自信はどう違うのでしょうか。
広辞苑(第七版)には、自信は「自分の能力や価値を確信すること。自分の正しさを信じて疑わない心」とあります。自分が自分をどう思うか、つまり「自分自身」に対して信じることができているということです。ここに根拠は必要ありません。
それに対して、自己効力感は、自分の「能力」や「可能性」に対して信じることで、明確な根拠に基づいた自信であるといえます。自分の経験やスキル、能力や可能性を信じて「自分はできる」と思える根拠となるのは、過去の成功体験やそこまでの努力、学習したことやスキルの習得などからきています。
自己効力感が「科学的に高めることができる自信」だといわれているのは、実践や経験を積むといったトレーニングで高めることができるからです。
自己肯定感との関係
日本では、「自己肯定感」という言葉が広く知られるようになりました。
私は企業や教育現場で、長年自己肯定感の研修を実施していますが、そこでは、自己肯定感と自己効力感が密接に関係している事象を数多く見てきました。
2つの関係を理解することは、望む結果を得るための行動を起こすときに非常に重要です。
自己肯定感は、「自分という存在」を好意的、肯定的に受け止め、長所だけではなく短所なども含めて自分をありのまま認め、自分を信頼している感覚です。
一方、自己効力感は、「自分が持っている能力やスキル」を使うことに自信があるという感覚です。
自己肯定感が高いと、自己信頼も高くなります。
自己肯定感が高く自己信頼が高い状態になると、自分の経験や努力、学習やスキルの取得におけるプロセスを肯定的に受け止めることができるため、それらを活用して自分の能力を信じる根拠をつくることができます。これが自己効力感の基盤となります。
自分への自信は自己信頼がないと脆くなるので、自己肯定感が低いと自己効力感を強化することは難しいのです。
例えば、「仕事で大事なプレゼンに失敗したとき」に、その受け止め方や次回に向けた意欲などに、自己肯定感と自己効力感の高低はどのように関係しているのか。その違いを見ていきましょう。
ご自身に当てはめて考えてみてください。
自己肯定感が低い状態
仕事で大事なプレゼンに失敗したときは、過度に自分を責めてしまい自分には能力がないと思い込んでしまいます。自分と失敗をイコールで考えてしまうので、自信をさらに喪失します。新たな取り組みに対しては、「また失敗してしまうかも」と消極的になるかもしれません。自己肯定感が低いと、自己効力感は低くなる傾向があります。
自己肯定感が高い状態
仕事で大事なプレゼンに失敗したとしても、プレゼンの失敗と自己価値を切り離して考えられます。多少落ち込んだとしても、失敗を柔軟に受け止め、何が良くなかったのかを客観的に分析して学び、失敗を成長の機会と捉え、次の機会に生かすことができそうです。自己肯定感が高くなると、自己効力感は高くなる傾向があります。
自己効力感が低い状態
プレゼンの前から自分はうまくやれると信じていない状態です。そのため、仕事で大事なプレゼンに失敗したときは、〝やっぱり、うまくいかなかった!〟と自分を責め、その出来事を大きな挫折と受け止めてしまうかもしれません。
もともと自分がやることに自信がない上に、自分に能力がないから失敗したと捉える傾向が強いので、次の挑戦に対しても消極的になりそうです。自己効力感が低い状態で失敗すると、自己評価にも悪影響を与え、自己肯定感を低下させます。
自己効力感が高い状態
自分にはできると信じる気持ちがあるので、仕事で大事なプレゼンに失敗しても、どこが良くなかったのかを冷静に分析し、改善のポイントを見つけてスキルの向上を目指そうとするでしょう。自己効力感が高い状態で失敗しても、動じることなく、次の成功に向けた強い意欲で準備や努力を続けられます。
自己肯定感が高いと、総じて自己効力感は高い傾向になり、自己肯定感が低いと、自己効力感は低くなる傾向があるのです。
外資系企業に勤務しながら、「自己肯定感(セルフエスティーム)の向上」について研究し、誰でも自己肯定感が高まる独自のメソッドを確立。2005年から約2万人に個人向け講座を行い、2013年に一般社団法人日本セルフエスティーム普及協会を設立し、代表理事を務める。キリンビール株式会社やNTTグループ、住友化学株式会社など多くの上場企業で、のべ1万人以上に研修を実施し、満足度評価は96%超。全国の中学・高等学校、行政機関でも研修や講演を行っており、平成31(2019)年度版『中学生の道徳』(Gakken)の教科書と教師用指導書を執筆した。
著書に『そのままの自分を受け入れて 人生を最高に幸せにしたいあなたへの 33の贈り物』(三恵社)、『職場の人間関係は自己肯定感が9割』(フォレスト出版)などがある。
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