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フランスのオランド大統領やイタリアのレンツィ首相がECBの独立性を侵害する危険を冒して言及するなど、事前の、やや過剰なリークがこのほど実現された。とうとうECBによる量的金融緩和が、大方の予想通り、スタートしたのだ。

スイッチを押したのは、スーパーマリオことドラギ総裁だ。一時は、理事会で決定していないことまで公言してほかの理事会メンバーとの不協和音が取沙汰された。とりわけ、ドイツ連銀との確執から辞任まで噂されたり、市場からの“やるやる詐欺”との陰口をささやかれたりした。今回、そうした批判をものともせず、理事会でECBの量的金融緩和政策(QEプログラム)の開始が議決された。まさに、ドラギマジックの健在ぶりを強く感じさせる決定だといえる。

QEプログラムの詳細はすでに各所で報じられているが、資産担保証券(ABS)とカバードボンドの買い入れプログラムを含む拡大された買い入れプログラムをECBは開始する。購入規模は月額600億ユーロ、期間は2016年9月末まで実施する予定。インフレ率の道筋が持続的に調整され、2%をわずかに下回る水準とするECBの中期的なインフレ目標に整合性があると確認できるまで実施することを同銀行は明らかにしている。


“バブル容認”はFRB・日銀からECBへ引継ぎ

今回のECBの政策決定を受けて欧州市場で株高、為替安が実現することに、米国や日本の例を見れば、疑いの余地はない。一方で、「独立した欧州の中央銀行がここまでFRBがとってきた金融抑圧政策の手法を、ここまでトレースするものなのか」という素朴な疑問をもつ方も多いことだろう。

ドラギ総裁のQEへの姿勢を読み解くカギは、欧州大陸からは大西洋対岸に位置する、米国・ボストンにありそうだ。

具体的には、マリオ・ドラギはMITで博士号を取得しているからだ。実は、その時の指導教官が米国FRBの現副議長であるスタンレー・フィッシャーであり、同じくフィッシャーの教え子である前米国財務長官のローレンス・サマーズとの関係も極めて近しいとされている。

FRBがとってきた金融政策はこのサマーズの長期停滞論にもとづくバブル容認論で、政策の理論的支柱であるスタンレーフィッシャーも強くこ主張を支持してきた。MIT学派できわめてフィッシャーとも近い関係にあるマリオ・ドラギも、同様の論理でQEに舵を切ったことは間違いないだろう。

昨年8月の米国ジャクソンホールでドラギに耳打ちするスタンレー・フィッシャーの姿が見られたのは記憶に新しいが、MIT人脈は想像以上に影響力が強まっているとの見方もある。黒田日銀総裁だけはMIT出身ではなくMIT人脈には入らないが、発想の根底にあるのは全く同じといえそうだ。

かくして、QEの終焉へ舵を切り始めている米国の金融抑圧・バブル容認政策はこうしたMIT人脈も通じながら日本、そしてEUへとバトンタッチされることになった。通貨安を醸成したい日・欧の中央銀行と、強いドルを容認しQEの終焉で出口戦略をスムースに実行したい米FRBの3つの金融政策当局の利害が珍しく一致した結果とも言えるだろう。