こんにちは、経済学修士号を取得後、株価推定の事業・研究を行っているT.Tです。宜しくお願いします。

「経済効果」という言葉がメディアを中心によく取り上げられていますね。最近でも「あまちゃんの経済効果」や「オリンピックの経済効果」、「楽天の経済効果」など枚挙に暇が有りません。
その言葉が有名な割には、その意味を正しく理解している人は少ないと思います。特に、試算上の無理な仮定・生産の二重計上、負の経済効果の無視などの問題がある調査が多いですが、その点の指摘は報道であまり見た事が有りません。
また、適切な手法で試算されたとして、その額が費用対効果から見てどうか、費用が別の事に使われていた時とくらべてどうかという点も、試算を見る時に重要なポイントでしょう。

今回は、「◯◯の経済効果」という調査結果や報道が出た時に、それを正しく理解出来るように以上の点について整理し、最後にケーススタディーとして「楽天優勝の経済効果」を取り上げます。

【参考】

投資家向けメディアリテラシーvol.1〜マーケットは“真実”ではなく“情報”によって動く〜
投資家向けメディアリテラシーvol.2〜メンタルコントロールの重要性〜
投資家向けメディアリテラシーvol.3〜情報収集のポイント〜
投資家向けメディアリテラシーvol.4〜投資家にとって真に必要な情報とは何か?〜
投資家向けメディアリテラシーvol.5〜投資家に一番大切なこと〜
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1.経済(波及)効果とは何か

経済効果は、経済波及効果の略称で、簡単に定義すると、「ある出来事が起きた時に、そこに新たな需要が生まれ、そこから別の生産に伝わっていく変化の過程を通し、最終的にGDPにもたらされた変化」と言えるでしょう。経済学的には産業連関表も考慮した厳密な定義が必要になると思われますが、感覚的に理解する上では上記の定義で十分でしょう。

経済波及効果の簡単な例としては、「あまちゃん」を例に出して説明すると、「あまちゃんの放映」という出来事によって「あまちゃんのロケ地である岩手県への観光消費」(直接効果)が生まれ、そこから「飲食店やホテルサービスの原材料などが増加」(一次波及効果)し、そこから岩手県民の雇用者所得が増えて新たな需要が発生し、「更に生産が増える」(二次波及効果)といった波及が考えられます。

しかし、これは経済効果の一面に過ぎず、経済効果を正しく理解しているとは言えません。

2.その試算方法は適切か

経済効果の試算はあくまでも試算であり、現実とは誤差が出て当然ですが、試算方法が不適切で良いという理由にはなりません。

観光消費の増加を試算する場合、「増えると予測される観光客数の仮定」、「一人当たりの宿泊数の仮定」、「一人当たりの宿泊単価の仮定」、「一人当たりの観光中の食費の仮定」など、様々な仮定を組み合わせて行います。本来は、適切な観光統計などを使うべきですが、そこに無理な仮定が含まれている事が多々あります。
シミュレーションは初期条件の差によって大きな誤差が出るので、最初の仮定に大きな誤差があると、二次波及・三次波及などを試算していくうちに、その誤差が拡大していく事になります。

仮定の検討は難しく、また細かな資料にアクセスしにくい事もあるのですが、比較的分り易いのが「生産額の二重計上(場合によっては三重・四重計上と酷いものもある)」です。
ご存知の方も多いと思われますが、GDP(国内総生産)は「新たに生産された財・サービスの付加価値の合計」です。100円で物を仕入れて300円で売った場合、付加価値は仕入れ値を引いて200円です。それと100円が合計されてGDPが300円になるわけで、中間生産物を二重計上してはいけないのです。突拍子もない金額が出ている試算には、まず二重計上を疑ってかかるべきでしょう。

実際、「観光収入の増加」と「雇用者所得の増加」をそのまま足したようなお粗末な推計がよくあります。観光生産の増加がもたらした収入の増加分から給与の増加分が生まれるわけですから、二次波及効果は、あくまでも「増えた所得分が生み出す新たな需要から生まれた生産」として計算しなければなりません。

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