本記事は、工藤紀子氏の著書『レジリエンスが身につく 自己効力感の教科書』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

Impostor Syndrome is shown using the text picture of masks and crown
(画像=Andrii / stock.adobe.com)

私たちが自信(自己効力感)を持ちづらい背景

内閣府の「子供・若者白書」や他の国際調査で、日本の子どもたちや青少年の自己肯定感が低いことが指摘されるようになって10年以上になります。

未来を切り拓く力となり、次の一歩を踏み出す力となるのが自己効力感だとすると、その前に、自分自身を認めて自分は大丈夫と信じられる自己肯定感が必要なのです。

子どもの頃からの自己肯定感の低さが自信のなさにつながっている

経済的な豊かさは向上し、人生の選択肢も増えているはずなのに、日本の子どもたちは逆に「自信」を失っています。

自己肯定感が低いことで「自分は大丈夫」「自分の将来は明るい」「未来は自分の力で拓ける」というポジティブな感情が持ちづらくなっています。そのため、自己効力感も低い状況なのです。

教育改革実践家の藤原和博氏は、子どもたちを見ていると、叱られることや失敗を恐怖するあまり、叱られないように、失敗しないように振る舞う態度が顕著になっているといいます。

親は子どもに対して「早く、ちゃんとできる、いい子」を望みます。熱心な親や先生であればあるほど、褒めるより注意することのほうが多いでしょう。すると、子どもは知らず知らずのうちに自信を損なってしまうのです。

ビジネスパーソンはどうでしょうか。

これまで10年以上、多くの企業で自己肯定感を軸にした人材育成や組織開発の研修を実施してまいりました。現場で感じるのは、大人になって社会で働くようになったからといって、自信が持てるようになるわけではないということです。

むしろ、自信をなくす出来事のほうが多い中で、いかにそれを糧にリカバーして自信にしていけるかが問われています。

自信を妨げるインポスター症候群

昨今、ビジネスパーソンが自信を持てない要因の一つに「インポスター症候群」が挙げられています。

インポスター症候群とは、自分の能力や実績を認められない状態を指します。仕事でうまくいっても、周囲から高く評価されても「これは自分の実力ではなく、運が良かっただけ」「周囲のサポートがあったからに過ぎない」と思い込み、自己を過小評価してしまう傾向のことです。

インポスター(impostor)は詐欺師、ペテン師を意味する英語です。仕事でうまくいっても自分のキャリアは〝まがい物〟だと後ろめたく感じて、自分には能力がないと不安に感じるのが特徴です。

組織行動学のアンディ・モリンスキー教授は著書の中で、スターバックスの会長、社長、CEOを歴任したハワード・シュルツは、「CEOに就任するすべての人が不安を感じていて、自分がこのポジションにふさわしいという自信を持っている人はめったにいない」と述べています。

心理学者のキャロル・ドウェックによると、この症状に悩む人は、成果を重視する人が多いといいます。成果重視の人は、自分は力不足だという気持ちになる傾向があります。失敗すると自己の限界を強く感じてしまうため、自分はこの仕事にふさわしくないという懸念が増幅し、自信を喪失するのです。

前出のアンディ・モリンスキーは、インポスター症候群を克服するには、「成果重視」から、その体験から自分が何を学べるかに意識を向ける「学習重視」の発想に変えることが効果的だとすすめています。

「学習重視」の発想になれば、失敗は力不足の証拠とはならず、学習につきもののプロセスとして自分を成長させてくれると捉えることができるからです。

企業でも、とても仕事ができるのに自信が持てず、インポスター症候群だと自覚されている人が少なくありません。

そのような人の多くは、自分の価値を外的要因に左右されやすい仕事の成果や能力、資格などで支える傾向があります。そのため、仕事の成果が上がらなかったり、能力がないと思えることがあったりすると、一気に自分への評価が低くなり自信をなくしてしまうのです。

自己肯定感の研修でインポスター症候群の傾向が改善されるケースが多くあります。それは外的要因に左右されない自分にゆるぎない価値を見いだしていくからです。

ビジネスの現場で求められているもの

企業が力を入れたいテーマとして注目しているのは、「能動的に自分で考え動ける人材(自律型人材)の育成」「仕事における困難を乗り越えられるマインドの醸成」「メンタルヘルス、ストレスマネジメント」などです。

ビジネスの現場で求められているのは、前例がないとやらない「前例主義」やリスクがあることは避けて通る「事なかれ主義」を打破してくれる人。

つまり、前例がなくても能動的に先例を自分が示していこうとする人や、困難や難題に対して、逃げたり避けたり断ったりせず、まずやってみて、失敗しながら試行錯誤を繰り返していけばいいというイノベーターのマインドを持てる人です。

そこには、予期せぬトラブルやリスクがあっても、チームで向き合い、人として成長していける、社員の人生を豊かに幸福にする組織風土をつくっていきたいという企業の思いが伝わってきます。

企業が組織の中で抱えている課題を解決するために、働く人の人的資源である「自己肯定感」や「自己効力感」、「レジリエンス」からのアプローチが注目され、研修では実際に効果を上げています。そのような社員の人的資源を大切に育てていこうとしている企業が増えているのです。

自己効力感の教科書
工藤 紀子(くどう・のりこ)
一般社団法人日本セルフエスティーム普及協会 代表理事
外資系企業に勤務しながら、「自己肯定感(セルフエスティーム)の向上」について研究し、誰でも自己肯定感が高まる独自のメソッドを確立。2005年から約2万人に個人向け講座を行い、2013年に一般社団法人日本セルフエスティーム普及協会を設立し、代表理事を務める。キリンビール株式会社やNTTグループ、住友化学株式会社など多くの上場企業で、のべ1万人以上に研修を実施し、満足度評価は96%超。全国の中学・高等学校、行政機関でも研修や講演を行っており、平成31(2019)年度版『中学生の道徳』(Gakken)の教科書と教師用指導書を執筆した。
著書に『そのままの自分を受け入れて 人生を最高に幸せにしたいあなたへの 33の贈り物』(三恵社)、『職場の人間関係は自己肯定感が9割』(フォレスト出版)などがある。
レジリエンスが身につく 自己効力感の教科書
  1. 必要なものはすべて自分の中にあるーー自己効力感とは?
  2. 自信を持ちづらい背景は子どもの頃に原因が?
  3. 自分が目指す成功への道筋を明確にするのに役立つのは?
  4. 他者からの言葉を効果的に自分のものにするには?
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