本記事は、田中 はじめ氏の著書『世界最高峰の研究者たちが教える ストレス解消法』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。
仕事の途中で話しかけられるストレス
忙しいときに話しかけられるのは誰にとってもイヤなことです。また、集中して仕事をしているときに邪魔をされるのもイヤなことだと思います。
「話しかけられた後、なかなか集中できなくなってしまった」「計算をしていたのに、どこまで計算したか忘れてしまった」「いいアイデアが思いつきそうだったのに……」という経験をしたことがある人は多いのではないでしょうか。
スイス連邦工科大学チューリッヒ校のジャスミン・カーは、実験の参加者を90人集めて、研究室を実際のオフィスのように机とパソコンを並べ実験を行いました。
実験では、参加者は保険会社で働いているふりをして、コピーを取ったり、販売数の計算、予約のスケジュール設定など、さまざまな事務作業を可能な限り実行しなければなりませんでした。
参加者が仕事をしていると、2人の俳優が人事担当者のふりをして部屋に入ってきて、参加者たちに追加の仕事を頼みました。参加者たちは3つのグループに分けられ、1つのグループの参加者には簡単な仕事をお願いし、その他の2つのグループの参加者たちには、通常の仕事をしながら、心理的ストレスがかかる仕事(オフィスでの昇進試験に応募する)をお願いしました。
心理的ストレスがかかる仕事をお願いされた2つのグループのうちの1つのグループには、途中でアンケートと唾液サンプルを取ることによって仕事が中断されました。
もう1つのグループは、アンケートと唾液サンプルを取り、さらにチャットで仕事の進捗を送るように頼み仕事の邪魔をしました。
これらの3つのグループのストレスレベルを計測しました。その結果、心理的ストレスのかかる仕事を頼まれた2つのグループの参加者たちは、心拍数が上昇し、唾液中の「ストレスホルモン」であるコルチゾールの放出が多くなりました。
心理的ストレスがかかる仕事をした2つのグループの間には顕著な違いがありました。チャットで仕事の進捗を送るようにお願いされたグループの参加者たちは2倍のコルチゾールレベルが計測されていました。やはり仕事の中断が増えるとストレスも増えことが証明されました。
会社で働いていると、上司や部下から話しかけられることは仕方がないことですが、できるなら午前中は打ち合わせや会議をする時間、午後は仕事に集中する時間など切り替えができるように工夫ができるとストレスがかからず効率も上がると思います。
自分が上司の立場だったら「何か相談があるなら午前中にして」と伝えておくのもいいと思います。
ただ、自分が部下の立場だった場合はなかなか仕事のコントールができないと思いますので、集中したいときは少し話しかけづらいシチュエーションを意図的につくるなどの工夫が必要だといえるでしょう。ただ、その後に仕事がしづらくなるので、話しかけるなオーラの出しすぎには注意をしてください。
ストレスがあることで記憶力が高まることもある
ストレスがあることは悪いことなのでしょうか?
現在の社会でストレスを抱えていない人は一人もいないといっても過言ではありません。
テクノロジーが発達して、仕事、友達、恋人、親などと、どこにいても、どんな時間でも連絡が取れる状況になっています。こんな状況ではなかなか自分のスイッチをオフにすることはできません。常にオンになっている状況なので誰でもストレスは自然と抱えてしまいます。
もちろん過度なストレスは心身ともに悪影響で、病気になってしまう可能性もありますので、十分に気をつけなければいけません。朝起きられなかったり、食事ができない、夜眠れないなど体に症状があった場合は、この本を置いてすぐに病院に行ってください。
最近、少しのストレスであれば記憶力がUPするという研究結果が発表されました。
米国ジョージア大学のアサフ・オシュリらが1,200人以上の健康な若年成人を対象に行った新しい研究によると、精神的ストレスは一定のレベルを超えた場合にのみ有害であり、中程度のストレスの場合では有益な効果をもたらすことがわかりました。
この研究では、参加者が特定の道具や顔を認識する記憶力のテストを実施しました。その間ずっと、参加者の脳はスキャンされていました。
記憶テストを行っている最中の脳活動を見てみると、ストレスのレベルが高い参加者は、短期記憶(ワーキングメモリとも呼ばれる)をつかさどる脳の領域の活動が少ないことに気づきました。一方、低から中程度のストレスの参加者は、脳内のワーキングメモリの活性化が高い状態でした。これは、記憶テストの結果とも相関がありました。
この結果から、少しのストレスは、記憶力を高めるのには役立つということがわかりました。ストレスが必ずしも脳の機能に有害ではないことがわかりました。
興味深いことに、今回の研究では、家族や友人がいる人はストレスを低から中程度に自分のストレスを管理できる人が多く、記憶テストは良い結果が出ました。ストレスがあることが少しプラスに考えることのできる研究です。
時間を忘れて集中することはいいことなの?
「スマホで映画を観ていたら、気づいたら3時間経っていた」
「本を読んでいたら、没頭しすぎて2駅ほど乗り過ごしてしまった」
「楽器を演奏していたら、いつの間にか悩みごとをしていたのを忘れた」
このように集中力が高まり、時間が経つのも忘れてしまい、夢中になっている状況を心理学用語で「フロー体験」と呼びます。フローを経験すると、私たちは非常に効率的になり、時間を忘れる傾向があります。
フロー体験は多くの場合、ポジティブな経験です。自分が好きなことをしているときに起こることが多い現象だからです。では、フロー体験は精神的には良いことなのでしょうか?
オーストラリアのメルボルン大学のエマ・ガストンらは、スウェーデンの患者登録簿に登録されている9,300人の実際の診断書を使用して調査しました。その結果、フロー体験を経験しやすい人は、うつ病、不安神経症、統合失調症失、双極性障害、ストレス関連障害、心血管疾患などの特定の疾患リスクが低いことがわかりました。
私たちがフロー状態にあるとき、私たちは自分の人生を振り返ってみたり、将来を心配したりする時間が減っている可能性があります。
それは単に、私たちが忙しく、やりがいのある経験をしているからです。
ですから、もしあなたが好きなことをしていて、空間と時間の感覚が失われてしまうのであれば、少なくともその瞬間は、それがあなたにとって良い時間を過ごせているということです。没頭できる時間は私たちにとってとても貴重な時間です。
たまには、自分の好きなことに時間を使って、フロー体験をしてみると、嫌なことやストレスが軽減できるかもしれません。とはいっても、好きなことをしていても必ずフロー体験ができるわけではありません。
あなたが時間を忘れるくらい没頭できものを探してみてください。
就活で出版社のみを志望するが全滅。大学卒業後は、コンサルティング会社、出版社勤務を経て独立。
出版社勤務時代は、プロデュースや書籍編集、ブックライティングなどを担当。携わった書籍は300冊以上。
ビジネス書や人文書を多く手掛ける。趣味は釣り、スノーボード、草野球。現在はフリーの編集者。