レノボに見る「買収前」と「買収後」の企業価値判断

では、M&Aを成功に導くために重要なことは何か。

今年1月、レノボはIBMのパソコン(PC)サーバー部門を23億ドルで、グーグル傘下の携帯電話大手モトローラ・モビリティを21.9億ドルで買収すると発表した。買収発表後、市場には買収に懐疑的な見方が広がったため、レノボの株価は一時3割も落ち込んだ。この市場からの反応に対し、楊 元慶(ヤン・ユアンチン)CEOは、「一部の投資家はどうしても短期的な目線で見てしまう。確かに今回の買収によって、これから2~3年はレノボ全体でいろいろな調整をしなければならない」と、あくまで長期的な視野で買収成功までのプロセスを捉えている。

つまり、海外M&A成功の秘訣は「買収前」と「買収後」に大きく分け、重要性の配分を間違えないことだ。

大まかにいうと、買収前の重要度が2~3割なのに対し、買収後は7~8割と、買収後の方がはるかに重要だ。海外企業買収のゴールは、買収した企業の企業価値が向上し、株価に反映されることだ。したがって、M&Aが成功したか否か、結論を出すには、少なくとも2~3年は必要となる。同氏は「買収後の調整が進めば、レノボはさらにステップアップする。今よりもよい業績を上げ、売却しないで持っていただいている株主に、必ず利益をもたらすことができると信じている」と述べている。

また、ヒトの買収は難しいといわれる中で、楊CEOは逆に買収による人材活用の重要性を説いている。「われわれのM&Aは、企業を買うというよりも、人を買うという部分が非常に大きい。買収した企業にいる人たちは宝物。(中略)どうやって過去の実績よりも大きな仕事を成し遂げてもらうかが非常に重要だ」と言う。


M&Aの鍵となるのは中堅若手社員のグローバル化

また買収後の統合実務を推し進めるには、多国籍化への対応も重要だ。レノボでも経営陣の多国籍化が進んでおり、現在の役員は6カ国から集まっている。

日本に目を転じても、たとえば海外戦略に積極的な日本たばこ産業(JT)<2914>は、多くの中堅若手社員が買収統合プロジェクトに関わり、現地に駐在員を派遣している。これらの中堅若手社員は海外で貴重な体験を積み、現在のJT海外事業を支えている。今後、JTはさらなる海外買収に踏み込む際、これらの中堅若手社員が中核になると見込んでいる。

M&Aを数多く行っている企業の多くは優良企業である。なぜなら、M&Aは成長のための有効な方法であるだけでなく、経営を進化させることができる絶好の機会だからだ。

今後M&Aを進めていく日本企業が、どのような点に重点を置き、成功していくか注視していきたい。

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