本記事は、枡野 俊明氏の著書『気にしないコツ』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

競争社会を生き抜くための「仕事の哲学」
結果自然成 - 目先の結果を求めない。やることを一生懸命にやる。そうすれば、放っておいても結果は自然についてくる。
「周りが次々と成功していくのに、自分は何をやってもうまくいかない」
「競争が激化している中で、どうしても他人と比べてしまう」
「上司や同僚からの期待に応えられず、プレッシャーに押し潰されそうだ」
現代社会が競争社会であることは否定できません。誰にでも競争心があり、その競争心が努力へとつながるのは自然なことです。会社で同期社員が営業成績のトップを取ったり、周囲の誰かが成果を上げていたりするのを見ると、このような焦りが生まれるものです。
しかし、この焦りから目先の成果ばかりに執着し、結果だけを追い求めると、本来の大切な部分を見失ってしまいます。
営業職で同期の成績を追いかけるうちに、「売れさえすればいい」と考えてしまったとします。すると、商品のメリットだけを顧客に強調して売り、アフターフォローを怠るようなビジネススタイルになるでしょう。
その結果、一時的に営業トップになるかもしれませんが、長期的には顧客との信頼関係を築けず、成果は続かなくなります。顧客は二度とその営業担当者と付き合いたいとは考えませんし、ましてやほかの顧客を紹介してくれる可能性などないはずです。
一方、真摯に顧客と向き合い、そのニーズを理解したうえで、メリットもデメリットも含めて、正しい商品説明を行い、アフターフォローも丁寧に行う取り組みではどうでしょう。いたずらに結果を求めるのではなく、やるべきことを精一杯やるスタイルです。
結果は急速に出るわけではないかもしれません。しかし、顧客との信頼関係が深まり、その結果として紹介を受けることも増え、ビジネスが自然と広がっていきます。
一気に成績が上昇することはないかもしれませんが、ゆっくりと着実に成績は伸びていくに違いありません。
焦らず、目の前の集中してやるべき仕事を全力でやれば、やがて同期を抜いて営業トップに立ち、その地位を揺るがないものにすることができるでしょう。その結果、焦ることなく自分のペースで成長していける。最終的には自信を持って成果を手に入れられるのです。
これは、やることを精一杯やった結果です。焦りから結果を求めすぎると、無駄な執着や邪念を生んでしまいます。目の前の仕事に一生懸命に取り組めず、次第に本来の目的を見失います。すると、その執着や邪念に縛られ、振りまわされることにもなるでしょう。
結果はあくまで「後からついてくるもの」であり、無理に追い求めようとしても、思い通りにはなりません。焦らずおおらかな気持ちで、自分のやるべきことを精一杯やり続けるのです。
今、目の前にある仕事を全力でこなす
結果を手放す仕事術
巖谷栽松 - 岩の多い切り立った谷に松を植える。「巖谷」は迷いの中にいる人びとの心を、「松」は仏の教えを表す。すぐに結果は出なくても、「今」教えを説くことが、いずれ人びとの心の安心につながる。
「なぜ、そのような場所に松を植えるのか?」
臨済禅師はこう答えます。
「一つには景観のため、二つには後人の標榜のため」
標榜とは、後の修行者たちが「先人たちはここで修行をした」とわかるようにする目印のこと。いずれにしても、松が成長するには時間がかかるため、その2つの目的が達成されたかどうかを臨済禅師自身が確認はできません。
しかし、あえて松を植えたのです。目先の結果にとらわれることなく、今の自分にできることに力を尽くす。この禅語は、「すぐに結果を求めず、目の前のことに誠実に向き合う大切さ」を私たちに教えてくれているのです。
行動を起こしたら、その結果をたしかめたくなるのが人間の自然な感情です。仕事で一生懸命に頑張れば、周囲に評価されたいと望みますし、誰かを好きになれば、その思いに応えて欲しいと願うものです。誰かのために尽くせば、感謝の言葉を期待してしまうのも無理はありません。
こうした気持ちになるのは自然なことですが、「結果が出ないならやりたくない」「可能性がないならやらない」と、心の奥で思っている人も多いのではないでしょうか?
あなたが、業績が落ち込んでいる部署の整理を任されたとします。その部署を失くすのが仕事なので、やりがいを感じにくいかもしれません。目立たず、評価もされにくい仕事でしょう。
だけども、その仕事を真剣にやり遂げれば、次に働く人たちがスムーズに動ける可能性があります。不採算の部署を切り離したことで、ほかの部署に資金が回り、会社全体の成長につながる利点もあるでしょう。
結果も、成果も、次世代が出せばいい。時間がかかるのであれば、その次の世代でもいい。自分は今その地ならし、土台づくりをやってやる。そう考えたら、やる気がみなぎってきませんか? 自分が直接その成果を感じられなくとも、仕事の土台を整えたことには、大きな価値があるのです。
結果に頓着しなくなると、やるべきことが明確になり、その取り組みに自信を持てるようになります。すぐに結果を求めるからこそ、やる気がそがれるのです。今やるべきことをしっかりとやる。それが本当のやる気を生むのです。
目先の「結果」を追わない

禅僧、庭園デザイナー、教育者、文筆家。曹洞宗徳雄山建功寺住職。多摩美術大学名誉教授。
大学卒業後、大本山總持寺にて修行。以降、禅の教えと日本の伝統文化を融合させた「禅の庭」の創作を続け、カナダ大使館庭園やセルリアンタワー東急ホテルの日本庭園など、国内外で数多くの作品を手がけている。
芸術選奨文部大臣賞(1998年度)を庭園デザイナーとして初受賞。カナダ総督褒章(2005年)、ドイツ連邦共和国功労勲章功労十字小綬章(2006年)なども受賞している。
2006年、『ニューズウィーク(日本版)』にて「世界が尊敬する日本人100人」に選出。主な作品はカナダ大使館庭園、セルリアンタワー東急ホテル庭園「閑坐庭」、ベルリン日本庭園「融水苑」など多数。2024年には最新作品集『禅の庭Ⅳ 枡野俊明作品集2018~2023』(毎日新聞出版)を刊行。
禅の精神と現代人の悩みをつなぐ語り口に、世代を問わず共感の声が寄せられている。教育の現場では、長年にわたり多摩美術大学で後進の指導にあたり、2023年、名誉教授の称号を受ける。
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