行く手を阻んだ弁護士法72条の壁

元榮氏は、1975年、米国イリノイ州生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後に司法試験に合格。2001年に現在のアンダーソン・毛利・友常法律事務所に入所した。ある上場ベンチャー企業のM&A案件を担当しているうちに、起業の道に惹かれていったという。ある引っ越し業者の見積もり比較サイトを見つけたのが引き金になった。「弁護士だってサービス業だ」とばかりに、友人・有志を集めて事業モデルを模索した。法律事務所を退所し、2005年1月に自ら現在の法律事務所オーセンスを設立。同年7月には現在の弁護士ドットコムを設立し、翌8月からサイト運営を開始した。最初のサービスは「弁護士プロフィール・弁護士検索」だった。

自身の法律事務所の執務をこなす傍らで、サイトの登録弁護士を増やそうと、足を棒にして先輩弁護士たちの下へ説明に出向く日々。ネットを活用した取り組みが、思うようには理解されず、なかなか登録数が増えていかない。もどかしさに加えて、元榮氏を阻んだのが弁護士法第72条の壁だった。『弁護士法人ではない法人が報酬目的で弁護士斡旋をしてはならない』というものだ。

結局紹介料は取れず、収入源はサイト内に設置したグーグルの広告枠から入ってくるわずかな広告収入のみ。比較的順調に推移した自身の法律事務所からの支援でどうにか持ちこたえるような苦難の船出。赤字が続いたが元榮氏は諦めなかった。「無料法律相談サービス」を開始し、弁護士にも「無料で良いですから」と登録弁護士の数を増やしていった。日本中の弁護士にPRのファックスを送り、アナログな努力を重ねて09年に登録弁護士数1000人を突破した。2012年9月にはモバイル版もスタートした。赤字は続いていたが、目指す方向性は間違っていないという信念は揺らがなかった。

メディアとしての成長という点では、2012年7月にデジタルガレージグループ、2013年2月にカカクコムと資本業務提携したことが転機となった。現在同社の社外取締役を務める村上敦浩氏は、カカクコムで「食べログ」を創設した人物。提携によって当初は同氏を顧問として迎え、ネット媒体としての強化を図ってきた。提携前は月間100万ユーザーだったサイト来訪者数は、「弁護士ドットコムニュース」の配信などが奏功して2013年中には、月間300万ユーザーを突破。

そこで満を持して開始したのが、先述した主力事業「弁護士マーケティング支援サービス」という訳だ。苦しい無料時代に、集めてきた母集団があったからこそ辿り着くことが出来た事業モデルだ。
「私自身が弁護士であることもプラスに働いたと思います。似たような狙いのサイトも有りましたが、当社は弁護士法第72条だけではなく、サイト運営上で直面する様々な法的課題を私自身が徹底的に調べつくしクリアしてきました」